表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔の森の管理者と迷い込んだ少女 〜過去を捨てた男と、失った少女の再誕の旅〜  作者: 未白ひつじ
第二章 開花の旅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/77

第三十二話 十五の石板

 一夜明けて。


 よほど神殿に入るのが楽しみだったのか、いつもよりも早起きをしたヒマリは、アーシュの横に立って朝食の支度を手伝っていた。


「ねえ、アーシュ」

「なんだ」

「謎解きがあったらね、また、がんばるよ」

「ああ、頼りにしている」

「えへへ……」


 トーストが出来上がり、皿にベーコンと目玉焼きが盛られたところで、ヴィラがもぞりと寝袋から這い出した。


「ふぁあ……お前ら朝から元気だなあ」

「おはよ、ヴィラさん」

「ああ、おはよお……」


 ヒマリはトーストにたっぷりとペルロの蜜をかけ、幸せそうな顔をしていた。


  *


 


 朝食後、ヒマリは家を収納すると、とてとてと結界玉に駆け寄ってそれも収納した。

 

 目の前にあるのは、森の家ではなく謎の神殿。今日は今からそこの探索をする。


「準備はいいか」

「うん」

「おう」


 アーシュが先に立って、神殿の入り口をくぐった。


 中は薄暗く、空気がさらりとしていた。外のジャングルの蒸し暑さが嘘のように遠ざかっていく。石の壁に手を当てると、ひやりとした感触が伝わってきた。


「すずしい……」


 ヒマリが少し驚いた顔をした。


「神殿の中だけ、別の空気みたいだね」

「ああ。マナで仕切られているようだ」

「結界みたいなもんか?」


 ヴィラが剣の柄に手を当てたまま、辺りを見回した。


 入り口を抜けた先は、それほど広くない部屋だった。けれど、その中央にぽっかりと大きな穴が開いている。


 いや、穴ではない。


 螺旋状の階段が、ぐるりと壁沿いに下りていく構造になっていた。中央は吹き抜けだった。


「下が見えねえ……まさか、ずっと下っていかなきゃねえのかよ」

「いや……マナの影響で霞んでいるようだ。目を凝らすと僅かに床が見える」

「どれどれ……いや、見えねえわ。すげえな、アーシュ!」


 おそるおそるヒマリも覗いてみたが、何か霧のような物に覆われていてハッキリとは見えなかった。


「雲の中に下りるみたい、だね」

「……そうだな」

「ヒマリにかかっちゃ、謎の仕掛けも可愛らしくなっちまうな」

「えへへ……」


 気が紛れたところでアーシュが一歩階段に踏み出した。石の階段は乾いていて、しっかりとしていた。


 三人でゆっくりと下りていく。


 螺旋に沿って進むたび、地下の部屋が少しずつ近づいてくる。けれど、霞んだ底を見下ろしていたのは最初だけだった。


 足元の石段は乾いているが、油断すれば踏み外しそうな高さがある。とくにヒマリは、手すりに片手を添えながら、おっかなびっくり下りていた。


 慎重に、けれどゆっくり過ぎないペースで三人は階段を下り、十五分ほど下りたところでようやく階段が終わり、地下の大部屋へとたどり着いた。


 三人は立ち止まって、あたりの様子を調べている。


 部屋は四角く、それほど大きくはない。広さで言えば、宿の部屋を四つくらい繋げたぐらいだろうか。


 そして、床が奇妙な構造をしていた。


「……これはなんだろう」


 ヒマリが首を傾げた。


 床全体が、大きなマス目で区切られていた。


 縦に四つ、横に四つ。全部で十六のマス。そのうち十五のマスには、一辺が一メートルほどもある立方体の石板が置かれている。


 空いているのは、一マスだけだった。


「なんだこの石ころ。ずいぶんと綺麗に切られてんな」


 ヴィラが、石板の一つに手をつき、バンバンと音を立てて叩いた。

 すると、僅かに石板が動いた。


「お、もしかして押せんのか? おお、どうやら空いてるマスの方に動かせるみたいだな」

「大掛かりな、仕掛けのようだな」

「うーん……石板の模様が、それぞれ違うね」


 ヒマリが、石板の一つを覗き込んだ。


 彫られているのは、何かの模様だった。曲線がいくつか走っている。隣の石板には、別の模様。さらに隣の石板には、また別の模様が。


 ヒマリは、一つ一つ模様を見ていった。


 曲線、点、もう一つの曲線、それから、何か小さな丸――


 ふと、ヒマリの足が止まった。


「……あ」


 ヒマリの目がすっと、細くなった。手のひらを自分の頬に当てる。考えるときの癖の顔だった。


「アーシュ」

「何だ」

「これね、ちょっと上から見てきていい?」

「上?」


 ヒマリが階段のほうを振り返った。


「うん。なんかね、こういうの見たことある気がしてきたの」


 アーシュは軽く頷いた。


 ヒマリがぱたぱたと階段を駆け上がっていき、途中の踊り場で足を止めた。


 手すりから地下の部屋を見下ろす。


「うん、ここからなら、ちゃんと下が見え……あっ……」


 予想が確信に変わり、ヒマリの中に嬉しさがこみ上げた。 


「……やっぱり十五パズルだ」


 ヒマリがぽつりと言った。


「ヒマリ、何かわかったのか」


 下からアーシュが声をかけた。


「アーシュ、ヴィラさん、ちょっと、こっち、登ってきて! 上から見て欲しいの!」


 興奮するヒマリに、二人が顔を見合わせてから階段を登ってきた。踊り場でヒマリの隣に並ぶ。


 そして見下ろした。


 上から見ると、十六マスの床全体が一枚の大きな画として目に入ってきた。一つ一つの石板の模様がそれぞれ独立した模様ではなく、互いに連なって何か大きな絵の一部のように見える。けれど、配置がでたらめで、絵としては成立していない。


「なんかの絵にみえるが、わっかんねえなこれ」

「あのね、これね、十五パズルっていうんだよ」

「十五パズル? なんだそりゃ」


 ヴィラが首を傾げた。


「日本にある、おもちゃなんだけどね」


 ヒマリが指で空いているマスを指さした。


「あの、一つだけ、あいてるマス見える? あそこにとなりの石板を押して動かすの。するとね、また別のが動かせるでしょ。それでね、ぜんぶの石板を、ただしいばしょにならべると……」

「なるほど、何が描かれているのかわかるようになるってわけか!」


「……そういえば、そういうのもあったな」


 アーシュが石板を見下ろしながら目を細めた。


(赤い扉の謎掛けといい、これといい……やはり、あちら側の知識に寄っているな)


「しっかし、これどんな絵になんだろうな?」


 ヴィラが呟いた。


 ヒマリはしばらく見下ろしていた。


 目を細め、それから、ふと何かを掴むように両手を胸の前で握った。


「……お花、だと思う」

「花?」

「うん。なんかね、ふんわり、見えるの。完成した絵が」


 アーシュは横目でヒマリを見た。


(賢者スキル、か)


 なにかしらの疑問に直面した時、ヒマリの中になんとなくの「正解」が浮かぶことが多いらしい。赤い扉の謎掛けの時もそうだった。今回もおそらくは同じ事がおきているのだろう。


「ヒマリ、お前はここから指示を出せ」

「え?」

「俺とヴィラは、下で石板を動かす」

「わたしで、いいの?」

「ああ。お前にしか完成図は見えていないからな」

「……うん! わかった!」


 ヒマリの目がぱっと輝いた。


 ヴィラが肩をぐるりと回した。


「よっしゃ、俺らはお前の手足となって動くぜ! 遠慮なく使ってくれよな」

「うん! お願い、するね」


 ヒマリはもう一度、踊り場から床を見下ろした。


 ばらばらに散った石板の模様。

 その奥に、まだ形になっていない一輪の花が、ぼんやりと見えている。


「……動かすのは……あの石板から、かな」


 小さな賢者の呟きが、地下の大部屋に響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ