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さようならと言った少女と、家族を失った父  作者: ちぃ


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17/20

王都の学園へ

 ――十四歳の春。


 エリシアは、王都の学園へ入学する日を迎えていた。


 朝早くから、屋敷はいつもより慌ただしかった。


「忘れ物はないか?」


 レオンハルトが尋ねる。


「はい。教科書も、筆記用具も、全部確認しました」


 エリシアは自分の荷物を確認しながら答えた。


「寮で困ったことがあったら、すぐに連絡するんだぞ」


「分かっています、お父様」


 レオンハルトは心配そうに娘を見つめている。


 その隣では、マルガレーテがエリシアの髪を整えていた。


「王都は人が多いから、気をつけるのよ」


「はい、おばあ様」


「寮の食事も、きちんと食べるのよ」


「大丈夫です」


 エリシアは笑った。


「もう、食事は怖くありませんから」


 その言葉に、マルガレーテは少しだけ目を潤ませた。


 エリシアがここへ来たばかりの頃は、食事をすることさえ辛そうだった。


 けれど今では、家族と食卓を囲み、笑いながら食事をしている。


 それだけでも、マルガレーテには嬉しかった。


「エリシア」


 アレクシスが声をかける。


「王都では僕も一緒だから、何かあれば遠慮なく言って」


「はい、お兄様」


 アレクシスも同じ学園へ通っている。


 エリシアより二歳年上の兄。


 学園では先輩になる。


「僕もいるからね!」


 ルシアンが胸を張る。


「ルシアンお兄様は、今回はお留守番でしょう?」


「そうだけど……」


「ふふっ」


「エリシア、笑ったな!」


「ごめんなさい」


 そんな二人のやり取りを見て、家族みんなが笑った。


 以前のエリシアなら、こんなふうに笑うこともなかった。


 今では、笑うことが当たり前になっていた。


「それでは、行ってきます」


 馬車へ乗り込む前に、エリシアは家族を見渡した。


「寂しくなったら、いつでも帰ってきていいからな」


 レオンハルトが言う。


「はい。でも……」


 エリシアは少し笑った。


「きっと楽しいと思います」


「そうだな」


 レオンハルトも笑った。


「楽しんでおいで」


「はい!」


 馬車が動き始める。


 エリシアは窓から手を振った。


 屋敷が少しずつ遠ざかっていく。


 寂しさはあった。


 けれど、それ以上に胸が弾んでいた。


 王都には――。


 大切な友達がいる。


 エドワード。


 幼い頃からずっと手紙をくれた、大切な友達。


「エド……元気かな」


 エリシアは小さく呟いた。


 最後に直接会ったのは、七歳の頃だった。


 あれから七年。


 手紙では何度も話している。


 けれど、実際に顔を合わせるのは久しぶりだった。


 エリシアは少しだけ緊張した。


 ――私のこと、ちゃんと分かるかしら。


 そんなことを考えているうちに、馬車は王都へ到着した。


 王都の景色は、幼い頃に見たものとは違って見えた。


 大きな建物。


 行き交う人々。


 たくさんの馬車。


 そして、その先にある王立学園。


「ここが……学園」


 エリシアは窓から建物を見上げた。


 大きく、立派な建物だった。


 門の前には、入学する生徒たちがたくさん集まっている。


「すごい……」


「緊張してる?」


 アレクシスが尋ねる。


「少しだけ」


「大丈夫。最初はみんな同じだよ」


「はい、お兄様」


 二人は寮へ向かった。


 アレクシスは男子寮。


 エリシアは女子寮。


 それぞれ部屋を確認し、荷物を整理する。


 新しい部屋。


 新しい生活。


 エリシアは窓を開けた。


 王都の街並みが見える。


「今日から、ここで暮らすんだ……」


 胸が高鳴った。


 その日の午後。


 入学式が終わり、エリシアが廊下を歩いていると――。


「エリィ!」


 聞き覚えのある声がした。


 エリシアは足を止めた。


 ゆっくり振り返る。


「……エド?」


 そこに立っていたのは、一人の少年だった。


 幼い頃の面影が残っている。


 けれど、七年前とは違う。


 背は高くなり、顔立ちも大人びていた。


 それでも――。


 その笑顔だけは、昔と変わらなかった。


「やっぱりエリィだ!」


「エド……!」


 エリシアの顔に、満面の笑みが浮かぶ。


「久しぶり!」


「久しぶりだな!」


 二人はしばらく見つめ合った。


「大きくなったね」


「エリィもな」


「私は、そんなに変わってないわ」


「いや、変わったよ」


 エドワードは笑った。


「すごく綺麗になった」


「……え?」


 エリシアの頬が赤くなる。


「な、何を言ってるの?」


「本当のことだよ」


「もう……」


 エリシアは照れながら目を逸らした。


 そんな二人のところへ、アレクシスがやってきた。


「エドワード」


「アレクシス!」


 二人も久しぶりの再会だった。


「元気だったか?」


「ああ。アレクシスも変わらないな」


「そうかな」


「それより、エリィと再会できてよかったな」


 エドワードが笑う。


「ああ」


 エリシアも笑った。


「私も、エドに会えて嬉しい」


 その言葉に、エドワードは一瞬黙った。


「……俺も」


 そして、少し照れたように笑った。


 七年という時間が過ぎても。


 二人の間に流れていた時間は、途切れてはいなかった。


 手紙で話していたことを、今度は直接話せる。


「そういえば、エド」


「ん?」


「手紙、たくさんありがとう」


「こっちこそ。エリィからの返事、毎回楽しみにしてた」


「私もエドの手紙を読むのが楽しみだったわ」


「じゃあ、これからは手紙じゃなくて直接話せるな」


「そうね」


 エリシアは嬉しそうに笑った。


「学園生活、楽しみになってきたわ」


「ああ。俺もだ」


 その日。


 エリシアは久しぶりにエドワードと並んで歩いた。


 幼い頃と同じように。


 けれど――。


 二人はもう、あの頃の子供ではない。


 まだ本人たちは気づいていなかった。


 この再会をきっかけに、二人の関係が少しずつ変わっていくことを。


 友達だった二人の間に、いつしか別の感情が芽生えていくことを――。


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