↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『天下布武、その先へ』―転生者と織田信長が拓いた、誰も知らない日本史―  作者: みなみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
98/141

第九十三章 将軍なき天下

第九十三章 将軍なき天下


足利義昭が。


死んだ。


幕府も。


終わった。


だが。


京から。


仕事が。


消えたわけではない。


むしろ。


逆だった。


     ◆


「殿!」


朝から。


織田屋敷へ。


声が響く。


「またか」


信長が。


露骨に。


嫌な顔をした。


「今度は」


「何だ」


小姓が。


頭を下げる。


「山城の」


「寺領を巡る」


「訴えにございます」


「昨日も」


「寺領だったではないか」


「昨日とは」


「別の寺にございます」


信長の。


眉間に。


皺が寄った。


     ◆


「光秀!」


「は」


「任せた」


明智光秀が。


顔を上げる。


「殿」


「何だ」


「昨日も」


「私が」


「処理いたしました」


「なら」


「今日もやれ」


「殿」


「何だ」


「私にも」


「冬姫様の」


「婚姻に関する」


「仕事がございます」


「……」


     ◆


信長が。


宗一郎を見る。


宗一郎は。


目を逸らした。


「高槻」


「嫌です」


「まだ」


「何も」


「言っておらん」


「顔で」


「分かります」


半兵衛が。


小さく笑った。


     ◆


将軍が。


いなくなった。


だから。


天下が。


すっきりした。


そんなことは。


なかった。


京の。


治安。


土地争い。


寺社領。


商人同士の。


揉め事。


関所。


道路。


借金。


年貢。


訴訟。


公家領。


寺領。


武家領。


誰が。


何を。


決めるのか。


     ◆


今までは。


良くも悪くも。


幕府という。


窓口があった。


それが。


消えた。


人々は。


次に。


どこへ行ったか。


織田。


だった。


     ◆


「信長様」


宗一郎が言う。


「これ」


「まずいです」


「分かっておる」


「このままだと」


「信長様が」


「朝から晩まで」


「訴訟を」


「裁くことになります」


「それは」


「もっと」


「まずい」


信長が。


即答した。


     ◆


「戦より」


「嫌ですか」


「戦の方が」


「まだ」


「分かりやすい」


光秀が。


溜息をつく。


「殿」


「笑い事では」


「ございませぬ」


「笑っておらん」


「顔が」


「笑っております」


「貴様」


「最近」


「遠慮がなくなったな」


「殿のせいにございます」


     ◆


宗一郎は。


机へ。


何枚もの。


紙を並べた。


「だから」


「分けましょう」


信長が。


紙を見る。


「何をだ」


「仕事です」


     ◆


一枚目。


京の。


治安。


二枚目。


土地と。


領地。


三枚目。


裁判。


四枚目。


商人と。


市場。


五枚目。


寺社。


六枚目。


道路と。


関所。


七枚目。


年貢と。


財。


八枚目。


軍。


九枚目。


朝廷との。


連絡。


     ◆


信長が。


紙を見る。


「多いな」


「国を」


「動かす仕事ですから」


「減らせ」


「無理です」


「高槻」


「はい」


「貴様」


「最近」


「儂に」


「無理と言うのが」


「早くなったな」


「学習しました」


「何をだ」


「信長様でも」


「無理なものは」


「無理だということを」


     ◆


光秀が。


咳払いをする。


半兵衛は。


完全に。


笑っていた。


     ◆


「殿」


光秀が。


紙を見る。


「高槻殿の」


「考えは」


「理にかなっております」


「幕府が」


「なくなった以上」


「これまで」


「一つの場所へ」


「集まっていた仕事を」


「整理する必要が」


「ございます」


信長が。


腕を組む。


「誰が」


「上に立つ」


宗一郎が。


答える。


「それも」


「分けます」


     ◆


信長の。


目が。


細くなる。


「上まで」


「分けるのか」


「はい」


「最後は」


「信長様です」


「でも」


「全部を」


「信長様が」


「直接見る必要はない」


「何故だ」


宗一郎は。


信長を見た。


「信長様が」


「死ぬからです」


部屋が。


静かになった。


     ◆


光秀が。


宗一郎を見る。


小姓まで。


固まった。


信長だけが。


宗一郎を。


見ている。


「高槻」


「はい」


「儂に」


「死ねと」


「言っておるのか」


「逆です」


宗一郎が。


答える。


「長生きしてください」


「でも」


「人は」


「いつか死にます」


     ◆


信長が。


黙る。


「信長様が」


「全部」


「決める国にしたら」


「信長様が」


「いなくなった瞬間」


「国が止まる」


半兵衛の。


表情が。


真剣になる。


宗一郎は。


続ける。


「だから」


「信長様が」


「いなくても」


「動くものを」


「今から」


「作るんです」


     ◆


光秀が。


小さく。


息を吐いた。


また。


同じだ。


帝が。


言った。


信長が。


死んでも。


壊れない国。


朕が。


死んでも。


壊れない国。


そして。


今。


宗一郎が。


同じことを。


言っている。


     ◆


――やはり。


似ている。


偶然では。


ない。


光秀の。


疑念は。


再び。


僅かに。


動いた。


だが。


口には。


出さない。


帝に。


言われた。


――見よ。


ならば。


見る。


     ◆


「続けろ」


信長が言った。


宗一郎が。


頷く。


「まず」


「京の治安」


「これは」


「光秀殿が」


「適任です」


光秀が。


宗一郎を見る。


「私ですか」


「京を知っている」


「朝廷との」


「連絡もできる」


「寺社とも」


「話せる」


「それに」


宗一郎が。


少し笑う。


「信長様より」


「話が通じます」


     ◆


「おい」


「事実です」


「高槻」


「はい」


「後で」


「覚えておれ」


「次です」


「逃げるな」


     ◆


「商人」


「道」


「関所」


「兵糧」


「これは」


「丹羽様」


丹羽長秀が。


頷く。


「異存はない」


「数字と」


「物を」


「扱える人が」


「必要です」


「そして」


「西への」


「道」


「紀伊」


「堺」


「瀬戸内」


「これは」


「滝川様」


滝川一益が。


地図を見る。


     ◆


「石山への」


「備えでもあるか」


「はい」


宗一郎は。


隠さない。


「でも」


「戦を」


「始めるためじゃない」


「顕如が」


「米を集める」


「船を集める」


「硝石を集める」


「なら」


「俺たちは」


「誰が」


「どこで」


「買っているかを」


「知る」


     ◆


丹羽が。


尋ねる。


「止めぬのか」


「止めたら」


「隠れて買います」


宗一郎が答える。


「それより」


「記録します」


「誰が」


「何を」


「どれだけ」


「買ったか」


「米が」


「足りなくなるなら」


「こちらから」


「市場へ」


「出す」


     ◆


信長が。


宗一郎を見る。


「顕如に」


「買わせるのか」


「買わせます」


「高くは」


「しないのか」


「しません」


今度は。


光秀まで。


宗一郎を見る。


「何故です」


宗一郎は。


答えた。


「困るのが」


「顕如だけじゃ」


「ないからです」


     ◆


米の。


値が上がる。


困るのは。


寺ではない。


京の。


民。


石山の。


民。


堺の。


民。


兵糧を。


大量に。


買い占めれば。


最初に。


腹を空かせるのは。


戦とは。


関係のない者。


     ◆


「市場へ」


「米を」


「出し続けます」


「値を」


「できるだけ」


「安定させる」


「その上で」


「大量に買う者を」


「全部」


「記録する」


丹羽の。


目が。


変わる。


「なるほど」


「兵糧攻めではなく」


「兵糧の流れを」


「見えるようにするのか」


「はい」


     ◆


「顕如が」


「戦のために」


「米を集めれば」


「集めるほど」


「こちらに」


「見える」


滝川が。


笑う。


「嫌な手だ」


宗一郎が。


笑う。


「褒め言葉として」


「受け取ります」


     ◆


信長が。


机を。


指で叩く。


「寺社は」


光秀が。


答える。


「私が」


「見ましょう」


「ただし」


宗一郎が言う。


「信仰と」


「軍事を」


「分けたいです」


光秀が。


頷く。


     ◆


「寺だから」


「敵ではない」


「門徒だから」


「敵でもない」


「武器を」


「持つ」


「兵を」


「集める」


「道を」


「塞ぐ」


「戦のために」


「物を集める」


「そこを」


「見ます」


信長が。


短く。


答えた。


「よい」


     ◆


「で」


信長が。


宗一郎を見る。


「貴様は」


「何をする」


宗一郎が。


嫌な顔をした。


「俺も」


「何か」


「するんですか」


「当然だ」


「技術所も」


「あります」


「知らん」


「学問所も」


「あります」


「知らん」


「情報網も」


「あります」


「知らん」


     ◆


半兵衛が。


静かに。


助け舟を出した。


「殿」


「宗一郎様には」


「全体の」


「仕組みを」


「作っていただくのが」


「よろしいかと」


信長が。


半兵衛を見る。


「お前は」


「何をする」


「宗一郎様が」


「仕事を」


「増やしすぎぬよう」


「見張ります」


「それは」


「重要だ」


「二人とも」


「酷くない?」


     ◆


その場に。


小さな。


笑いが起きた。


だが。


作られようとしているものは。


小さくない。


幕府の。


代わり。


ではない。


新しい。


仕組み。


     ◆


「名前は」


光秀が聞いた。


宗一郎が。


止まる。


「名前?」


「これだけの」


「役目を」


「分けるのであれば」


「呼び名が」


「必要でしょう」


宗一郎が。


困った顔をする。


未来の。


言葉なら。


いくらでも。


浮かぶ。


省。


庁。


局。


官僚。


内閣。


だが。


そのまま。


持ってくる必要はない。


     ◆


「役所」


宗一郎が。


言った。


信長が。


眉を上げる。


「役所?」


「はい」


「仕事を」


「する場所だから」


「役所」


「安直だな」


「分かりやすい方が」


「いいんです」


光秀が。


少し。


考える。


「悪くは」


「ありませぬ」


     ◆


「役目ごとに」


「役所を作る」


宗一郎が。


紙へ。


書く。


「担当を決める」


「副役も置く」


「記録を残す」


「決めた理由も」


「残す」


「担当が」


「死んでも」


「次の人が」


「読めば」


「続けられるようにする」


     ◆


信長が。


その紙を。


見つめる。


「人ではなく」


「役目を」


「残すのか」


「はい」


「家ではなく?」


「できるだけ」


「役目を」


「残します」


これは。


戦国の。


常識とは。


少し違う。


役職は。


ある。


奉行も。


いる。


だが。


宗一郎が。


作ろうとしているものは。


もっと。


細かい。


     ◆


誰が。


やったか。


ではない。


何を。


する場所なのか。


それを。


先に。


決める。


そして。


記録する。


信長は。


長く。


紙を見た。


「面白い」


それだけ。


言った。


     ◆


「やれ」


宗一郎が。


顔を上げる。


「本当に?」


「貴様が」


「言い出したのだろう」


「そうですけど」


「やれ」


「はい」


     ◆


その日の。


午後。


早速。


新しい仕組みの。


最初の。


試験が。


始まった。


都の。


商人。


二人。


一人は。


油。


一人は。


米。


争いは。


倉。


だった。


     ◆


幕府から。


以前。


使用を認められた。


倉。


だが。


持ち主は。


別。


借りたのか。


与えられたのか。


書状が。


曖昧。


幕府が。


ある頃なら。


奉行所へ。


持ち込む。


だが。


その幕府が。


ない。


二人は。


織田へ。


来た。


     ◆


「両方」


「斬れば」


「静かになる」


信長が言った。


「なりません」


宗一郎が。


即答する。


「冗談だ」


「信長様の」


「冗談は」


「冗談に」


「聞こえないんです」


     ◆


光秀が。


二人から。


話を聞く。


丹羽が。


帳面を調べる。


旧幕府の。


記録を。


探す。


宗一郎は。


口を出さない。


やがて。


一枚の。


古い記録が。


見つかった。


倉そのものは。


米商人の。


持ち物。


だが。


油商人へ。


一定期間。


使用を認めている。


問題は。


その期間が。


終わっているのか。


いないのか。


     ◆


「ここ」


丹羽が。


指す。


「年が」


「書かれておらぬ」


光秀が。


顔をしかめる。


「これでは」


「揉めますな」


宗一郎が。


呟く。


「だから」


「記録なんだよ」


信長が。


聞く。


「どうする」


宗一郎は。


首を横に振った。


「俺に」


「聞かないでください」


     ◆


「何?」


「これは」


「俺が」


「決めちゃ駄目です」


「何故だ」


「今」


「作ろうとしてるのは」


「俺に聞けば」


「全部決まる仕組みじゃないからです」


信長の。


目が。


変わる。


     ◆


宗一郎は。


光秀を見る。


「双方の」


「言い分」


「記録」


「これまでの」


「使い方」


「全部見て」


「決めてください」


「私が?」


「はい」


「そして」


「何故」


「そう決めたか」


「書いて残す」


光秀は。


しばらく。


宗一郎を見た。


そして。


頷いた。


     ◆


半刻後。


裁定。


倉の。


所有は。


米商人。


ただし。


油商人には。


一定期間の。


猶予を与える。


その間に。


荷を。


移す。


そして。


今後。


貸借の。


期限は。


必ず。


記す。


双方。


不満は。


残った。


だが。


受け入れた。


     ◆


宗一郎は。


その様子を。


見て。


少し。


安心した。


新しい制度は。


紙の上では。


作れない。


実際の。


揉め事を。


一つずつ。


処理して。


初めて。


形になる。


     ◆


光秀が。


裁定を書いた。


日。


場所。


当事者。


争点。


証拠。


判断。


理由。


最後に。


名。


宗一郎が。


それを見る。


「これです」


光秀が。


尋ねる。


「何が」


「こういうのを」


「残したいんです」


     ◆


「次に」


「同じような」


「揉め事が起きた時」


「前は」


「どうしたか」


「見られる」


光秀の。


筆が。


止まる。


「前例」


「はい」


「ただし」


「前と同じだから」


「必ず」


「同じにするんじゃない」


「違うところがあれば」


「変える」


     ◆


光秀は。


宗一郎を見る。


また。


未来を。


見ているような。


言い方。


だが。


何も。


聞かなかった。


見よ。


帝に。


言われたから。


     ◆


その夜。


禁裏。


帝の前へ。


光秀からの。


報告が。


届いた。


旧幕府の。


仕事を。


役目ごとに。


分ける。


記録を。


残す。


信長が。


死んでも。


続く。


仕組み。


帝は。


最後まで。


読んだ。


そして。


小さく。


笑った。


「始めたか」


     ◆


古き影の。


老人が。


尋ねる。


「ご存じだったので」


「いや」


帝が。


首を横に振る。


「だが」


「あの男なら」


「いずれ」


「やると思っていた」


「高槻殿で」


「ございますか」


「ああ」


     ◆


帝は。


紙へ。


目を落とす。


行政。


記録。


役割。


継承。


まだ。


小さい。


京の。


ほんの。


一部。


だが。


前世を。


知る帝には。


分かる。


国とは。


軍だけでは。


作れない。


法律。


税。


道路。


教育。


医療。


記録。


行政。


それらが。


積み重なって。


国になる。


     ◆


「主上」


老人が。


もう一枚。


差し出した。


帝の。


表情が。


変わる。


「石山か」


「いえ」


「甲斐にございます」


帝が。


受け取る。


     ◆


――武田勝頼。


――評定を主導。


――兵糧。


――馬。


――城。


――街道。


――各地の数量確認を命ず。


――信玄名義の命令。


――減少。


帝の目が。


細くなる。


「勝頼が」


「動き始めた」


「御意」


     ◆


「信玄の」


「死は」


「まだ」


「直接確認できておりませぬ」


「それでよい」


帝は。


すでに。


同じ答えを。


何度も。


している。


「死を」


「暴くことが」


「目的ではない」


「武田が」


「どう変わるかを」


「見よ」


「御意」


     ◆


一方。


高槻屋敷。


宗一郎の前にも。


甲斐から。


似た報告が。


届いていた。


半兵衛が。


尋ねる。


「どう見ます」


宗一郎は。


少し。


考える。


「勝頼は」


「馬鹿じゃない」


半兵衛が。


宗一郎を見る。


     ◆


「父親が」


「偉大すぎる」


「だから」


「後世では」


「比べられる」


宗一郎は。


そこで。


言葉を止めた。


危ない。


半兵衛は。


宗一郎が。


未来を知ることを。


知っている。


だが。


未来の評価を。


そのまま。


現在へ。


持ち込んでは。


いけない。


     ◆


「でも」


宗一郎が。


言い直す。


「今の」


「勝頼を見る」


「信玄の息子としてじゃない」


「武田勝頼という」


「一人の大将として」


半兵衛が。


静かに。


頷いた。


「信長様と」


「同じことを」


「申されますね」


「何を?」


「父より弱いと」


「決めつけるなと」


宗一郎が。


少し。


笑った。


     ◆


「やっぱり」


「あの人」


「怖いな」


「今更ですか」


「今更です」


     ◆


石山本願寺。


顕如の前へ。


新しい。


報せが。


届いた。


「何?」


顕如が。


聞き返す。


「京の」


「米の値が」


「上がっておりませぬ」


使者が。


答える。


顕如の。


目が。


細くなる。


     ◆


「我らが」


「買っているのにか」


「はい」


「堺も」


「大きくは」


「上がっておりませぬ」


「何故だ」


「近江」


「美濃」


「尾張から」


「米が」


「流れ込んでおります」


顕如が。


黙る。


     ◆


教如が。


顔を上げる。


「織田が?」


「恐らく」


使者が。


答える。


「さらに」


「商人たちへ」


「誰が」


「どれだけ」


「買ったか」


「帳面へ」


「残すよう」


「求めている者が」


「おります」


顕如の。


表情が。


変わった。


     ◆


「高槻」


小さく。


呟く。


教如が。


父を見る。


「止められたので」


「違う」


顕如が。


首を横に振る。


「止めていない」


そこが。


問題だった。


     ◆


米を。


没収された。


なら。


仏敵と。


叫べる。


門徒への。


兵糧を。


奪った。


なら。


人を。


怒らせられる。


だが。


織田は。


何も。


奪っていない。


買うことすら。


止めていない。


代わりに。


米を。


市場へ。


増やしている。


     ◆


「こちらが」


「買えば」


「買うほど」


顕如が。


ゆっくり。


言う。


「誰が」


「買ったか」


「向こうへ」


「残る」


教如の。


顔が。


強張る。


「なら」


「別の者を」


「使います」


「使えば」


「その者が」


「記録される」


「では」


「小分けに」


「すれば」


「時間がかかる」


     ◆


顕如は。


目を閉じた。


また。


これだ。


信長なら。


奪う。


焼く。


脅す。


そう。


思っていた。


だが。


高槻が。


間へ入ると。


戦う前に。


戦場そのものを。


変えられる。


     ◆


「父上」


教如が。


低く言う。


「毛利を」


「急がせるべきでは」


顕如は。


すぐには。


答えなかった。


そして。


言った。


「いや」


「まだだ」


「しかし」


「焦って」


「動けば」


「高槻の」


「思う壺だ」


     ◆


顕如は。


地図を見る。


石山。


堺。


紀伊。


淡路。


瀬戸内。


安芸。


「海だ」


教如が。


顔を上げる。


「海?」


「陸で」


「見られるなら」


「海を」


「太くする」


     ◆


毛利。


水軍。


瀬戸内。


そこに。


次の。


可能性がある。


「毛利へ」


「伝えよ」


「返事を」


「急かすな」


「代わりに」


「船の話をせよ」


「船」


「はい」


「兵ではない」


顕如の目が。


鋭くなる。


「まず」


「船だ」


     ◆


同じ頃。


高槻。


技術所。


与吉が。


試験場で。


叫んでいた。


「押せ!」


数人の。


男たちが。


車輪付きの。


小型砲を。


押す。


土。


石。


僅かな。


坂。


重い。


だが。


進む。


     ◆


「止めろ!」


木片を。


車輪へ。


噛ませる。


止まる。


与吉が。


息を切らす。


「宗一郎様!」


少し離れた。


宗一郎が。


見る。


「どう?」


「重い!」


「知ってる!」


「もっと」


「軽くしてください!」


「砲身が」


「破裂しても」


「いいなら!」


「嫌です!」


     ◆


職人たちが。


笑う。


まだ。


兵器とは。


呼べない。


試作品。


だが。


少しずつ。


形になっている。


その横では。


新しく。


集められた男たちが。


縄を。


結ぶ。


距離を。


測る。


板を。


組む。


仮の橋を。


架ける。


     ◆


高槻工兵。


まだ。


十数人。


兵とも。


職人とも。


言い切れない。


妙な。


集団。


宗一郎は。


彼らを。


見ながら。


思う。


まだ。


小さい。


だが。


これでいい。


最初から。


百人も。


千人も。


いらない。


十人が。


覚える。


十人が。


次の十人へ。


教える。


     ◆


人を。


残す。


技を。


残す。


記録を。


残す。


それは。


今日。


京で。


始めた。


役所と。


同じだった。


戦も。


政も。


結局。


一人の。


天才に。


頼らない。


仕組みに。


しなければ。


残らない。


     ◆


その夕刻。


鷹司家。


冬姫の前へ。


光秀が。


座っていた。


「姫様」


「はい」


「本日」


「正式に」


「日取りの」


「話を」


「始めることとなりました」


冬姫の。


手が。


僅かに。


止まる。


     ◆


「嫁入りの?」


「はい」


まだ。


明日。


明後日ではない。


だが。


鷹司家への。


養女入りは。


終わった。


宮中の。


作法も。


学び始めた。


帝と。


冬姫。


双方の。


意思も。


確認された。


なら。


次は。


正式な。


婚姻。


     ◆


「怖いですか」


光秀が。


尋ねる。


冬姫は。


少し。


考えた。


「はい」


以前と。


同じ答え。


「ですが」


冬姫が。


笑う。


「前よりは」


「少し」


「楽しみでも」


「ございます」


光秀の。


表情が。


柔らかくなる。


「さようで」


「ございますか」


     ◆


「光秀」


「はい」


「父上は」


「何か」


「申しておりましたか」


光秀が。


少し。


困った。


「殿は」


「その……」


「何です」


「日取りの話を」


「申し上げましたところ」


光秀は。


信長の。


顔を。


思い出した。


     ◆


「早くないか」


最初の。


一言が。


それだった。


冬姫が。


吹き出す。


「父上らしい」


「その後」


「主上が」


「急がせていないと」


「申し上げました」


「すると?」


「黙られました」


冬姫が。


また。


笑った。


     ◆


光秀も。


僅かに。


笑う。


そして。


思った。


帝。


信長。


冬姫。


この婚姻を。


最初は。


巨大な。


政略としか。


見ていなかった。


もちろん。


今も。


政略だ。


天下を。


動かす。


婚姻。


だが。


それだけでは。


ない。


     ◆


十四歳の。


娘が。


自分で。


選んだ。


十七歳の。


帝が。


その選択を。


急がず。


待った。


そして。


娘を。


送り出す父が。


天下人であろうと。


やはり。


少し。


寂しがっている。


国を。


動かすものも。


結局。


人なのだ。


     ◆


「姫様」


「はい」


「必ず」


「滞りなく」


「お送りいたします」


冬姫が。


光秀を見る。


「お願いします」


光秀が。


深く。


頭を下げた。


     ◆


その夜。


京。


新しく。


作られ始めた。


役所の。


一室。


まだ。


看板すら。


ない。


机。


帳面。


筆。


それだけ。


一人の。


若い役人が。


今日の。


裁定を。


書き写していた。


倉を巡る。


商人同士の。


争い。


後世から見れば。


取るに足らない。


小さな。


出来事。


     ◆


だが。


その紙には。


誰が。


裁いたか。


だけではない。


何が。


起きたか。


何を。


証拠としたか。


何故。


そう決めたか。


次に。


同じことが。


起きた時。


何を見るべきか。


それが。


書かれていた。


     ◆


将軍は。


もう。


いない。


だが。


将軍が。


いなくても。


朝が来る。


商人は。


店を開く。


農民は。


田へ行く。


寺では。


鐘が鳴る。


子供は。


腹を空かせる。


道は。


壊れる。


人は。


争う。


     ◆


国とは。


天下人の。


座る椅子ではない。


誰も。


見ていない。


そんな。


小さな仕事が。


毎日。


止まらず。


続くこと。


高槻宗一郎は。


ようやく。


そこへ。


手を。


伸ばし始めた。


     ◆


そして。


誰も。


まだ。


知らない。


京で。


役所が。


作られ始めた。


同じ頃。


石山では。


海へ。


目が向いた。


安芸では。


本願寺の使者を前に。


毛利の者たちが。


初めて。


本格的な。


評定を。


開こうとしていた。


     ◆


議題は。


一つ。


織田。


石山。


そして。


瀬戸内。


毛利は。


まだ。


答えていない。


だが。


いつまでも。


答えずには。


いられない。


次に。


天下を。


大きく動かす答えは。


京でも。


甲斐でもない。


西。


安芸で。


出されようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。