お姉様のお悩み
自室で椅子に座り、慣れない礼服がシワにならないように座る。
『魔導具呪文一覧』を開き、転覆の呪文を確認する。
ふむふむ、基盤の裏に魔石を置くときに使う呪文だな。
ライトの躯体が届いたら、早速配線を引こう。
ああ、楽しみだなぁ。
しばらくして、ノックの音が響いた。
「アルキス様、晩餐のお時間です」
「わかった、今行くね」
俺は自室を出て、食堂に向かった。
食堂には正装した家族と、お客様が揃っていた。
俺が席に座ると、美味しそうな料理がテーブルに並んだ。
「本日のメニューは、スープと野菜サラダ、オークのステーキと、焼きたてパンです」
俺はスープから飲んだ。
鶏の旨みが凝縮された、とても美味しいスープだった。
野菜サラダを食べて、オークのステーキにかじりつく。
肉は柔らかく、ジューシーで、とても美味しかった。
ゴマのパンを3つ食べた後、デザートのプリンが配膳された。
大きめのガラスの器に、プリンが入っている。
ルルーシュお兄様が大きな器に入れろって言ってたから、この大きさになったんだろうな。
「こちらはプリンという菓子です。底にほろ苦いカラメルソースが入っております。スプーンですくって、お食べ下さい」
ガストンがそう言って、一歩下がる。
俺達はスプーンですくって、プリンを食べた。
すると、ベイクブリッド辺境伯が、感嘆の声を上げた。
「これは……初めての食感だな。ぷるぷるしていて、甘くて柔らかい。食べやすく、冷たくて美味しい。このレシピは売っているのか?」
「はい。クレベルタ商会で販売しております」
「それは良いな。帰る前に寄って、買っていくことにしよう。これは料理長が考えた料理かい?」
「いいえ、作ったのは俺ですが、考えたのはアルキス様でございます」
「ほう、アルキスは料理の才能もあるのか」
「俺は料理を趣味だと思っています。プリンを思いついたのは、たまたまです」
「それでも、凄い事だよ。いやあ、君が思いついた料理は他にもあるのかい?」
「はい、いくつかございます」
「ぜひ、食べてみたいものだ。私は珍しい食べ物に目がなくてね。至る所からレシピを買ってるんだ。君の思いついた料理を、是非とも食べさせてくれ」
「わかりました。頑張ります」
明日の午後は厨房に行こう。
何種類かはレシピを提供出来るはずだ。
プリンを全員食べ終わり、食後のお茶を飲み始めたところで、お父様が切り出した。
「ジュリア、ルルーシュ。今日の森はどうだった?」
「今日も凄くゴブリンが一杯いたわ。討伐したのは上位種含めて256体よ。今日もかすり傷もなく、帰ってきたわ」
「冒険者もちらほら見かけるようになったけど、まだ間引きは必要だろうぜ。とにかく数が多すぎる。私兵団も狩ってるのに、全然数が減らないんだ。今の森は、どっかおかしいよ」
ジュリアお姉様とルルーシュお兄様は、そのように述べた。
お父様は眉間の皺を深くして、口を開いた。
お母様は心配そうだ。
「ジュリアとルルーシュは、明日は午後からゴブリン討伐に向かって欲しい。ジュリアよ、明日の午前10時から、そちらのアストレイ様とお見合いだ。宜しく頼むぞ」
「ええ、わかったわ。お父様」
「それと、ゴブリン討伐に、アストレイ様と護衛2名が参加してくれる事になった。ジュリアとルルーシュも一緒のパーティを組んでくれ」
「わかったわ」
「わかった」
「決して足手まといにはならないと誓おう。俺は土地勘がないから、ルルーシュの後ろを歩いて行こうと思う」
「俺は盾持った方が良いかな? 明日は片手剣と盾で行こうと思う。宜しくな、アストレイ様」
「ああ、宜しく頼む」
それで俺達は解散し、自室に戻る途中で、ジュリアお姉様に呼び止められた。
「アルキス、ちょっと部屋に来て」
「うん、いいよ」
俺はジュリアお姉様の部屋に入り、ソファに座った。
対面にドレス姿のジュリアお姉様が座り、美しく微笑む。
「今日のプリンも美味しかったわ。明日も違う菓子を作るの?」
「ううん、明日は肉料理を出すと思う。お菓子はプリンじゃないかな」
「へえ、肉料理! きっと美味しいわよね。もう味見した?」
「うん。すごく美味しかったよ。ガストンがもっと美味しく調理してくれるから、楽しみにしてて」
「やったわ! それで、アルキスから見たアストレイ様って、どんな人?」
きっとそれが本題だよね。
お姉様は明日お見合いするんだから、気になって当然だ。
「すごく良い人だと思う。魔導具を集めるのが、趣味だって言っていたよ。ベイクブリッド辺境伯家に遊びに行けば、コレクションを見せてくれるって。お父様は、3ヶ月後にお伺いすると言っていました」
「きっと婚約が成立すると思って、そう言ってるのよね。アストレイ様は素敵な方だと思うわ。偉ぶらないし、丁寧だし、使用人の評価も高いの」
「良いご縁だと思うけど……お姉様は、気が乗らないの?」
「辺境伯家は格上の家だもの。ちょっと怖じ気づいても仕方ないでしょ。私はお嫁に行くんだし……この家に残るわけじゃないもの」
「お姉様なら、どこでも戦えると思うけど」
「そうね。色々考えちゃうけど、アストレイ様が私を嫁に欲しいって言ったら、お嫁に行こうかしら。まあ、気に入られたらの話だけどね」
「お姉様は美人だし、性格も良いし、戦闘力も高い。きっとアストレイ様に気に入られる。明日のお見合い、楽しんで下さいね」
「うん、ありがとう、アルキス。明日は頑張ってみるわ」
お姉様の機嫌が良くなった所で、俺はお姉様の部屋を出た。
自室に戻り、礼服から動きやすい服に着替えて、ベッドに入る。
俺はゆっくりと夢の中へと旅立っていった。




