ベイクブリッド辺境伯家
俺は執事室に行ったが、ジョルジュは不在だった。
さぁ、どうしようかとうろうろしていたら、メイドのサーラに呼び止められた。
「アルキス様、如何されましたか?」
「お客様が来てるでしょう? 俺は正装した方が良いのかな?」
「はい。奥様も正装をなさっておいでです。アルキス様も正装なさるべきかと存じます」
「わかった。ありがとう、サーラ。早速着替えるよ」
俺は自室に戻り、礼服を引っ張り出した。
普段着ないひらひらとしたシャツと、黒地に金色の糸で刺繍が入っているベストとズボン。
俺は手早く着替えて、鏡の前で髪を整えた。
トントン、とノックの音が響く。
「アルキス様、昼食のお時間です。お客様もご一緒されます」
「わかった。すぐ行くよ」
俺は自室を出て、食堂に向かった。
食堂に入ると、お父様もお母様も、お兄様も正装していた。
食堂には、お客様が着席していた。
俺は自分の席に座り、対面に座っているお客様を見る。
30代と思わしき男性は、髪は焦げ茶色で、瞳は青色。
この方が、ベイクブリッド辺境伯領主様だろう。
もう一人は、父親に似てキリッとした面構えのイケメンだ。
髪は金髪で、瞳は青色。
年齢は、多分14歳って言ってたな。
父親に比べれば、幼げな顔立ちである。
「ベイクブリッド辺境伯、この子が3男のアルキスです。アルキス、こちらがベイクブリッド辺境伯様で、隣が嫡男のアストレイ様だ」
「初めまして、エイジス・ベイクブリッドだ。しばらく世話になるから、宜しく頼むよ」
「初めまして、アストレイ・ベイクブリッドです。宜しくな」
「初めまして、アルキス・シカラーゴです。どうぞ宜しくお願い致します」
二人は笑顔で挨拶してくれた。
偉い人なのに、気さくな人なのかな。
挨拶が終わると、すぐに料理が並べられた。
料理長のガストンが一歩前に出る。
「料理長のガストンです。本日のメニューは、スープと野菜サラダ、デビルコッコのバターソテーと焼きたてパン、デザートの葡萄でございます」
「ほう。デビルコッコはBランクモンスターじゃないか。ご子息が狩られたのかね?」
「いいえ、冒険者ギルドから買い取りました。お口に合ったら幸いです」
静かに食事が進み、俺は肉汁たっぷりのバターソテーを堪能していた。
この鶏肉、すっごく美味しいな!
これで唐揚げ作ったら、最高に美味いだろうな~。
お気に入りのゴマのパンを千切りながら食べていく。
最後にデザートの葡萄を食べて、食後のお茶を啜る。
「とても美味しかったよ。これからも食事が楽しみだな」
「お口に合ったなら良かった。それでベイクブリッド辺境伯様、今日は何のご用事で参られたのでしょうか?」
「うむ。はっきり言うと、アストレイの見合いだ。近隣の子女とは全員見合いをしたが、誰も気に入らなかったそうだ。それで、3属性の使い手であるジュリア嬢と会わせてみようと思い立ったのだ」
「なるほど……。正直、うちは子爵家ですので、少々家格が釣り合わない気が致します」
「気にすることはない。特に、戦える女性は貴重だ。家に嫁に来てくれるなら、最大限配慮しよう」
「父上、まだ会ってもいないのに、気が早いのではありませんか」
「アストレイ、ここのジュリア嬢がダメだったら、随分年の離れた婚約者を得ることになるのだぞ。嫌だ嫌だと言うばかりでなく、相手の良いところを見つけなさい」
「はい……、善処します」
「そんなわけで、アストレイとジュリア嬢の婚約を、是非結びたいと思っているんだ。ジュリア嬢はゴブリン討伐で忙しいようだが、見合いの時間を作っては貰えないか」
「それでしたら、明日時間を作りましょう。見合いは午前中でも宜しいでしょうか?」
「勿論構わぬよ。アストレイ、良いな」
「はい、父上」
「では、朝食後に見合いの席を設けます。午前10時から、サンルームで見合いと致しましょう」
「わかった。宜しくお願いする」
お姉様、アストレイ様を気に入るかな?
以前お見合いした子爵家の3男は、結構強いけど性格が高慢で、お姉様はもの凄く拒否していた。
アストレイ様は、偉ぶったところがないし、良い男に見えるけど、どうだろう。
「ところで、アルキス君は最近魔導具を作り始めたんだって?」
アストレイ様は興味深そうに、身を乗り出した。
俺はお茶を飲み込み、返事をする。
「はい。まだ始めたばかりで、ランプしか作れませんが、魔導具作りはとても楽しいです」
「ランプを作れるのなら凄いじゃないか。ランプは安いものでも金貨3枚かかるからね。お家で作れるならそれが1番さ。難しいところは、どんな所だい?」
「小さな丸い基盤に、配線と呪文を書き込む事でしょうか。今まで四角い基盤で練習してきたので、そこが難しく感じます。そうだ、お父様。修理をする予定の洗濯機はありませんか。ちょっと試したい事があるのです」
「ああ、古いものならあるが、もうサビだらけだよ。それなら、倉庫にある。ジョルジュに聞いて見なさい」
「わかりました。まずはサビ落としから始めます」
「良いねぇ。俺は魔導具を集めるのが趣味でね。家には色んな魔導具があるよ。ベイクブリッド辺境伯家に一度、遊びに来たらどうかな? 俺のコレクションの魔導具を見せてあげるよ」
「それは凄いですね! 是非、お伺いさせて下さい!」
アストレイ様の提案に、大喜びで乗っかる俺。
すごくいい人だ!
お姉様との婚約が、うまくいくといいね?
「ジュリア嬢の婚約が整ったら、家族全員で遊びに来ると良い。歓迎するよ」
ベイクブリッド辺境伯様も、そう言ってくださった。
俺は目を輝かせてお父様を見る。
「お誘いは大変ありがたい。是非お伺いしたいが、今は時期が悪い。ゴブリンキングが近くの森にいるかもわからず、しばらく間引きと調査を続けるしかないのです。よって、3ヶ月程猶予を頂きたい。宜しいでしょうか」
「こちらは構わんよ。3ヶ月後が楽しみな事だ」
「ありがとうございます。アルキスも、それでいいな」
「はい、お父様」
ベイクブリッド辺境伯領に遊びに行けるのは、3ヶ月後か。
それまでに、ゴブリンの討伐を終わらせないとな。




