↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/12

第10話:限界点

挿絵(By みてみん)

——開始から、8時間が経過した。


冷暖房が完備されているはずの地下室は、今や異様な熱気と、男たちが発する脂汗の臭いが充満していた。


「あ……う、あ……」


南家の男の口から、意味にならない呻き声が漏れる。

卓の上に置かれた彼の両手は、まるで病的な発作のように小刻みに震え続けていた。


焦点の定まらない目で虚空を見つめ、時折ビクッと痙攣するように肩を揺らしている。


逃げたい。

休みたい。

今すぐこの場から解放されたい。


男たちの全身から、そんな悲鳴が聞こえてくるようだった。


だが、席を立てば『試合続行不可能』とみなされ、2億5千万円のペナルティが確定する。

その絶望的な恐怖の鎖が、限界を超えた彼らの身体を無理やり椅子に縛り付けていた。


ジャラジャラジャラジャラ……!


「『九種九牌』」


数秒の静寂。

そして再び機械音。


私にとっては何百回と繰り返した作業だが、アガることも逃げることもできず、ただ見せられ続ける男たちにとって、その音は精神を削り取る死神の足音に等しかった。


もちろん、私に疲労がないわけではない。

目は乾燥してひりつき、指先はこわばり、背中には鉛のような重さを感じている。

チャイナドレスという不慣れで窮屈な衣装も、確実に体力を奪っていた。


(お母さん……)


意識が遠のきそうになる瞬間、私の脳裏に浮かぶのは、薄暗い病室で眠る母の青白い横顔だった。

母は私のために、身を粉にして働き続けて倒れた。


あの過労と借金の地獄に比べれば、ただ椅子に座って同じ言葉を繰り返すだけのこの時間が、どれほど恵まれていることか。


ここで私が折れれば、母は助からない。

それどころか、二人揃ってこの闇組織に食い物にされる。


負けられない。

絶対に。

母の命という、絶対に譲れない『核』がある限り、私の心は決して折れない。


——そして、9時間が経過。


「ヒッ……ヒィッ……」


とうとう西家の男が、顔を両手で覆いながら異様な泣き声を上げ始めた。


「もうやだ……帰る……勘弁してくれ……」


大の大人が、幼児のように泣きじゃくっている。

極限のストレスと疲労、空腹、そして終わりの見えない拘束が、完全に彼の精神のタガを外していた。


対する私は、表情一つ変えず、ただ静かに、淡々と牌を開き続ける。

誰の目から見ても明らかだった。

この異常な耐久戦の『限界点』は、とうの昔に過ぎている。


完全なる決着の時は、すぐそこまで迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。