↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『天下布武、その先へ』―転生者と織田信長が拓いた、誰も知らない日本史―  作者: みなみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/141

第九十一章 消えた虎

第九十一章 消えた虎


甲斐。


躑躅ヶ崎館。


夜。


灯りの落とされた。


一室。


そこに。


数人の男が。


集まっていた。


武田勝頼。


山県昌景。


馬場信春。


内藤昌豊。


高坂昌信。


穴山信君。


誰も。


大きな声を。


出さない。


部屋の。


中央。


一通の書。


そして。


その向こう。


閉ざされた。


襖。


     ◆


勝頼が。


拳を。


握っていた。


「父上は」


誰も。


答えない。


勝頼は。


もう一度。


言った。


「父上は」


声が。


僅かに。


震える。


「逝かれた」


沈黙。


山県が。


目を閉じる。


馬場が。


俯く。


内藤は。


微動だにしない。


高坂だけが。


勝頼を。


見ていた。


     ◆


武田信玄。


甲斐の虎。


長く。


武田を。


率いてきた男。


その男は。


もう。


いない。


戦場では。


死ななかった。


織田との。


戦でも。


討たれなかった。


だが。


病には。


勝てなかった。


     ◆


最後の。


数日は。


ほとんど。


起き上がれなかった。


咳。


胸の痛み。


血。


医師たちは。


できる限りの。


ことをした。


だが。


止められない。


そして。


信玄は。


最後まで。


武田のことを。


考えていた。


     ◆


「死を」


「隠せ」


それが。


最後に。


残した。


命の。


一つだった。


武田信玄が。


死んだ。


その報せが。


外へ出れば。


敵は。


動く。


徳川。


織田。


上杉。


北条。


そして。


武田の。


内側すら。


揺れる。


だから。


隠す。


     ◆


「どこまで」


勝頼が。


低く尋ねる。


「隠せる」


高坂が。


答えた。


「永くは」


「無理にございます」


「分かっている」


「ですが」


「今すぐ」


「知られるのと」


「ひと月後」


「ふた月後に」


「知られるのでは」


「違います」


勝頼が。


頷く。


     ◆


馬場が。


口を開いた。


「まず」


「国境」


「兵を」


「動かしてはならぬ」


山県も。


続ける。


「大きな」


「軍議も」


「避けるべきです」


内藤が。


首を横に振る。


「いや」


「逆だ」


視線が。


集まる。


     ◆


「何も」


「動かなくなれば」


「それこそ」


「怪しまれる」


内藤が。


静かに言う。


「御館様が」


「生きておられた時と」


「同じように」


「動かすべきだ」


高坂が。


頷いた。


「書状も」


「出します」


「ただし」


「御館様の」


「直筆は」


「使えませぬ」


「花押は?」


勝頼が聞く。


「危険です」


高坂が答える。


「知る者が」


「おります」


     ◆


勝頼が。


目を閉じた。


父が。


死んだ。


悲しむ。


時間すら。


与えられない。


「父上の」


「葬儀は」


「密かに」


高坂が言った。


「寺も」


「限ります」


「僧も」


「選びます」


「医師は」


山県が。


尋ねる。


「外へ」


「出せぬ」


馬場が。


低く答えた。


     ◆


その言葉に。


部屋が。


僅かに。


重くなる。


殺す。


という意味ではない。


だが。


自由には。


できない。


少なくとも。


しばらくは。


屋敷の中へ。


置く。


信玄の。


死を。


知っている者を。


減らす。


     ◆


「三年」


勝頼が。


呟いた。


男たちが。


見る。


「父上は」


「死を」


「三年」


「隠せと」


「仰せになった」


高坂が。


静かに。


答える。


「三年」


「完全に」


「隠すことは」


「できませぬ」


勝頼が。


高坂を見る。


     ◆


「何故だ」


「人は」


「消えます」


「御館様が」


「姿を見せない」


「声を聞かせない」


「直筆の書がない」


「軍議へ出ない」


「客人に会わない」


「一つなら」


「病で」


「通せます」


高坂の目が。


鋭くなる。


「十も」


「二十も」


「重なれば」


「病だけでは」


「済みませぬ」


     ◆


勝頼は。


黙った。


「なら」


「どうする」


「死を」


「隠すのでは」


「ございませぬ」


高坂が言った。


「死を」


「確かめさせない」


勝頼の目が。


変わる。


     ◆


「病だと」


「思う者には」


「病だと」


「思わせる」


「死んだと」


「疑う者には」


「疑わせる」


「だが」


「証を」


「与えぬ」


馬場が。


小さく。


頷く。


「なるほど」


「敵が」


「確信できなければ」


「大軍は」


「動かしにくい」


「はい」


     ◆


勝頼は。


父の。


座っていた場所を。


見た。


もう。


そこに。


虎はいない。


ならば。


自分が。


立たなければならない。


「やる」


勝頼が。


言った。


「父上の死は」


「伏せる」


「武田は」


「揺らがぬ」


「そう」


「見せる」


山県たちが。


頭を下げた。


     ◆


だが。


その夜。


躑躅ヶ崎館から。


少し離れた場所。


一人の男が。


馬の数を。


数えていた。


武田家へ。


馬の飼料を。


納める。


商人。


何年も。


甲斐へ。


出入りしている。


誰も。


疑わない。


男は。


館の中へは。


入らない。


入る必要も。


ない。


     ◆


この三日。


おかしなことが。


ある。


医師が。


出てこない。


普段なら。


薬種を。


取りに。


人が。


動く。


だが。


それが。


止まった。


代わりに。


寺へ向かう。


使いが。


増えた。


そして。


一部の。


古参家臣が。


夜中に。


呼ばれている。


     ◆


男は。


結論を。


書かなかった。


ただ。


事実を。


覚えた。


医師。


出入り停止。


薬種。


購入減。


寺院。


夜間使者増加。


重臣。


夜間登城。


信玄。


姿なし。


それだけ。


男は。


翌朝。


甲斐を。


出た。


     ◆


その男が。


誰の。


目なのか。


武田は。


知らない。


帝の。


古き影。


     ◆


だが。


別の場所でも。


同じ。


甲斐を。


見ている者がいた。


宿場。


一人の。


旅商人。


その男は。


高槻の。


情報網に。


繋がっている。


彼が。


見ていたのは。


寺ではない。


道。


だった。


     ◆


「減ったな」


男が。


呟く。


甲斐から。


外へ出る。


使者。


以前より。


少ない。


逆に。


甲斐へ。


戻される者が。


増えている。


さらに。


武田家中から。


出される。


書状。


その書き方が。


変わった。


以前は。


信玄本人の。


意向を。


強く示す。


文が多かった。


今は。


「御屋形様の御意」


そればかり。


     ◆


本人の。


言葉が。


ない。


男は。


それを。


記録した。


――信玄本人。


――確認できず。


――書状。


――本人直筆なし。


――勝頼名義。


――増加。


――重臣間の使者。


――増加。


――国境兵力。


――大きな変化なし。


――結論。


――不明。


     ◆


数日後。


京。


高槻屋敷。


宗一郎は。


三枚の。


報告を。


並べていた。


半兵衛。


官兵衛。


二人も。


いる。


「どう思う」


宗一郎が聞く。


官兵衛が。


すぐに答える。


「死んでおりますな」


半兵衛が。


官兵衛を見る。


「早いですね」


「これだけ」


「揃えば」


「十分でしょう」


     ◆


宗一郎は。


首を横に振った。


「十分じゃない」


官兵衛が。


宗一郎を見る。


「何故です」


「全部」


「状況証拠だ」


宗一郎が。


紙を指す。


「信玄を」


「見た者がいない」


「だから」


「死んだ」


「それは」


「推測だ」


     ◆


官兵衛が。


薄く笑う。


「しかし」


「殿は」


「武田信玄が」


「長くはないと」


「以前から」


「考えておられた」


宗一郎の目が。


官兵衛を見る。


鋭い。


「だからこそだ」


官兵衛の笑みが。


消える。


     ◆


「俺が」


「そう思ってるから」


「都合のいい報告だけ」


「拾うかもしれない」


半兵衛が。


静かに。


頷いた。


「なるほど」


「先に答えを」


「持っている者ほど」


「危うい」


「そう」


宗一郎が。


報告を。


分ける。


     ◆


「事実」


「信玄が」


「人前へ出ていない」


一枚。


「事実」


「勝頼と」


「重臣の会合が」


「増えている」


一枚。


「事実」


「信玄本人の」


「直筆が」


「確認できない」


一枚。


「推測」


「信玄は」


「重病」


別の場所。


「推測」


「信玄は」


「すでに死んでいる」


さらに。


別。


     ◆


「判断」


宗一郎が。


最後に。


紙を置く。


「武田は」


「何かを」


「隠している」


半兵衛が。


頷く。


「これなら」


「確実です」


「うん」


官兵衛が。


宗一郎を見る。


「では」


「兵は」


「動かさぬので」


「動かさない」


即答。


     ◆


「武田が」


「弱っているなら」


「好機では」


「好機だから」


「動かない」


官兵衛の。


眉が。


僅かに。


上がる。


宗一郎は。


地図を見る。


「今」


「甲斐へ」


「兵を向ければ」


「武田は」


「一つになる」


「外敵が来たら」


「家中の揉め事は」


「後回しになる」


半兵衛が。


笑う。


「弱った相手を」


「殴るより」


「弱った相手が」


「どう動くか」


「見る」


「そういうことですか」


「そう」


     ◆


官兵衛は。


何も言わない。


だが。


その目は。


楽しそうだった。


この男。


高槻宗一郎。


やはり。


面白い。


     ◆


同じ頃。


禁裏。


帝も。


甲斐からの。


報告を。


読んでいた。


老人が。


前に。


座っている。


「信玄は」


帝が聞く。


「死んだか」


老人は。


即答しない。


「分かりませぬ」


帝の。


口元が。


僅かに。


緩む。


「それでよい」


     ◆


老人が。


顔を上げる。


「よろしいので」


「ああ」


「分からぬものを」


「分かったと言う方が」


「危うい」


帝は。


報告を。


置く。


「だが」


「死んでいる」


「可能性は」


「高くなった」


「御意」


「引き続き」


「見よ」


「武田の」


「奥へ」


「無理に」


「入る必要はない」


     ◆


「証を」


「取ろうとして」


「影を」


「失うな」


「は」


帝は。


一瞬。


宗一郎を。


思い出した。


おそらく。


あの男も。


同じことを。


言う。


そう思って。


少し。


笑った。


     ◆


「何か」


老人が。


尋ねる。


「いや」


帝が。


首を振る。


「似てきたと」


「思っただけだ」


「何が」


「こちらの」


「考え方が」


老人には。


意味が。


分からなかった。


帝は。


説明しなかった。


     ◆


鷹司家。


その頃。


冬姫は。


戦とは。


まったく。


違う敵と。


戦っていた。


「もう一度」


女房が。


言う。


冬姫が。


座り直す。


「はい」


「お歩きに」


「なってください」


冬姫が。


立つ。


一歩。


二歩。


三歩。


「速うございます」


止まる。


もう一度。


一歩。


二歩。


「今度は」


「遅うございます」


冬姫が。


女房を見る。


     ◆


「では」


「どのくらいが」


「よいのでしょう」


「優雅に」


「それが」


「分からないのです」


女房が。


額へ。


手を当てた。


「姫様」


「はい」


「戦場を」


「歩くのでは」


「ございませぬ」


「戦場を」


「歩いたことは」


「ございませぬ」


「例えです」


     ◆


冬姫が。


小さく。


笑う。


だが。


覚えることは。


本当に。


多かった。


歩き方。


座り方。


衣の扱い。


言葉。


歌。


書。


宮中で。


誰へ。


どのように。


挨拶するか。


誰の前で。


どこへ。


座るか。


何を。


言ってよいか。


何を。


言わぬ方がよいか。


     ◆


織田家で。


育った。


十四年。


それとは。


まるで。


違う世界。


それでも。


冬姫は。


逃げなかった。


夜。


手習いの。


紙へ。


何度も。


文字を書く。


指が。


痛くなっても。


続ける。


女房が。


止める。


「本日は」


「ここまでに」


「まだ」


「できます」


「明日も」


「ございます」


冬姫は。


筆を。


置いた。


     ◆


「難しいですね」


「はい」


女房が。


答える。


「ですが」


「姫様は」


「覚えが」


「早うございます」


冬姫が。


少し。


嬉しそうに。


笑った。


「父上には」


「言わないでください」


「何故で」


「褒められると」


「調子に乗ると」


「言われます」


女房が。


初めて。


声を出して。


笑った。


     ◆


その翌日。


明智光秀が。


鷹司家を。


訪れた。


養女入りの。


次。


帝への。


正式な婚姻へ。


進むため。


朝廷側との。


日取り。


儀礼。


贈答。


役目。


その。


調整。


光秀は。


一つずつ。


確認していく。


     ◆


だが。


その途中。


鷹司が。


言った。


「主上より」


「一つ」


「御意向が」


「御意向?」


「はい」


「急がせぬようにと」


光秀が。


顔を上げる。


「急がせぬ?」


「冬は」


「まだ」


「鷹司へ」


「入ったばかり」


「まず」


「こちらで」


「暮らし」


「学び」


「慣れさせよと」


     ◆


光秀は。


黙った。


政略婚。


なら。


早い方が。


よい。


正式に。


婚姻を結べば。


織田と。


朝廷の関係は。


より。


強くなる。


顕如。


毛利。


徳川。


各地への。


牽制にもなる。


それなのに。


帝は。


急がない。


「何故」


光秀が。


尋ねる。


鷹司は。


答えた。


「冬姫様が」


「物ではないからでしょう」


     ◆


光秀の目が。


僅かに。


変わった。


また。


それだ。


政治だけなら。


説明できない。


帝は。


本当に。


冬姫を。


一人の人間として。


扱おうとしている。


だが。


同時に。


国全体を。


恐ろしいほど。


冷静に。


見ている。


光秀には。


その二つが。


不思議だった。


     ◆


「鷹司様」


「何でしょう」


「主上は」


「いつ頃から」


「この婚姻を」


「考えておられたので」


鷹司が。


光秀を見る。


「それを」


「知って」


「どうなさる」


光秀は。


少し。


黙った。


「知りたいのです」


「何を」


「主上という」


「お方を」


     ◆


鷹司は。


しばらく。


何も言わなかった。


そして。


僅かに。


笑った。


「ならば」


「光秀殿」


「見ておれば」


「よろしい」


「見て」


「分かるので」


「少なくとも」


「人に聞くよりは」


「分かりましょう」


光秀は。


頭を下げた。


     ◆


その帰り。


光秀は。


禁裏の方角を。


見た。


疑っている。


だが。


敵としてではない。


知りたい。


何故。


帝は。


ここまで。


先を見る。


そして。


何故。


宗一郎は。


帝の考えを。


あれほど。


自然に。


受け入れている。


     ◆


石山本願寺。


その夜。


一人の使者が。


戻った。


顕如の前へ。


座る。


「毛利は」


顕如が。


尋ねる。


「話を」


「聞くとのことに」


「ございます」


教如の目が。


変わる。


「乗ったのか」


「まだ」


使者が答える。


「返答は」


「ございませぬ」


「ただ」


「使者を」


「追い返すことは」


「ありませんでした」


     ◆


顕如は。


目を閉じる。


十分。


今は。


それでよい。


毛利には。


毛利の。


事情がある。


織田と。


すぐに。


戦う理由は。


まだない。


なら。


理由を。


作ればよい。


     ◆


「何を」


「伝えた」


顕如が聞く。


「織田が」


「将軍を失わせ」


「今や」


「朝廷と」


「血を」


「結ぼうとしていること」


顕如の目が。


開く。


「言い方を」


「間違えるな」


使者が。


頭を下げる。


     ◆


「義昭を」


「殺したのは」


「信長ではない」


「帝だ」


教如が。


父を見る。


顕如は。


続けた。


「そこを」


「偽れば」


「こちらが」


「弱くなる」


「事実を」


「使え」


「織田が」


「朝廷と」


「結びつつある」


「それで」


「十分だ」


「御意」


     ◆


顕如は。


以前より。


慎重になっていた。


義昭で。


失敗した。


越前でも。


信長を。


止められなかった。


嘘を。


重ねれば。


どこかで。


崩れる。


なら。


事実を。


恐ろしく。


見せる。


織田信長が。


帝の。


外戚となる。


それは。


嘘ではない。


     ◆


「毛利へ」


「もう一つ」


「伝えよ」


「何を」


「今」


「動けとは」


「言わぬ」


顕如が。


地図の。


瀬戸内へ。


指を置く。


「ただ」


「海を」


「閉ざすなと」


教如が。


理解する。


石山。


兵糧。


硝石。


武器。


海路。


     ◆


戦が。


長引けば。


海が。


必要になる。


「父上」


「そこまで」


「見ておられるので」


「戦にならぬなら」


「それでよい」


顕如が。


静かに。


答えた。


「だが」


「戦になってから」


「船を」


「探しても」


「遅い」


     ◆


その会話を。


一人の僧が。


遠くから。


聞いていた。


顔を。


上げない。


反応もしない。


その夜。


経の。


一文字が。


また。


変わった。


     ◆


数日後。


帝の前へ。


報告。


――毛利。


――本願寺使者を受け入れる。


――返答なし。


――顕如。


――海路維持を要請する意向。


――一斉蜂起命令なし。


帝は。


読み終えた。


「顕如は」


「まだ」


「戦を」


「始めるつもりではない」


老人が。


頷く。


「そのように」


「見受けられます」


     ◆


「だが」


帝が。


紙を置く。


「戦になった時の」


「準備は」


「始めている」


「御意」


「信長へ」


「知らせる」


老人が。


僅かに。


顔を上げた。


「影のことも」


「知られるのでは」


「全部は」


「話さぬ」


帝が。


答える。


「石山が」


「毛利へ」


「接触した」


「それだけで」


「よい」


     ◆


「誰から」


「聞いたと」


「問われれば」


「朝廷にも」


「耳くらいあると」


「言っておけ」


老人が。


僅かに。


笑った。


「御意」


     ◆


その翌日。


信長の前へ。


朝廷からの。


書が。


届いた。


信長。


宗一郎。


半兵衛。


光秀。


丹羽長秀。


滝川一益。


柴田勝家は。


越前。


京にいる。


主要な者が。


集められた。


信長が。


書を読む。


そして。


地図へ。


投げる。


「顕如が」


「毛利へ」


「手を伸ばした」


空気が。


変わった。


     ◆


滝川が。


瀬戸内を見る。


「海ですか」


丹羽が。


頷く。


「石山へ」


「兵糧を」


「入れるなら」


「陸より」


「海の方が」


「大量に」


「運べます」


光秀が。


尋ねる。


「毛利は」


「応じたので」


信長が。


首を振る。


「まだ」


「返答はない」


     ◆


宗一郎が。


地図を見る。


毛利。


石山。


紀伊。


瀬戸内。


頭の中で。


未来の歴史が。


浮かぶ。


石山本願寺。


毛利水軍。


海上補給。


だが。


宗一郎は。


すぐに。


それを。


押し込めた。


未来は。


答えではない。


警告。


     ◆


「信長様」


「何だ」


「海を」


「調べましょう」


「毛利を」


「攻めるのでは」


「ありません」


「船」


「港」


「兵糧」


「硝石」


「誰が」


「どこから」


「運べるのか」


「先に」


「把握します」


丹羽が。


頷く。


「必要でしょう」


     ◆


信長が。


宗一郎を見る。


「やれ」


「はい」


「一益」


「は」


「西の」


「道も見ろ」


「承知」


「光秀」


「は」


「朝廷と」


「寺社」


「京を」


「引き続き」


「見ろ」


「は」


「長秀」


「船と」


「兵糧を」


「数えろ」


「御意」


     ◆


信長が。


最後に。


言った。


「まだ」


「戦ではない」


全員が。


信長を見る。


「顕如が」


「備えるなら」


「こちらも」


「備える」


「だが」


「先に」


「殴るな」


柴田が。


いれば。


少し。


不満そうな顔を。


したかもしれない。


宗一郎は。


そんなことを。


考えた。


     ◆


軍議が。


終わる。


光秀だけが。


少し。


残った。


「殿」


「何だ」


「一つ」


「よろしいでしょうか」


「申せ」


「この報せ」


光秀が。


朝廷からの。


書を見る。


「どこから」


「得たのでしょう」


信長が。


光秀を見る。


     ◆


「知らぬ」


「主上は」


「毛利と」


「石山の動きを」


「ここまで」


「早く」


「掴んでおられる」


「ああ」


「不思議では」


「ございませぬか」


信長が。


少し。


笑った。


「気になるか」


「はい」


     ◆


「なら」


「聞いてこい」


光秀の目が。


僅かに。


大きくなる。


「主上へ」


「直接で」


「ございますか」


「お前は」


「冬のことを」


「任せておる」


「朝廷へ」


「出入りする理由は」


「いくらでもある」


「ですが」


「聞いて」


「答えてくださるでしょうか」


信長が。


鼻で笑う。


     ◆


「知らん」


「……」


「だから」


「聞くのだろう」


光秀は。


しばらく。


黙った。


そして。


頭を下げた。


「承知いたしました」


     ◆


その夜。


宗一郎は。


甲斐から。


届いた。


新しい報告を。


読んでいた。


一行。


以前には。


なかった。


記述。


――信玄付き医師。


――薬種購入。


――完全停止。


宗一郎の。


指が。


止まる。


     ◆


「半兵衛」


「はい」


「寺は」


「まだです」


「もう一度」


「調べています」


「僧を」


「無理に」


「追うな」


「承知しております」


宗一郎は。


紙を。


置く。


かなり。


近い。


だが。


まだ。


言わない。


     ◆


同じ夜。


禁裏。


帝の前にも。


新しい報告が。


届いていた。


――躑躅ヶ崎館。


――夜間。


――密かに。


――香が大量に運び込まれる。


――寺院関係者。


――複数出入り。


――翌朝。


――痕跡なし。


帝は。


目を閉じた。


「葬いか」


老人は。


答えない。


帝も。


それ以上。


言わなかった。


     ◆


高槻の網。


帝の影。


別々の。


道。


別々の。


目。


別々の。


報告。


だが。


二つは。


同じ場所へ。


近づいていた。


甲斐の虎。


武田信玄。


その死へ。


     ◆


そして。


そのことを。


最も。


恐れている男が。


甲斐にいた。


武田勝頼。


父の。


死を。


隠す。


だが。


ただ。


隠れているだけでは。


武田は。


弱くなる。


勝頼は。


父の。


座っていた場所へ。


一人。


座った。


誰も。


いない。


部屋。


「父上」


返事は。


ない。


     ◆


「いつまで」


「あなたの」


「影に」


「隠れていれば」


「よいのです」


当然。


答えは。


返らない。


勝頼は。


目を閉じる。


やがて。


開いた。


その目から。


迷いが。


少し。


消えていた。


     ◆


「三年など」


「待てぬ」


勝頼が。


呟いた。


父の。


死を。


三年隠す。


だが。


三年。


自分が。


父の影として。


生きれば。


武田勝頼という。


当主は。


いつ。


生まれる。


     ◆


「武田を」


「残す」


それは。


父の。


最後の命。


だが。


父の。


真似を。


し続けることが。


武田を。


残すことなのか。


勝頼は。


立ち上がった。


「高坂を」


「呼べ」


外から。


声。


「はっ」


     ◆


少しして。


高坂昌信が。


入る。


「お呼びに」


「昌信」


「は」


「父上の」


「死は」


「隠す」


「御意」


「だが」


勝頼の目が。


高坂を見る。


「武田まで」


「止めるつもりはない」


高坂の。


表情が。


僅かに。


変わった。


     ◆


「明日から」


「評定を」


「増やす」


「私が」


「出る」


「御屋形様」


「父上の」


「名を使ってもよい」


勝頼が。


言う。


「だが」


「決めるのは」


「私だ」


沈黙。


高坂は。


しばらく。


勝頼を。


見ていた。


やがて。


深く。


頭を下げる。


「承知」


「いたしました」


     ◆


虎が。


消えた。


だが。


武田は。


消えていない。


その中から。


別の男が。


立とうとしている。


それが。


武田を。


救うのか。


滅ぼすのか。


まだ。


誰にも。


分からない。


宗一郎にも。


帝にも。


分からない。


ただ。


確かなことが。


一つだけ。


あった。


将軍が。


消えた。


織田と。


皇統が。


結ばれ始めた。


石山が。


毛利へ。


手を伸ばした。


そして。


甲斐では。


一つの時代を。


支えた。


虎が。


もう。


この世から。


消えていた。


時代は。


また。


一つ。


大きく。


動こうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。