再会、そして恋
王都の学園での生活が始まって、しばらくが経った。
最初は慣れない寮生活や新しい環境に緊張していたエリシアだったが、少しずつ毎日の生活にも慣れていった。
授業では知らないことを学び、休み時間には友人たちと話す。
そして何より――。
「エリィ、次の授業は移動教室だろ? 一緒に行こう」
「うん、エド」
こうして、幼い頃からの友人だったエドワードと、再び同じ時間を過ごせることが嬉しかった。
七年間。
手紙では何度も言葉を交わしてきた。
けれど、やっぱり直接会って話すのは違う。
声を聞いて、顔を見て、隣を歩く。
それだけのことが、エリシアにはとても幸せだった。
「そういえば、昔もこうやって一緒に歩いてたよな」
「そうだったね」
「庭で遊んだり、木の下でお菓子を食べたり……」
「覚えてるよ」
「エリィは昔から、よく笑ってた」
そう言われて、エリシアは少し驚いた。
「……そう?」
「ああ。今もそうだけどな」
エドワードは優しく笑った。
その笑顔を見ていると、胸の奥が温かくなる。
――どうしてだろう。
昔から知っている笑顔なのに。
今は、見るたびに胸が高鳴る。
エリシアは、その理由がまだ分からなかった。
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ある日の放課後。
エリシアは図書室で一人、課題をしていた。
「……あと少し」
集中していると、向かいの席に誰かが座った。
顔を上げると、エドワードがいた。
「やっぱりここにいたか」
「エド?」
「アレクシス兄上から聞いた。エリィ、最近ずっと図書室にいるんだって?」
「うん。少しでも勉強しておきたくて」
「真面目だな」
そう言いながら、エドワードは隣に座った。
「俺も一緒にやっていい?」
「もちろん」
二人並んで勉強を始める。
しばらくすると、エリシアの手が止まった。
「……エド」
「ん?」
「この問題、分からないの」
「どれ?」
エドワードが身を寄せて、エリシアの教科書を覗き込む。
「ここは、この公式を使うんだ」
「こう?」
「そう。……あ、でもエリィ。ここ計算間違えてる」
「えっ?」
「ほら、ここ」
エドワードの指が、エリシアの手元に触れた。
その瞬間。
「……っ」
エリシアの胸が、大きく跳ねた。
慌てて顔を上げる。
すぐ近くにエドワードの顔があった。
「エリィ?」
「な、なんでもない!」
エリシアは慌てて顔を伏せた。
「そう?」
「うん……」
どうしてこんなにドキドキするのだろう。
ただ隣にいるだけなのに。
少し触れただけなのに。
胸が苦しいくらいに高鳴っている。
エリシアは自分の胸元をそっと押さえた。
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その日からだった。
エリシアは、エドワードを意識するようになった。
廊下で姿を見つけると、嬉しくなる。
名前を呼ばれると、胸が温かくなる。
手紙をもらうだけでも嬉しかったのに、今は直接声を聞けることが何より幸せだった。
そして――。
他の女の子と話しているエドワードを見ると、なぜか胸がざわつく。
ある日の昼休み。
エリシアが友人と話していると、少し離れたところでエドワードが女子生徒と話していた。
楽しそうに笑っている。
それを見た瞬間、エリシアの胸がきゅっと締めつけられた。
「……どうしたの?」
「え?」
「エリシア、急に黙ったから」
「ううん……なんでもないよ」
そう答えたけれど、どうしても二人の姿が気になってしまう。
――どうして、こんな気持ちになるの?
自分でも分からなかった。
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放課後。
エドワードがエリシアを見つけて駆け寄ってきた。
「エリィ!」
「エド」
「今日、一緒に帰らない?」
「うん」
二人で並んで歩き始める。
しばらく無言だったが、エドワードがふと口を開いた。
「……今日、何かあった?」
「え?」
「昼から少し元気がなかった気がする」
「そんなこと……」
「あるだろ?」
優しい声だった。
エリシアは少し迷ってから、小さく笑った。
「……エドは、よく見てるね」
「ずっとエリィを見てきたからな」
「……え?」
思わず足が止まる。
エドワードも立ち止まった。
「……あ」
自分でも言ってから気づいたのか、少し照れたように視線を逸らす。
「いや……その……」
エリシアの頬も熱くなった。
――ずっと、見てきた。
その言葉が、心に残った。
幼い頃から一緒だった。
母を亡くしたときも。
家で苦しんでいたときも。
遠く離れてからも。
エドワードはずっと、エリシアを気にかけてくれていた。
手紙にはいつも、
『エリィは元気か?』
と書いてあった。
自分が幸せに暮らせるようになってからも、変わらず大切にしてくれた。
そのことを思い出すと、胸がいっぱいになる。
「……エド」
「ん?」
「私……」
言葉が続かなかった。
まだ自分の気持ちを、うまく言葉にできない。
けれど――。
この人のそばにいると、安心する。
嬉しい。
もっと一緒にいたい。
笑っていてほしい。
そして、自分もその隣で笑っていたい。
それが何なのか。
エリシアは、ようやく気づき始めていた。
「……ううん。なんでもない」
「そう?」
「うん」
エリシアが笑うと、エドワードも笑った。
その笑顔を見て、また胸が高鳴る。
――ああ。
私は、エドが好きなのかもしれない。
そう思った瞬間、顔が熱くなった。
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その夜。
寮の部屋で一人になったエリシアは、母の形見をそっと手に取った。
幼い頃から大切にしてきた、小さな品。
それを胸元に抱きしめる。
「お母様……」
自然と、母の顔が浮かんだ。
優しい笑顔。
温かな声。
そして、あの日の言葉。
――自分の気持ちに素直になって、生きていきなさい。
エリシアは、静かに目を閉じた。
「私……好きな人ができたのかもしれない」
口にすると、恥ずかしくなった。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
むしろ胸の奥が、温かくなる。
「エドといると……幸せなの」
母の形見をぎゅっと握る。
「もっと一緒にいたいって思うの」
そして、小さく笑った。
「……これが、恋なのかな」
答えてくれる人はいない。
けれど、エリシアの心には、もう答えがあった。
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一方、その頃。
エドワードもまた、自分の部屋で窓の外を眺めていた。
今日のエリシアの顔が、頭から離れない。
幼い頃の小さな女の子だったエリィ。
いつも笑っていて、優しくて。
けれど、母親を亡くしてからは、たくさんの悲しみを抱えていた。
それでも、今のエリシアは違う。
以前よりずっと強くなった。
そして――。
とても綺麗になった。
「……俺は」
エドワードは、自分の胸に手を当てた。
彼女が他の男子と話していると、落ち着かない。
誰かに好意を向けられていると聞くと、なぜか嫌な気持ちになる。
もっと自分のそばにいてほしい。
笑っているところを、もっと見たい。
困ったときには自分が支えたい。
これから先もずっと――。
「エリィのそばにいたい」
その気持ちは、もう幼い頃の友情だけではなかった。
エドワードは、静かに決意する。
「……ちゃんと伝えよう」
今すぐではない。
けれど、いつか必ず。
自分の気持ちを、エリシアに伝えよう。
幼馴染としてではなく。
一人の女性として、大切に思っていることを。
そして二人の間には、幼い頃には知らなかった新しい気持ちが、静かに芽生え始めていた。
――再会した二人の距離は、少しずつ変わり始めていた。




