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さようならと言った少女と、家族を失った父  作者: ちぃ


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19/20

 幸せな約束

王都の学園に入学してから、二年が過ぎた。


エリシアは十六歳になっていた。


学園生活にもすっかり慣れ、勉強にも友人との時間にも、穏やかな毎日を過ごしている。


そして――。


エドワードとの距離は、以前よりもずっと近くなっていた。


授業が終われば一緒に帰り、休日には街へ出かける。


図書室で並んで勉強をすることもあれば、学園の庭を散歩することもある。


幼い頃から知っている相手だからこそ、気を遣わずにいられる。


けれど、今のエリシアにとって、エドワードはもうただの幼馴染ではなかった。


「エリィ」


名前を呼ばれるだけで、胸が温かくなる。


笑顔を向けられるだけで、嬉しくなる。


そして、時々思う。


――この人と、ずっと一緒にいられたらいいな。


その気持ちは、日に日に強くなっていた。


---


ある日の放課後。


エリシアが寮へ戻ろうとしていると、エドワードが声をかけてきた。


「エリィ」


「エド?」


「少し、付き合ってほしい」


「どこへ?」


「学園の庭。話したいことがあるんだ」


いつもとは少し違う真剣な表情。


エリシアは小さく頷いた。


「うん」


二人は並んで庭へ向かった。


夕暮れの庭には、柔らかな風が吹いている。


花壇の花が風に揺れ、赤く染まった空が二人を包んでいた。


エドワードはしばらく何も言わなかった。


「……エド?」


「ごめん。少し緊張してる」


「エドが?」


「俺だって緊張するよ」


そう言って笑ったものの、その表情はどこか硬い。


エリシアも少し不安になった。


「何か……大切な話?」


「ああ」


エドワードは一度深く息を吸った。


そして、エリシアをまっすぐ見つめた。


「俺は、これからもずっとエリィのそばにいたい」


「……エド」


「でも……幼馴染としてじゃない」


エリシアの心臓が、大きく跳ねた。


「一人の女性として、君を大切にしたい」


その言葉を聞いた瞬間。


胸の奥が、いっぱいになった。


嬉しくて。


幸せで。


今にも涙がこぼれそうだった。


「俺は、エリィが好きだ」


エドワードの声は少し震えていた。


「昔から大切な友達だった。でも、いつからか、それだけじゃ足りなくなった」


エリシアは黙って聞いていた。


「君が笑っていると嬉しい。悲しんでいると、そばにいてあげたいと思う。君が幸せになれるなら、それが一番嬉しい」


エドワードは、少しだけ苦しそうに笑った。


「だから……これから先も、俺の隣にいてほしい」


エリシアの目から、一粒の涙がこぼれた。


「……エリィ?」


「ごめんなさい。悲しいんじゃないの」


エリシアは涙を拭って、笑った。


「嬉しいの」


「……本当に?」


「うん」


そして、まっすぐエドワードを見つめる。


「私も……エドが好き」


その言葉を口にした瞬間、胸の奥がふっと軽くなった。


「私も、エドと一緒にいたい」


「エリィ……」


エドワードの顔が、ぱっと明るくなる。


「ありがとう」


二人はしばらく見つめ合った。


幼い頃、庭を駆け回っていた二人。


手紙を何度も交わした二人。


離れていた七年間を越えて、再び出会った二人。


その二人の間に、今、新しい絆が生まれた。


---


その後、二人の交際は両家にも知られることになった。


「まあ……!」


話を聞いたクラリッサは、嬉しそうにエリシアを抱きしめた。


「エリシアちゃんが、こんなに素敵な女性になるなんて……」


「叔母様……」


「エドワードなら、私も安心だわ」


その隣では、アリスも嬉しそうに笑っている。


「エリねーちゃま、おめでとう!」


「ありがとう、アリス」


辺境伯領でも、家族は大喜びだった。


「本当に良かったな、エリシア」


グスタフは満足そうに頷いた。


マルガレーテも目を細める。


「あなたが幸せなら、それだけで十分ですよ」


レオンハルトは、少し複雑そうな顔をしていた。


「……大切な娘を嫁に出すのは、まだ少し寂しいがな」


「お父様……」


「だが、エドワードなら安心して任せられる」


そう言って、レオンハルトはエリシアの頭を優しく撫でた。


アレクシスとルシアンも笑っている。


「エリシアに泣かせるようなことをしたら、俺が許さないからな」


「兄上、それは俺たちも同じです」


「もちろんよ」


エリシアは家族の温かさに包まれながら、笑った。


――私は、本当に幸せなんだ。


幼い頃には、想像もできなかった。


自分には家族がいないと思っていた。


自分は必要とされていないと思っていた。


けれど今は違う。


自分を大切にしてくれる人たちがいる。


そして、自分が心から大切にしたい人もいる。


---


それから数年の月日が流れた。


エリシアとエドワードは正式に婚約し、学園を卒業した。


そして――。


二人は、夫婦になった。


結婚式の日。


純白のドレスに身を包んだエリシアは、鏡の前で自分の姿を見つめていた。


その胸元には、母から受け継いだ大切な形見がある。


「お母様……」


そっと手を添える。


「今日、私……結婚するの」


小さく笑った。


「私、幸せだよ」


そのとき、扉の向こうから声が聞こえた。


「エリィ、準備はできた?」


「うん!」


扉が開く。


そこには、正装したエドワードが立っていた。


「……綺麗だ」


「ありがとう」


エリシアは少し恥ずかしそうに笑う。


エドワードが手を差し出した。


「行こう」


「うん」


エリシアはその手を取った。


温かな手だった。


幼い頃から知っている、大切な人の手。


二人は並んで歩き出す。


その先には、たくさんの大切な人たちが待っている。


祖父母。


お父様。


お兄様たち。


ミリア。


クラリッサ。


アリス。


そして――。


大好きなエドワード。


みんなが笑顔で二人を見つめていた。


エリシアは幸せそうに笑った。


かつて、自分には家族がいないと思っていた少女は、今、自分自身の手で幸せを選び取っていた。


母が最後に残してくれた言葉を胸に。


――自分の気持ちに素直になって、生きていきなさい。


「お母様……」


エリシアは心の中で呟く。


「私、ちゃんと幸せになったよ」


そして隣にいるエドワードの手を、ぎゅっと握った。


「これからも、ずっと一緒にいようね」


「ああ。約束する」


二人は笑い合った。


それは、幼い頃にはできなかった約束。


そしてこれから先、二人で守っていく約束だった。


――幸せな未来は、今、始まったばかりだった。


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