第12話(最終話):最強の定義と開かれた扉
数日後。
口座に振り込まれた大金で父の借金を一括返済し、母の治療費をすべて支払い終えた私は、自室の机に向かい、パソコンの画面を見つめていた。
検索窓に打ち込んだのは、『国士無双』という言葉。
あのイカサマ卓で、常に私を縛り付けていた役の名前。
【国士無双】——国に並ぶ者のない、優れた人物。国一番の武人。
画面に表示された辞書の意味を見つめながら、私は小さく息を吐いた。
「並ぶ者のない武人、ね……」
私はマウスから手を離し、自分の両手のひらをじっと見つめる。
「でも、私にとっての最強は違う。何度理不尽な敵が現れても、決して心が折れないこと。最後まで絶対に倒れないこと……それが、私の最強の形」
——それから、しばらくして。
最新の医療を受けた母は驚くべき回復を見せ、無事に退院の日を迎えた。
自宅の食卓でささやかな退院祝いを囲みながら、母はどうしても気になっていた疑問を口にした。
「ねえ、トキ。本当に大丈夫なの? お父さんの借金も、私の高額な入院費も……一体どうやってそんな大金を用意できたの?」
心配そうに顔を曇らせる母に、私は正直に答えることにした。
疚しいことをしたわけではないのだから。
「実はね、GGGっていう組織が主催してる、麻雀の大会に出たの。そこで勝って、賞金をもらったんだ」
「……え?」
その瞬間、母の顔からサァッと血の気が引いた。
持っていたお箸が、カランと音を立ててテーブルに落ちる。
「お、母さん……?」
「あなた、今……GGGって言った……? だって、あなたのお父さんは……あの組織に騙されて、あんな途方もない借金を背負わされたのよ……!?」
「え……?」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
父を死に追いやった借金の元凶が、他でもないGGGだった?
じゃあ、あの地下での麻雀大会は?
あの幹部が私に告げた言葉や、向けられた異様なまでの高評価は、一体なんだったというのだろう。
『ピンポーン! 郵便でーす!』
張り詰めた沈黙を引き裂くように、玄関のインターホンが陽気な音を鳴らした。
母と顔を見合わせ、私たちは冷や汗を流しながら恐る恐る玄関へと向かう。
受け取ったのは、黒いシーリングワックスで重々しく封がされた、一通の分厚い封筒だった。
差出人の欄に目を向けた瞬間、私は全身の血が凍りつくのを感じる。
そこには、美しく冷徹な明朝体でこう印字されていた。
——『GGG採用担当』
「——!?」
(了)




