第8話:終わらない局、見下された少女の武器
「現在のレートは、初戦から100倍……さらに跳ね上がり、現在は1点につき1万円の計算です。ハコテンのペナルティによる精算が発生すれば、あなたは2億5千万円の負債を、親の私と、残りのプレイヤーに分割して支払うことになりますが……本当に、ここで降りるんですか?」
その言葉に、男の動きがピタリと止まった。
静まり返った地下室に、私の声だけが冷たく響く。
「な……にをバカなことを言ってやがる。そんなふざけたルールは無かったことに――」
「ルールは」
私は男の言い訳を遮り、強い口調でピシャリと割り込んだ。
そして、男たちとGGGの役員を真っ直ぐに見据える。
「変更しないと約束していただきました」
「…………ッ」
男の顔が微かに引きつった。
彼らはようやく気付いたのだ。
『絶対に勝てるイカサマ』にタダ乗りして私を食い物にしようとした結果、自分たちで自分自身の退路を断ってしまったことに。
私からすべてを搾り取るために設定された「天和禁止」という理不尽なルール。
私を確実に絶望させるために用意された「国士無双13面待ち」というイカサマ配牌。
私を絶対に逃がさないために敷き詰められた「莫大なハコ割れペナルティ」。
そして、私が連戦の条件として突きつけた「ルール変更の絶対禁止」。
すべての罠が完全に裏返り、今や彼ら自身の首へと太い鎖となって巻き付いていた。
「ふん……だとしても、こんな茶番がいつまでも続くわけがない」
男は顔を引きつらせながら強がって鼻を鳴らすと、忌々しそうに再び椅子へと腰を下ろした。
私のような小娘が、何時間もこの異常な緊張感に耐えられるはずがない。
いずれ根負けして、どこかでうっかり牌を捨てるに違いない。
そう高を括っているのがありありと分かった。
「じゃあ、続行します」
私が静かに宣言し、役員が冷や汗を拭うような手つきで全自動卓のボタンを押す。
ジャラジャラジャラジャラ……!
冷たい機械音が鳴り響き、再び同じ牌山がせり上がる。
10ループ目。 「『九種九牌』」
20ループ目。 「『九種九牌』」
イカサマを仕組んだのは彼ら自身だ。
裏のプログラムを解除しない限り、配牌は永遠に変わらない。
そして、この状況下で機械に触れてプログラムをいじることは、そのまま「ルール変更」あるいは「不正の自白」に他ならない。
50ループ目。 「『九種九牌』」
「おい……いい加減にしろよ、ガキ! いつまで同じことを繰り返す気だ!」
「ルール通りに打っているだけです。……次、お願いします」
男たちの顔から完全に余裕が消え去り、焦燥と泥のような苛立ちが浮かび上がっていた。
私が牌を一枚でも捨てさえすれば、『人和』で一網打尽にできる。
しかし、私が第一ツモの時点で流局させ続ける限り、彼らには永遠に手番すら回ってこない。
盤石だと思っていた絶対的な暴力が、たった一つのルールの盲点によって完全に無力化された瞬間。
見下されていた少女が放った、静かで、そして最も残酷な反撃。
ここから先は、麻雀の技術も運も関係ない。
どちらの精神が先に崩壊するか。
それだけを競う、血を吐くような「削り合い」の無限地獄が幕を開けた。




