第11話:勝者と異常者
——開始から10時間が経過した。
「あ……ぁぁ……」
南家の男がうわ言のように呻いたかと思うと、そのまま白目を剥いて卓に突っ伏した。
極度の疲労と恐怖、そしてストレスによる完全な気絶。
もはや誰の目にも、彼がこれ以上麻雀の牌を握ることは不可能だと明らかだった。
「……試合続行不可能、ですね」
私が冷たく静かに告げると、その言葉を合図にしたように、西家と北家の男たちも糸が切れた操り人形のように次々とその場に崩れ落ちた。
これで、私の勝ちだ。
そう確信して息をついた時、部屋の隅からゆっくりと、乾いた拍手の音が響いた。
パチ、パチ、パチ……。
「いやぁ、実に素晴らしい耐久戦でした」
ずっと立会人として控えていた、GGGの幹部だった。
彼は床に倒れ伏す3人の男たちを一瞥すると、何の情け容赦もない冷酷な声で言い放った。
「お前たちの負けだ。約束通り、連帯責任として3人で2億5千万円の負債を均等に背負ってもらおう。……おい、さっさと役立たずどもをつまみ出せ」
幹部の指示に従い、黒服の男たちが音もなくなだれ込み、意識を失った男たちを雑巾のように引きずり出していく。
その光景を見つめながら、私は密かに背筋を凍らせていた。 あの3人の誰が負けたとしても、結局は全員で莫大な借金を背負わされる仕組みになっていたのだ。
GGGにとって、あの男たちすらも私を陥れるための単なる使い捨ての「駒」に過ぎなかった。
「さて、トキさん。見事なまでの精神力でした。こちらが約束の報酬です」
幹部はビジネスライクににこやかに微笑み、私に約束された報酬が振り込まれた口座の画面を見せてきた。
母の入院費も、父の借金も、これですべて清算できる額だった。
その後、彼は恭しく頭を下げると、私をあの地下闘牌場から地上へと続く出口へ案内した。
「本当に、お見事でしたよ。……また、気が向いたら遊びに来てください。お会いできる日を楽しみにしています」
重い扉が閉まり、久しぶりに浴びる外の冷たい空気を肺いっぱいに吸い込みながら、私はふと、拭い去れない強烈な違和感を覚えた。
10時間。
あの幹部は、私や男たちと同じ密室にずっといた。
一睡もせず、座ることもなく、立ちっぱなしだったはずだ。
それなのに、彼の額には一滴の汗すら浮かんでおらず、息一つ乱れていなかった。
(……異常だわ。あの男も、この組織も、人間じゃない何かみたいに……)
底知れないGGGの闇の深さに身震いしながら、私はまだ昇りきらない朝の冷気の中へと、静かに歩き出した。




