第3話:狂気のレートと理不尽な追加ルール
(本当に、アガるだけでいいの……?)
手牌の中で完璧に完成している『国士無双13面待ち』。
私は心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、ゆっくりと右手を伸ばし、最初の牌を引いた。
指先に触れたのは、「東」の字牌。 昨日詰め込んだルールブックの知識が正しければ、これでアガリの形になるはずだ。
『この卓のレートは、少し特殊でしてね』
対局前、役員の男が言っていた言葉が脳裏に蘇る。
『点棒のやり取りが、そのまま現実の金額になります。役満を親であがれば4万8000点……つまり、トリプル役満は一撃で14万4000円を手に入れることができる』
14万4000円。
私が年齢をごまかしていくつものバイトを掛け持ちし、身を粉にして働いても、一ヶ月で稼げるかどうかの大金。
それが、たった一回の動作で手に入る。
「……ツ、ツモ」
震える声でそう宣言し、手牌をパタリと前に倒した。
「天和……国士無双13面待ち、トリプル役満です」
その瞬間、卓を囲んでいた男たちの下品な笑い声が、ピタリと止まった。
「は……? て、天和ぁ?」 「嘘だろオイ! 配牌で役満が完成してただと!?」
男たちの顔が驚愕に歪む。
卓の中央に表示された私の持ち点が跳ね上がり、約束通り14万4000円の配当が確定したことを示していた。
(本当に、勝てた……。これで、お母さんの入院費の足しに……)
胸を撫で下ろしたのも束の間、私の脳裏に「父の借金」というさらに巨大な数字が重くのしかかる。
14万円では、到底足りない。
母を完全に救い、元の生活を取り戻すためには、もっと――。
「……続けます。連戦で、お願いします」
この地下麻雀でのもう一つの特殊ルール、それは「レートの跳ね上がり」だ。
1戦目は点棒と配当がそのまま同じ額になるが、『余興』の私には連戦の権利が与えられている。
そして連戦するごとに、そのレートは「100倍」に跳ね上がる。
つまり、もう一戦勝てば一気に「1440万円」。
それだけの額があれば、父の借金も完済し、ここから完全に足を洗うことができる。
私は男たちの鋭い視線を浴びながらも、必死に声を絞り出した。
「なかなか強運なお嬢ちゃんじゃないか」
南家の男がニヤリと笑いながらこちらを見る。
「でもな、わしらもただ座ってるだけで大金をむしり取られるのじゃ納得がいかん。次から、初手の『天和』は禁止というのはどうだ?」
そのセリフに、残り二人の男たちも「それはありがたい」「そうすべきだ」と即座に便乗する。
すると、ギャラリー席に控えていたGGGの役員の男が、したり顔で口を開いた。
「おっしゃる通りですね。ゲストの皆様に楽しんでいただくのがこの麻雀の主な目的。皆様をがっかりさせるわけにはまいりません。……よし、次局より『天和』は禁止とさせていただきます」
「そんな……!」
あまりにも一方的なルールの変更に、私は思わず声を荒らげた。
「ん——? 何か問題でも? まさか『次も最初から天和であがる予定だった』なんて言うわけじゃないだろうな? イカサマじゃあるまいし」
男たちの冷ややかな嘲笑が突き刺さる。
私は何も言い返せず、悔しさに唇を噛み締めながら、黙り込むことしかできなかった。




