第4話:最悪の罠
ジャラジャラという無機質な音が止み、第2戦が始まった。
私の目の前に、再びゴトッと音を立てて牌山が上がる。
恐る恐る手牌を開くと、そこには先ほどと全く同じ、一、九、字牌が綺麗に並ぶ『国士無双13面待ち』が完成していた。
(また、最初からテンパイしてる……)
私は小さく息を吐き、震える手を伸ばして第一ツモを引いた。
指先に触れる感触。
引いてきたのは「白」だった。つまり、間違いなくアガリ牌だ。
しかし、私はここで「ツモ」と宣言することができない。
『次局より、天和は禁止とさせていただきます』
先ほどの役員の冷酷な声が耳の奥でリフレインする。
第一ツモでのアガリは無効。
必ず一枚、牌を捨てなければならないという理不尽な制約。
(大丈夫。焦らなくても、私はすでに13面待ちの最強の形。この「白」を捨てて、次の自分の番を待てばいいだけ……)
私は自分に言い聞かせるように深呼吸をし、引いてきたばかりの「白」を、卓の中央へとそっと置いた。
コツン。
牌が河(捨て場所)に触れた、その瞬間だった。
「——ロン」
向かいに座っていた男が、ニチャリと醜い笑みを浮かべて口を開いた。
「え……?」
「ロンだっつってんだよ、お嬢ちゃん!」
男はバンッと乱暴な音を立てて、自分の手牌をすべて表に倒した。
そこに並んでいたのは——私と全く同じ、一、九、字牌が綺麗に揃った異様な配列。
『国士無双13面待ち』。
「なっ……!?」
「ハハハハ! 人和に国士13面待ち……子のダブル役満だ! ガキの捨てた牌でいきなり直撃たぁ、最高の気分だぜ!」
頭の中が真っ白になった。
どういうこと? なぜこの男も、私と同じように最初からテンパイしていたの?
混乱し、凍りつく私を見下ろしながら、GGGの役員が淡々と告げた。
「自分の第一ツモの前に、他者の最初の捨て牌でアガる特殊役『人和』。……見事です。あなたが『天和』を禁じられ、やむを得ず牌を捨てたその一巡目。彼にとってはまだ自分の番が来る前の、あがり牌だったわけです」
全身から血の気が引いていくのがわかった。
罠だ。
最初から、こうなるように仕組まれていたんだ。
私に『天和』を禁止させたのは、私が牌を捨てるよう誘導し、男の『人和』を確実に成立させるための、絶対の布石だったのだ。
「さて、トキさん。あなたが彼に支払う点数は、子のダブル役満直撃で6万4000点。……ですが、第2戦のレートは、初戦の100倍。つまり、1点につき100円の計算になります。――あなたは今この瞬間、640万円の負債を抱えたことになります」
「ろっぴゃく、よんじゅうまん……?」
喉が干からび、呼吸が上手くできない。
さっき手に入れた14万4000円なんて、あっという間に消し飛ぶ狂気の数字。
15歳の中学生が、どうやって640万円もの大金を返せるというのか。
母を救うために足を踏み入れた地下室で、私は一生かかっても返せないほどの、巨大で残酷な絶望を背負わされたのだ。




