幸せな約束
王都の学園に入学してから、二年が過ぎた。
エリシアは十六歳になっていた。
学園生活にもすっかり慣れ、勉強にも友人との時間にも、穏やかな毎日を過ごしている。
そして――。
エドワードとの距離は、以前よりもずっと近くなっていた。
授業が終われば一緒に帰り、休日には街へ出かける。
図書室で並んで勉強をすることもあれば、学園の庭を散歩することもある。
幼い頃から知っている相手だからこそ、気を遣わずにいられる。
けれど、今のエリシアにとって、エドワードはもうただの幼馴染ではなかった。
「エリィ」
名前を呼ばれるだけで、胸が温かくなる。
笑顔を向けられるだけで、嬉しくなる。
そして、時々思う。
――この人と、ずっと一緒にいられたらいいな。
その気持ちは、日に日に強くなっていた。
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ある日の放課後。
エリシアが寮へ戻ろうとしていると、エドワードが声をかけてきた。
「エリィ」
「エド?」
「少し、付き合ってほしい」
「どこへ?」
「学園の庭。話したいことがあるんだ」
いつもとは少し違う真剣な表情。
エリシアは小さく頷いた。
「うん」
二人は並んで庭へ向かった。
夕暮れの庭には、柔らかな風が吹いている。
花壇の花が風に揺れ、赤く染まった空が二人を包んでいた。
エドワードはしばらく何も言わなかった。
「……エド?」
「ごめん。少し緊張してる」
「エドが?」
「俺だって緊張するよ」
そう言って笑ったものの、その表情はどこか硬い。
エリシアも少し不安になった。
「何か……大切な話?」
「ああ」
エドワードは一度深く息を吸った。
そして、エリシアをまっすぐ見つめた。
「俺は、これからもずっとエリィのそばにいたい」
「……エド」
「でも……幼馴染としてじゃない」
エリシアの心臓が、大きく跳ねた。
「一人の女性として、君を大切にしたい」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が、いっぱいになった。
嬉しくて。
幸せで。
今にも涙がこぼれそうだった。
「俺は、エリィが好きだ」
エドワードの声は少し震えていた。
「昔から大切な友達だった。でも、いつからか、それだけじゃ足りなくなった」
エリシアは黙って聞いていた。
「君が笑っていると嬉しい。悲しんでいると、そばにいてあげたいと思う。君が幸せになれるなら、それが一番嬉しい」
エドワードは、少しだけ苦しそうに笑った。
「だから……これから先も、俺の隣にいてほしい」
エリシアの目から、一粒の涙がこぼれた。
「……エリィ?」
「ごめんなさい。悲しいんじゃないの」
エリシアは涙を拭って、笑った。
「嬉しいの」
「……本当に?」
「うん」
そして、まっすぐエドワードを見つめる。
「私も……エドが好き」
その言葉を口にした瞬間、胸の奥がふっと軽くなった。
「私も、エドと一緒にいたい」
「エリィ……」
エドワードの顔が、ぱっと明るくなる。
「ありがとう」
二人はしばらく見つめ合った。
幼い頃、庭を駆け回っていた二人。
手紙を何度も交わした二人。
離れていた七年間を越えて、再び出会った二人。
その二人の間に、今、新しい絆が生まれた。
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その後、二人の交際は両家にも知られることになった。
「まあ……!」
話を聞いたクラリッサは、嬉しそうにエリシアを抱きしめた。
「エリシアちゃんが、こんなに素敵な女性になるなんて……」
「叔母様……」
「エドワードなら、私も安心だわ」
その隣では、アリスも嬉しそうに笑っている。
「エリねーちゃま、おめでとう!」
「ありがとう、アリス」
辺境伯領でも、家族は大喜びだった。
「本当に良かったな、エリシア」
グスタフは満足そうに頷いた。
マルガレーテも目を細める。
「あなたが幸せなら、それだけで十分ですよ」
レオンハルトは、少し複雑そうな顔をしていた。
「……大切な娘を嫁に出すのは、まだ少し寂しいがな」
「お父様……」
「だが、エドワードなら安心して任せられる」
そう言って、レオンハルトはエリシアの頭を優しく撫でた。
アレクシスとルシアンも笑っている。
「エリシアに泣かせるようなことをしたら、俺が許さないからな」
「兄上、それは俺たちも同じです」
「もちろんよ」
エリシアは家族の温かさに包まれながら、笑った。
――私は、本当に幸せなんだ。
幼い頃には、想像もできなかった。
自分には家族がいないと思っていた。
自分は必要とされていないと思っていた。
けれど今は違う。
自分を大切にしてくれる人たちがいる。
そして、自分が心から大切にしたい人もいる。
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それから数年の月日が流れた。
エリシアとエドワードは正式に婚約し、学園を卒業した。
そして――。
二人は、夫婦になった。
結婚式の日。
純白のドレスに身を包んだエリシアは、鏡の前で自分の姿を見つめていた。
その胸元には、母から受け継いだ大切な形見がある。
「お母様……」
そっと手を添える。
「今日、私……結婚するの」
小さく笑った。
「私、幸せだよ」
そのとき、扉の向こうから声が聞こえた。
「エリィ、準備はできた?」
「うん!」
扉が開く。
そこには、正装したエドワードが立っていた。
「……綺麗だ」
「ありがとう」
エリシアは少し恥ずかしそうに笑う。
エドワードが手を差し出した。
「行こう」
「うん」
エリシアはその手を取った。
温かな手だった。
幼い頃から知っている、大切な人の手。
二人は並んで歩き出す。
その先には、たくさんの大切な人たちが待っている。
祖父母。
お父様。
お兄様たち。
ミリア。
クラリッサ。
アリス。
そして――。
大好きなエドワード。
みんなが笑顔で二人を見つめていた。
エリシアは幸せそうに笑った。
かつて、自分には家族がいないと思っていた少女は、今、自分自身の手で幸せを選び取っていた。
母が最後に残してくれた言葉を胸に。
――自分の気持ちに素直になって、生きていきなさい。
「お母様……」
エリシアは心の中で呟く。
「私、ちゃんと幸せになったよ」
そして隣にいるエドワードの手を、ぎゅっと握った。
「これからも、ずっと一緒にいようね」
「ああ。約束する」
二人は笑い合った。
それは、幼い頃にはできなかった約束。
そしてこれから先、二人で守っていく約束だった。
――幸せな未来は、今、始まったばかりだった。




