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さようならと言った少女と、家族を失った父  作者: ちぃ


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7/20

食事の時間

「お嬢様、夕食のお時間ですよ」


侍女のミリアが、私の部屋へ呼びに来た。


「……はぁ」


思わず、大きなため息がこぼれる。


「お嬢様ったら、大きなため息ですね」


ミリアが心配そうに私を見る。


「皆様とお食事をするのは……気が重いですか?」


「ええ……正直に言うと、あそこで食事をすると、喉を通らないの」


「そうなんですね……」


ミリアは少し困ったような顔をした。


「新しいご家族になったばかりですから、きっとそのうち慣れますよ」


「……」


私は何も答えなかった。


慣れる。


本当に、そんな日が来るのだろうか。


お母様がいなくなった家で。


お父様と、新しいお母様と、カイルと一緒に食事をする。


私には、それがどうしても苦しかった。


「さあ、お嬢様。参りましょう」


「……うん」


私は重い足取りで食堂へ向かった。


**********


食堂の扉を開けると、すでに三人が席についていた。


「エリシア、遅いぞ!」


お父様が私を見るなり、厳しい声を上げた。


「ちゃんと時間を守りなさい!」


「……ごめんなさい」


私は小さく謝って、自分の席についた。


向かいでは、お父様とソフィア、それにカイルが楽しそうに話をしている。


「それでね、カイルったら――」


「父さん、それは違うよ」


「ははは、そうだったか?」


三人の笑い声が食堂に響く。


私は黙ったまま、目の前の料理を見つめた。


以前なら、お父様とお母様と三人で、今日あったことを話しながら食事をしていた。


「お母様、今日はね……」


「まあ、それは素敵ね」


そんな会話が、今でも鮮明に思い出される。


でも、今は――。


「……」


胸が苦しい。


食事を口に入れてみる。


けれど、ほんの少し食べただけで、喉が詰まるような感覚がした。


これ以上、食べられそうにない。


私はぼんやりと考え事をしていた。


お母様がいた頃のことを思い出していると――。


手から力が抜けた。


「カラン……」


持っていたスプーンが、床へ落ちた。


「エリシア!」


突然、お父様の怒鳴り声が響いた。


「お前は食事のマナーも守れないのか!」


「……ごめんなさい」


「まったく……淑女としての教育ができていないようだな」


「……」


私は俯いた。


怒らせてしまった。


でも、本当にわざとではなかった。


「ごめんなさい……私、気分が悪いので、お部屋に戻ります」


立ち上がろうとすると、お父様が言った。


「待ちなさい!」


「……」


「まだほとんど食べていないじゃないか!」


「……もう、喉を通らないのです」


「何を言っているんだ!」


お父様の声がさらに大きくなる。


「わがままを言わずに、全部食べなさい!」


「でも……」


「好き嫌いをしている場合ではないだろう!」


私は唇を噛んだ。


「……もう、食べられません」


「エリシア!」


「……ごめんなさい」


私はそれ以上何も言えず、食堂を出た。


「もういい! 勝手にしなさい!」


背中に、お父様の怒鳴り声が聞こえた。


**********


部屋に戻ると、私はベッドの端に腰を下ろした。


「……」


何もしたくなかった。


食堂でのことを思い出すと、胸が苦しくなる。


お父様は、どうして分かってくれないのだろう。


私はわがままを言っているわけではない。


食べたくないわけでもない。


ただ――。


お母様がいないことが悲しいだけなのに。


「……お母様」


私は膝を抱えた。


「私……どうしたらいいの?」


返事はない。


静まり返った部屋の中で、私は小さく泣いた。


そしてその日から――。


食事の時間が来るたびに、私の胸は重くなっていった。


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