第9話:削り合いの密室
ジャラジャラジャラジャラ……!
無機質な全自動卓の音が、冷たい地下室に響き渡る。
「『九種九牌』」
私が牌を倒す。
卓が牌を飲み込む。
そしてまた、同じ牌山がせり上がる。
ただそれだけの光景が、狂った時計のように何度も、何度も繰り返されていた。
——開始から、4時間が経過した。
「てめぇ……いい加減にしろよ! ぶっ殺されてえのか!!」
南家の男がガタッと立ち上がり、卓を蹴り上げるようにして怒鳴り散らす。
最初はせせら笑っていた男たちの顔には、今やどす黒い疲労と苛立ちが張り付いていた。
ギャンブル特有の高揚感を味わうこともなく、ただ永遠に勝敗のつかない反復作業を見せられ続ける苦痛。
それは、スリルを餌に生きる彼らにとって拷問に等しかった。
「殺すならどうぞ。ただし、対局相手への物理的な接触行為は反則扱いです。あなたはペナルティとして2億5千万円の借金を背負うことになりますが」
「クソッ……! クソガキがぁッ!!」
男は血走った目で私を睨みつけるが、手を出してくることはない。
莫大な違約金という鎖に繋がれた彼らは、私が『九種九牌』を宣言するたび、ただ無力にそれを見届けることしかできないのだ。
——さらに時間が過ぎ、6時間が経過した。
地下室の空気は、異様な重さに包まれていた。
怒鳴り散らしていた南家の男も、とうとう暴言を吐く気力すら失い、ただ荒い息を吐きながら私の手元を睨んでいる。
西家の男は腹を押さえ、ギュルギュルと鳴る胃の痛みに身をよじらせていた。
「めし……何か食わせろ……」
空腹に悶え、うわ言のように繰り返している。
だが、温室育ちの悪党には耐えられないその飢えも、私にはどうってことはない。
母の医療費を工面するため、三日三晩、水道水だけで飢えを凌いだことなど何度もある。
それに比べれば、数時間程度の絶食など日常の延長でしかなかった。
北家の男は完全に目がうつろになり、焦点が合っていなかった。
背もたれにぐったりと首を預け、長時間同じ姿勢で拘束される苦痛に耐えきれない様子だ。
しかし、違法スレスレの劣悪なバイトで、休憩なしの10時間ぶっ通しで立ち仕事をさせられていた私にしてみれば、この状況などまだマシな方だった。
冷暖房の完備された部屋で、ふかふかの椅子に座っていられるだけで、あの地獄のような日々よりはずっと楽だった。
「『九種九牌』」
私が感情のない声で宣言するたび、男たちの肩がビクッと跳ねる。
恵まれた環境で、弱者を一方的に搾取することしかしてこなかった彼らには、決定的なものが欠けていた。
それは、「理不尽な泥臭さに耐え抜く力」。
極限状態での忍耐力において、どん底の生活を這いつくばってきた私と彼らとでは、最初から勝負にならなかった。
「あ、あぁ……クソ……」
南家の男が、顔を歪めてテーブルに突っ伏す。
私の武器は「九種九牌」という麻雀のルールだけではない。
過酷な生活で培ってきた、この「底辺の精神力」こそが、見下してきた彼らを真綿で首を絞めるように追い詰める、最大の凶器だった。




