↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さようならと言った少女と、家族を失った父  作者: ちぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/20

厳しいマナー教育

食堂での出来事から数日後。


私は、お父様から呼び出された。


「エリシア。今日からお前にマナー講師をつけることにした」


「……マナー講師?」


突然のことに、私は目を丸くした。


「この前の食事での態度を見ただろう。淑女として、もっときちんとした教育を受ける必要がある」


「でも……私、マナー講師なんて聞いていません」


「今、伝えただろう」


お父様はそれだけ言うと、部屋を出ていった。


そして、その日の午後――。


私の前に一人の女性が現れた。


「エリシア様、初めまして」


女性は姿勢を正し、丁寧に頭を下げた。


「コルネリア・グラウクスと申します。今日からエリシア様のマナー教育を担当いたします」


「……よろしくお願いします」


私も慌てて頭を下げた。


すると、コルネリア先生は淡々と続けた。


「先ほど、エリシア様のお父様から、エリシア様にはまだ十分なマナーが身についていないため、厳しく教育してほしいと依頼を受けました」


「えっ……」


私は驚いた。


「でも、私……マナー講師が来るなんて聞いていません」


「聞いていないとおっしゃられても、私はお父様から正式に依頼を受けています」


「……」


「それに、今のように年長者に対して意見をすることも、立派なマナー違反ですよ」


コルネリア先生の目が、すっと細くなる。


「私が申し上げたことには、すべて『はい』と答えなさい」


「……はい」


「よろしい」


先生は満足そうに頷いた。


「では、さっそくマナーのお勉強を始めましょう」


**********


「まずは基本の姿勢からです」


コルネリア先生は、私の前でゆっくりと動いて見せた。


「背筋を伸ばし、顎を引いて……この姿勢を保ってください」


「はい」


私は先生の真似をする。


けれど、長い時間その姿勢を保つことは難しかった。


「次はカーテシーです」


先生が優雅に膝を曲げ、スカートの裾を軽くつまむ。


「このようにします」


「はい……」


私も真似をしてみた。


けれど――。


「わっ……」


体がぐらりと揺れた。


「……申し訳ありません」


「そうではありません!」


先生の厳しい声が響いた。


私はびくっと肩を震わせる。


「手の位置はここです。足はその位置ではありません」


「……はい」


もう一度やってみる。


けれど、今度もうまくいかない。


すると先生が私の手を取った。


「ここです」


「……はい」


「何度言えば分かるのですか?」


先生の声は次第に厳しくなっていった。


「お父様からは、厳しく指導するようにと言われています。できないことをそのままにしてはいけません」


「……はい」


何度も繰り返す。


立って。


座って。


お辞儀をして。


また立ち上がる。


少し休みたいと思っても、先生は休ませてくれない。


「もう一度です」


「……はい」


足が痛い。


腕も重い。


それでも、失敗すればまた最初からやり直しだった。


**********


数時間後。


「はい。本日はここまでです」


その言葉を聞いた瞬間、私はほっと息を吐いた。


「次回までに、今日教えたことをしっかり覚えておいてください」


「……はい」


コルネリア先生が部屋を出ていく。


私はその場から動くことができなかった。


身体が重い。


頭もぼんやりする。


それでも――。


「私が……ちゃんとできないから……」


私は自分に言い聞かせた。


お父様は、私が困らないようにマナーを教えてくれている。


先生も、お父様に頼まれて厳しくしているだけ。


だから――。


私が悪いのだ。


**********


しばらくすると、ミリアが部屋へ入ってきた。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「……ミリア」


ミリアは心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「先ほどから、何か大きな声が聞こえていましたが……何かあったのですか?」


「……大丈夫よ」


私は笑おうとした。


「お父様が、私がマナーができていないからって、厳しい講師の方を見つけてくれたみたいなの」


「そうだったのですか……」


「私、今まできちんと習ったことがなかったから……上手くできなくて」


私は俯いた。


「それで先生が大きな声で怒ったの。だから……私が悪いの」


「お嬢様……」


ミリアは不安そうな顔をした。


「まさか……叩かれたりはしていないですよね?」


「ええ。それはないわ」


私は小さく首を横に振った。


「そうですか……」


ミリアはほっとしたように息を吐いた。


「何かあったら、すぐに私に知らせてくださいね」


「……ありがとう、ミリア」


ミリアが部屋を出ていく。


私は一人になると、ベッドに腰を下ろした。


「……疲れた」


小さく呟く。


窓の外は、もう夕暮れになっていた。


以前なら、この時間にはお母様と一緒に庭を眺めていた。


「お母様……」


胸の奥が、また苦しくなる。


私は目を閉じた。


そして――。


今日もお母様に会いたいという気持ちだけが、心の中に残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。