第6話:絶対防壁
「……連戦をお願いします」
640万円の負債を背負わされた直後。
私は顔を上げてそう宣言した。 震える声だったが、その言葉は静まり返った地下室に確かに響いた。
その言葉を聞いた途端、私から640万円を奪った対面の男が、下品な笑い声をあげて身を乗り出してきた。
「ヒャハハ! まだわからねえのか? お前は騙されたんだよ。これから先も配牌は全て同じ、お前が勝つことは絶対にないんだ」
男の言葉が、残酷な真実として突き刺さる。
このイカサマ卓は、何度やっても私に『国士無双13面待ち』しか配らない。
私が牌を一枚でも捨てれば、男の『人和』の餌食になるよう完全にプログラムされている。
彼らは最初から、私を確実にハメ殺すためだけにこのゲームを用意したのだ。
絶対的な絶望の宣告。
しかし、私はゆっくりと深呼吸をし、男と役員を真っ直ぐに見据えた。
「……それで構いません」
「あ?」
男の笑いが止まる。
「ただ、私からも一つだけ条件があります。――今後一切のルール変更は無しにしてください」
私の口から出たその言葉に、男たちとGGGの役員は一瞬きょとんとし、直後に鼻で笑った。
「ハッ! なんだそりゃ。天和禁止のルールを変えないでくれってことか?」
「わざわざ自分から首を絞めるとはな。まあいい、その条件で受けてやろう」
彼らにしてみれば、私の要求は「負け犬の無意味な足掻き」にしか聞こえなかったのだろう。
第一ツモで牌を捨てた瞬間、『人和』の直撃を受けて私が莫大な借金を背負う。
その結末は火を見るより明らかだったからだ。
「では、双方合意ということで。……第3戦、開始します」
役員の合図と共に、全自動卓のボタンが押される。
ジャラジャラという冷たい機械音。
そして、せり上がってくる牌山。
男たちの目が、ねっとりと私に絡みつく。
早く牌を引け。
そして早くその牌を捨てろ。
口の端を歪め、今にも「ロン」と叫ぶ準備を整えながら、私の絶望する顔を待ち侘びている。
私は震える手を伸ばし、配牌を開いた。
並んでいたのは、先ほどまでと全く同じ。
一と九と字牌だけが不気味に揃った『国士無双13面待ち』。
そして、第一ツモ。
引いてきた牌もまた、一九字牌の一つ。
ここまでは予想通りだ。
イカサマのプログラムが変わっていない以上、私の手牌は必ずこの形になる。
「さあ、お嬢ちゃん。早く切りなよ」
男がせき立てる。
GGGの役員も、勝利を確信したような冷ややかな笑みを浮かべて腕を組んでいた。
しかし、私は牌を捨てるために上げていた右手をスッと下ろした。
代わりに、自分の手牌を両手でしっかりと掴み、ガシャリと表向きにして卓の上にすべて倒し広げた。
「おいおい、天和は禁止だって言ってんだろ。耳が聞こえねえのか?」
「……天和じゃありません」
私は冷め切った声で言い放つ。
「『九種九牌』。……これにて、流局です」




