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『天下布武、その先へ』―転生者と織田信長が拓いた、誰も知らない日本史―  作者: みなみ


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第八十一章 帝の調停

第八十一章 帝の調停


朝廷からの使者が。


織田信長の屋敷を訪れたのは。


昼前だった。


信長は。


上座に座ったまま。


書状を読んでいた。


宗一郎。


明智光秀。


丹羽長秀。


羽柴秀吉。


竹中半兵衛。


京にいる主だった者たちが。


その場に揃っている。


読み終えた信長は。


書状を畳んだ。


「……なるほど」


宗一郎は。


黙っていた。


内容は知っている。


正確には。


帝が何を考えているかを。


知っている。


だが。


それを。


信長には言えない。


「何と?」


秀吉が尋ねた。


信長は書状を長秀へ渡す。


「石山との調停だ」


「調停?」


秀吉の顔が変わった。


長秀が読む。


そして。


光秀へ。


光秀が目を通したところで。


眉が動いた。


「攻撃停止……」


「そこだけ読むな」


信長が言った。


光秀が続ける。


本願寺側には。


諸国への軍事動員停止。


武器の集積停止。


石山を含む寺内の武装解除。


城郭として用いる施設の縮小。


織田領内での一揆扇動停止。


そして。


これらが履行されるなら。


織田方も。


石山への攻撃を停止する。


宗一郎が。


静かに息を吐いた。


秀吉が言った。


「こりゃ……」


長秀が続ける。


「本願寺が飲むとは思えませぬ」


「飲まぬだろうな」


信長は即答した。


光秀が。


信長を見る。


「では」


「朝廷は最初から」


信長の目が。


光秀へ向いた。


「言葉を選べ」


光秀は頭を下げる。


「失礼いたしました」


宗一郎は。


何も言わなかった。


だが。


内心では。


少し驚いていた。


信長は。


気づいている。


帝が。


単純に戦を止めようとしているわけではないことに。


「殿」


半兵衛が尋ねる。


「いかがなさいます」


信長は。


間を置かなかった。


「受ける」


秀吉が目を見開く。


「攻撃停止を?」


「ああ」


「しかし」


「条件付きだ」


信長は言った。


「本願寺が兵を捨てるなら」


「儂も撃たぬ」


宗一郎が。


信長を見る。


「本当に?」


信長の目が。


宗一郎へ向く。


「何だ」


「いや」


「お前」


信長の目が細くなる。


「何か知っておるな」


宗一郎の背筋に。


冷たいものが走った。


「何も」


「嘘が下手だな」


半兵衛が。


横を向いた。


笑いを堪えている。


「本当に何もありません」


「ならばよい」


信長は。


それ以上追わなかった。


だが。


宗一郎は。


別の意味で。


少し怖くなった。


――この人。


――やっぱり鋭い。


     ◆


翌日。


朝廷の調停が始まった。


場所は。


禁裏そのものではない。


朝廷側が用意した。


京の一角にある屋敷。


武装した兵は。


外まで。


中へ入れる供の数も。


厳しく制限された。


織田側。


信長。


光秀。


長秀。


そして。


宗一郎。


将軍側。


足利義昭。


幕臣数名。


本願寺側。


顕如本人は来なかった。


名代として。


重臣と僧侶が入った。


それだけでも。


宗一郎には。


意味が分かった。


――顕如は。


――まだ逃げ道を残している。


本人が来れば。


そこで発した言葉が。


そのまま本願寺の決定になる。


名代なら。


「持ち帰る」が使える。


時間を稼げる。


宗一郎が。


本願寺の名代を見る。


向こうも。


宗一郎を見ていた。


目が合う。


互いに。


軽く頭を下げた。


戦場とは違う。


刀はない。


鉄砲もない。


だが。


ここも。


戦場だった。


     ◆


朝廷側から。


調停の条件が。


改めて読み上げられた。


信長は。


黙って聞く。


義昭も。


黙っている。


本願寺側も。


表情を変えない。


すべて読み終える。


最初に口を開いたのは。


義昭だった。


「まずは」


「双方」


「兵を退くべきであろう」


信長が義昭を見る。


「双方?」


「そうだ」


義昭は言った。


「織田は石山への軍勢を退ける」


「本願寺も」


「織田への敵対を止める」


宗一郎は。


心の中で。


ため息をついた。


言葉だけなら。


公平。


だが。


違う。


織田が兵を退けば。


本願寺は。


寺。


村。


門徒。


商人。


水運。


それらを使って。


再び力を蓄えられる。


武装解除をしない停戦は。


本願寺に時間を与えるだけ。


信長が尋ねた。


「上様」


義昭の眉が動く。


「何だ」


「朝廷の御条件には」


「本願寺の武装解除がございます」


義昭が。


僅かに間を置く。


「それは」


「話し合えばよい」


「何を?」


信長の声は。


静かだった。


「槍を何本残すか」


「鉄砲を何挺残すか」


「城壁をどれだけ残すか」


義昭の顔が険しくなる。


「信長」


「ここは戦場ではない」


「存じております」


信長は。


一度。


本願寺側を見る。


「だから」


「聞いておるのです」


     ◆


信長が。


本願寺の名代へ向き直る。


「本願寺は」


「寺か」


部屋が。


静かになった。


名代の僧が答える。


「無論」


「仏法を守る寺院にございます」


「ならば」


信長が言った。


「何故」


「鉄砲が要る」


誰も。


すぐには答えなかった。


「何故」


「堀が要る」


「何故」


「兵糧を集める」


「何故」


「諸国へ使者を出し」


「兵を集める」


僧の顔が。


僅かに強張る。


「織田殿が」


「寺領を脅かすゆえ」


「違う」


信長は即座に切った。


「儂が問うているのは」


「どちらが先かではない」


信長の目が。


鋭くなる。


「これから」


「どうするかだ」


僧が黙る。


信長は続ける。


「槍を捨てろ」


「鉄砲を捨てろ」


「城を寺へ戻せ」


「諸国の門徒へ」


「戦えと命じるのをやめろ」


一つずつ。


「それをするなら」


信長は言った。


「儂は石山を攻めぬ」


義昭の顔が。


僅かに動いた。


本願寺側にも。


ざわめきが走る。


宗一郎は。


信長を見ていた。


これは。


帝の言葉ではない。


信長自身の言葉。


「寺として残るなら」


信長が続ける。


「残れ」


「祈れ」


「教えを説け」


「病人を救え」


「死者を弔え」


「儂は止めぬ」


そして。


声が。


一段低くなる。


「だが」


「兵を持つなら」


「寺とは見ぬ」


「敵として討つ」


     ◆


義昭が。


扇を握った。


話が。


想定と違う。


信長が。


拒否してくれればよかった。


朝廷の調停を。


「戦を止められぬ」と。


蹴ればよかった。


そうすれば。


信長は。


朝廷の意向すら無視する男だと。


言える。


だが。


信長は受けた。


それどころか。


本願寺へ。


選択を突きつけた。


義昭が口を挟む。


「本願寺にも」


「事情がある」


信長が。


ゆっくり。


義昭を見る。


「上様」


「何だ」


「何故」


一拍。


「本願寺の事情を」


「上様が弁明されるのです」


空気が。


凍った。


義昭の顔が。


赤くなる。


「何を申す」


「そのままにございます」


「余は将軍として」


「争いを収めようとしておる!」


「ならば」


信長は答える。


「朝廷の御条件を」


「双方へ守らせればよろしい」


「織田だけではなく」


「本願寺にも」


義昭は。


言葉に詰まった。


     ◆


宗一郎は。


義昭を見ていた。


焦っている。


義昭は。


自分が仲裁者だと思っている。


だが。


今。


その立場が。


崩れ始めている。


もし。


本当に公平な仲裁者なら。


本願寺へも。


武装解除を求めなければならない。


だが。


それを強く求めれば。


顕如との関係が壊れる。


逆に。


本願寺を庇えば。


信長の言う通り。


仲裁者ではなく。


一方の側にいることになる。


――帝は。


――ここまで見ていたのか。


宗一郎は。


背筋が。


少し寒くなった。


     ◆


本願寺の名代が。


ようやく口を開いた。


「武装解除については」


「顕如様へ持ち帰り」


「改めて」


「いつまでだ」


信長が聞いた。


僧が止まる。


「何がでしょう」


「返答だ」


「……」


「三日か」


「五日か」


「十日か」


信長は。


僧から目を逸らさない。


「いつまで待てばよい」


僧は。


答えられない。


義昭が言う。


「信長」


「急かすな」


「急かしてはおりませぬ」


信長は言った。


「期限を聞いております」


「戦には」


「毎日」


「人が死ぬ」


宗一郎の目が。


僅かに動く。


信長が。


そう言った。


「話し合いのために」


「一月待てと言うなら」


「その一月」


「誰が死ぬ」


「越前か」


「近江か」


「伊勢か」


「石山か」


「それを決めるのは」


「ここにいる者ではない」


信長は。


名代を見る。


「七日」


「七日待つ」


僧が顔を上げる。


「その間」


「儂から石山へ攻めぬ」


宗一郎が。


信長を見る。


「ただし」


信長が続ける。


「本願寺も」


「兵を動かすな」


「使者を使って」


「一揆を起こすな」


「兵糧を運ぶな」


「鉄砲を集めるな」


「七日後」


「返答を聞く」


僧は。


しばらく黙り。


頭を下げた。


「持ち帰ります」


     ◆


調停は。


そこで終わらなかった。


最後に。


朝廷側の公家が。


帝の言葉を伝えた。


「双方」


「この七日の間」


「新たに兵を動かさぬこと」


「また」


「他国へ軍勢を求める書状を送らぬこと」


義昭の顔が。


変わった。


宗一郎は。


見逃さなかった。


――そこか。


義昭。


そして。


本願寺。


諸国へ。


すでに。


書状を飛ばしている。


武田。


毛利。


三好。


各地の反織田勢力。


あるいは。


徳川。


朝廷は。


それを。


知っている。


全部ではない。


だが。


見ている。


「上様」


公家が義昭を見る。


「将軍家にも」


「同様に」


「この七日」


「諸国への軍勢催促を」


「お控えいただきたいとの」


「主上の仰せにございます」


義昭の顔が。


強張った。


「余にも?」


「御意」


「余は」


義昭が言う。


「征夷大将軍ぞ」


公家は。


静かに頭を下げた。


「ゆえに」


「ございます」


義昭が黙った。


信長は。


何も言わなかった。


だが。


宗一郎には。


信長の口元が。


ほんの僅かに。


動いたように見えた。


     ◆


その夜。


石山。


顕如は。


名代から。


調停の内容を聞いていた。


教如もいる。


「七日」


顕如が言った。


「はい」


「信長は」


「攻めぬと?」


「はい」


「条件は」


「武装解除」


顕如は。


目を閉じた。


予想していた。


だが。


朝廷が。


そこまで踏み込むとは。


予想していなかった。


「父上」


教如が言う。


「受けるのですか」


顕如は。


目を開ける。


「受ければ」


「本願寺は残る」


「なら」


「寺としてな」


教如が黙る。


顕如は。


ゆっくり立ち上がる。


「武器を捨てる」


「城を解く」


「諸国への命を止める」


「それは」


「我らが」


「信長の支配下へ入るということだ」


「では」


「拒む?」


顕如は。


答えない。


代わりに尋ねる。


「使者は」


「止められるか」


側近が答える。


「すでに出た者がおります」


「どこへ」


いくつもの名。


顕如は。


黙って聞いた。


最後に。


一つ。


「毛利へも」


顕如の目が。


僅かに動いた。


「そうか」


     ◆


「七日間」


顕如が言った。


「新たな使者は出すな」


教如が驚く。


「父上」


「朝廷との約定だ」


「守るのですか」


顕如が。


息子を見る。


「当然だ」


教如は。


父の顔を見た。


だが。


その目には。


まだ何かある。


「ただし」


顕如が言った。


「七日前に出た使者まで」


「呼び戻せとは」


「言われておらぬ」


教如の目が。


僅かに大きくなる。


顕如は。


窓の外を見る。


「信長は」


「七日止まる」


「その七日で」


「何が返ってくるかを見る」


毛利。


諸国の門徒。


反織田勢力。


そして。


将軍。


「戦とは」


顕如が言った。


「兵を動かしている時だけ」


「進むものではない」


     ◆


同じ夜。


足利義昭の館。


義昭は。


怒っていた。


「何故だ!」


扇が。


畳へ叩きつけられる。


「何故余まで」


「兵を動かすなと言われる!」


誰も。


答えない。


「余は」


「争いを収めようとしたのだぞ!」


家臣の一人が。


恐る恐る言う。


「上様」


「何だ!」


「朝廷は」


「将軍家から諸国へ出た書状を」


「把握しているのでは」


義昭が止まった。


「……誰が漏らした」


「分かりませぬ」


「信長か」


「あるいは高槻」


「調べろ!」


「はっ」


義昭は。


立ち上がる。


そして。


歩き回る。


七日。


何もできない。


いや。


違う。


表向きは。


何もできない。


「上様」


別の家臣が言った。


「すでに」


「近江方面の者たちとは」


「話がついております」


義昭が止まる。


「何人だ」


家臣が答える。


義昭の顔に。


少しずつ。


笑みが戻った。


「そうか」


「ならば」


「余が新たに命じる必要はない」


家臣が。


僅かに顔を上げる。


「上様」


「余は」


義昭が言った。


「何も命じぬ」


「七日間はな」


     ◆


翌朝。


宗一郎のもとへ。


最初の報告が届いた。


近江。


将軍家に近い国人が。


兵を集めている。


命令を受けてではない。


「自発的に」


そう言っている。


二つ目。


河内。


本願寺門徒の間で。


米が動いている。


兵糧ではない。


「寺への寄進」


そう言っている。


三つ目。


紀伊。


船が。


石山へ向かう準備を始めている。


商船。


そう届けられた。


宗一郎は。


三枚の紙を。


机へ並べた。


半兵衛が見る。


「七日もたないな」


「うん」


宗一郎が答える。


「いや」


一枚を取り上げる。


「最初から」


「止まる気なんてない」


「顕如も?」


「顕如は」


宗一郎が考える。


「約束の文言は守ると思う」


半兵衛の目が細くなる。


「文言は?」


「新しく兵を動かすな」


「新しい使者を出すな」


「なら」


宗一郎は言った。


「前に出した命令は?」


半兵衛が。


僅かに笑った。


「なるほど」


「義昭も同じだ」


宗一郎は。


近江の報告を見る。


「自分が命じなければ」


「勝手に兵が集まったと言える」


「では」


半兵衛が尋ねる。


「どうする」


宗一郎は。


すぐには答えなかった。


帝の調停。


それを。


壊してはいけない。


こちらから動けば。


相手の狙い通りになる。


だが。


放っておけば。


七日後。


敵は。


さらに増える。


「記録する」


宗一郎が言った。


「全部」


「いつ」


「誰が」


「どこから」


「何を運んだ」


「誰の書状を持っていた」


「誰に会った」


半兵衛が頷く。


「証拠か」


「うん」


宗一郎は言った。


「今回は」


「勝つだけじゃ駄目だ」


「どちらが」


「調停を破ったのか」


「誰の目にも分かる形にする」


     ◆


そこへ。


信長が入ってきた。


「宗一郎」


「はい」


「近江の話は聞いた」


「早いですね」


「儂を誰だと思っておる」


宗一郎は。


少し笑った。


「どうします?」


信長は答えた。


「何もせぬ」


宗一郎が。


僅かに驚く。


「七日は」


「動かぬ」


信長は座る。


「主上へ」


「儂は受けると申し上げた」


「ならば守る」


宗一郎は。


信長を見る。


「その間に」


「敵が集まっても?」


「集めさせろ」


信長の目が。


鋭くなる。


「七日後」


「まとめて聞く」


「誰の命で」


「集まった兵か」


宗一郎は。


思わず。


笑った。


「何だ」


「いえ」


「陛下と」


言いかけて。


宗一郎は止まった。


信長の目が細くなる。


「主上と?」


「……考え方が」


宗一郎は誤魔化した。


「少し似ているなと」


信長が鼻で笑う。


「恐れ多いことを言うな」


「すみません」


信長は。


机の報告を見る。


「宗一郎」


「はい」


「調べろ」


「何を?」


「全部だ」


信長は言った。


「石山」


「将軍」


「近江」


「河内」


「紀伊」


「そして」


一度。


言葉を切る。


「朝廷の中も」


宗一郎の顔が。


僅かに変わった。


「朝廷も?」


「主上ではない」


信長が言う。


「公家だ」


宗一郎は。


理解した。


義昭。


顕如。


二人とも。


朝廷の中へ。


すでに手を伸ばしている。


調停が。


帝の意志だけで。


動くとは限らない。


「分かりました」


     ◆


そして。


その日の夕刻。


禁裏。


帝の前にも。


同じ報告が届いていた。


近江。


河内。


紀伊。


兵。


米。


船。


帝は。


一枚ずつ読む。


「始めたか」


側近が尋ねる。


「調停を破ったのでしょうか」


「まだだ」


帝は答える。


「まだ?」


「言葉の上ではな」


側近が黙る。


帝は。


紙を置いた。


「顕如は」


「こういうところが上手い」


「命じずに動かす」


「将軍も」


「真似を始めた」


帝は。


少しだけ笑った。


だが。


その目は。


笑っていない。


「ならば」


「七日」


「見よう」


「七日後」


「誰が何をしたか」


「すべて並べる」


側近が頭を下げる。


その時。


別の者が入ってきた。


「主上」


「何だ」


「鷹司様より」


帝の目が。


僅かに変わる。


「返答がございました」


「いつ会える」


「明後日であれば」


帝は頷いた。


「よい」


側近が。


少し不思議そうな顔をする。


「鷹司家と」


「何のお話を?」


帝は。


答えなかった。


まだ。


誰にも言わない。


だが。


一つだけ。


心は決まっていた。


信長の娘を。


いきなり禁裏へ迎えることはできない。


格式。


家格。


朝廷内部の反発。


将軍の反発。


すべてが。


大きすぎる。


だから。


一度。


公家の娘にする。


それも。


誰でもよいわけではない。


五摂家。


鷹司。


そこを通す。


そして。


本人を見る。


信長の娘を。


政治の駒としてではなく。


一人の人間として。


自分の妻にできるのか。


自分を。


夫として選ぶのか。


そこまで。


確かめる。


帝は。


静かに言った。


「まず」


「鷹司と話す」


     ◆


石山では。


顕如が。


七日後を見ていた。


将軍は。


近江を見ていた。


信長は。


集まり始めた兵を見ていた。


宗一郎は。


誰が何を動かしているのかを見ていた。


そして。


帝だけが。


そのさらに先を見ていた。


調停が終われば。


天下の関係が変わる。


将軍。


本願寺。


織田。


朝廷。


その四つの間にあった。


曖昧な線が。


はっきりする。


そして。


その時。


帝は。


もう一本。


新しい線を引くつもりだった。


織田から。


鷹司へ。


鷹司から。


禁裏へ。


武力では結べないものを。


血で結ぶ。


だが。


その婚姻が。


祝福だけを生むことはない。


足利義昭にとって。


それは。


信長が将軍を飛び越え。


朝廷と直接結びつくことを意味する。


顕如にとって。


それは。


織田を孤立させるという策が。


根本から崩れることを意味する。


そして。


公家たちにとって。


それは。


武家の血が。


皇統へ入る可能性を意味する。


七日の調停。


その裏で。


もっと大きな戦の種が。


静かに。


芽を出そうとしていた。

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