第7話:九種九牌(きゅうしゅきゅうはい)
「『九種九牌』。……これにて、流局です」
「……は?」
男の顔から、一瞬にして表情が抜け落ちた。
麻雀において、配牌時に一・九・字牌が9種類以上あった場合、プレイヤーの宣言によってその局を無効――つまり「引き分け」にできるローカルかつ基本的なルールがある。
私の手牌は国士無双13面待ち。
ヤオチュウ牌しか存在しない手なのだから、条件は完全に、過不足なく満たしている。
「なっ……! てめぇ、何して……!」
「……次、お願いします」
『天和』は禁止されたが、『九種九牌』を禁止するルールは事前の取り決めに入っていない。
「チッ、悪あがきしやがって。一回やり直したところで、イカサマ卓の配牌は変わらねえんだよ!」
男が盛大に舌打ちをする。
再び自動卓が牌を飲み込み、新たな局が始まる。
第2戦目(2ループ目)。
配牌。第一ツモ。 「『九種九牌』」
3ループ目。 「『九種九牌』」
4ループ目。 「『九種九牌』」
男たちの顔から、先ほどまでの余裕の笑みがすっかり消え始めていた。
彼らはようやく気付き始めたのだ。
私が『アガる』ためでも『逃げる』ためでもなく、ただ『相手にツモらせず、人和の機会を完全につぶすため』だけにこの行動を繰り返していることに。
そして、5ループ目。
またしても数秒で局が流れた、その時だった。
「こんな茶番、いつまで付き合わされるんだよ……!」
南家の男が、激しい苛立ちを露わにしてドンッと卓を荒々しく叩き、自分の席から立ち上がった。
配牌は常に同じ。
お互いに何も起きず、ただ牌をめくっては流されるだけの無意味なループ。
スリルとアドレナリンを求めるギャンブラーにとって、これほど退屈で生殺しのような時間はない。
男が私から視線を外し、この場から逃げ出そうとしたその時、私は冷たく静かな声をかけた。
「待ってください」
私の声に、南家の男が面倒くさそうに振り返り、鋭い視線を投げつけた。
「あ?」
「事前のルールブックにはこう書かれていました。『途中退席、または試合続行不可能になった場合、ハコテン(持ち点ゼロのドボン)と同じ扱いとなり、最下位の敗北とする』と」
私は卓上のマイナスに沈んだ点棒を見つめたまま、淡々と事実を告げる。
「現在のレートは、初戦から100倍……さらに跳ね上がり、現在は1点につき1万円の計算です。ハコテンのペナルティによる精算が発生すれば、あなたは2億5千万円の負債を、親の私と、残りのプレイヤーに
分割して支払うことになりますが……本当に、ここで降りるんですか?」




