置いていかれる少女
季節が巡り、少しずつ肌寒くなってきた。
私は、もうすぐ七歳になる。
けれど――。
自分の誕生日のことを、誰かが覚えていてくれるのかなんて考えなくなっていた。
お母様がいた頃は、誕生日が楽しみだった。
「エリシア、お誕生日おめでとう」
そう言って、お母様が抱きしめてくれた。
あの温かい腕の中にいるだけで、私は幸せだった。
でも、今はもうお母様はいない。
だから、今年の誕生日のことを誰にも祝ってもらえなくても、私は気にしない。
……そう思っていた。
**********
そんなある日のことだった。
朝から身体が重かった。
「……コンコン」
咳が止まらない。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
ミリアが心配そうに私の額へ手を当てた。
「少し熱がありますね」
「……大丈夫よ」
そう答えたものの、身体はだるく、頭もぼんやりしていた。
「今日はゆっくりお休みになったほうがよろしいと思います」
「うん……」
ベッドに横になっていると、しばらくしてお父様が部屋へ入ってきた。
「エリシア」
「……お父様」
「今日はソフィアの実家へ行くことになった」
「ソフィアさんの……?」
「そうだ。ローゼンベルク家へな」
その言葉を聞いて、私は小さく頷いた。
「お前も一緒に来なさい」
「……」
私は返事をしようとした。
けれど、その瞬間にまた咳が出た。
「ゴホッ、ゴホッ……」
お父様が眉をひそめる。
「まだ具合が悪いのか?」
「……はい」
「熱もあるようですし、お嬢様は今日はお休みになったほうがよろしいかと」
ミリアがそっと口を挟んだ。
「このまま馬車に乗られると、さらにお身体に障るかもしれません」
「そうか……」
お父様は少し考えた。
「エリシア、お前はどうしたい?」
私は少し迷った。
本当は――。
一緒に行きたくなかった。
今の私には、三人と一緒にいることのほうが苦しかった。
「……今日は、お留守番したいです」
「分かった。無理をする必要はない」
お父様はそう言うと、部屋を出ていった。
**********
しばらくして、屋敷の外から声が聞こえてきた。
私はベッドから起き上がり、窓の外を見た。
そこには、お父様とソフィア、カイルの三人がいた。
「気をつけて行ってらっしゃいませ」
使用人たちが見送っている。
ソフィアが馬車へ乗り込む前に、こちらを見上げた。
「エリシアちゃん、ゆっくり休んでね」
「……はい」
窓越しに、小さく手を振る。
カイルもこちらを見ていた。
「エリシア、早く元気になれよ」
「……ありがとう」
二人とも、私を嫌っているわけではない。
それは分かっている。
けれど――。
三人が並んでいる姿を見ると、胸が苦しくなった。
お父様。
ソフィア。
カイル。
三人はまるで、本当の家族のようだった。
やがて馬車が動き出す。
「……」
私は窓から、その姿を見つめ続けた。
馬車はどんどん遠ざかっていく。
そして、見えなくなった。
部屋の中が、急に静かになった気がした。
「……」
私は窓から離れ、ベッドに戻った。
「もう……私には家族はいないのかな」
ぽつりと呟く。
お母様はもういない。
お父様には、新しい家族がいる。
ソフィアもカイルも、私に優しくしてくれる。
それなのに――。
私は、その輪の中に入ることができない。
「……私には、ミリアしかいない」
ミリアだけが、いつも私のことを気にかけてくれる。
体調が悪ければ心配してくれる。
食事が少なければ、何度も声をかけてくれる。
私が泣いていれば、そっとそばにいてくれる。
「これから……私はどうなるのかな」
熱でぼんやりする頭の中に、不安が広がっていく。
私は布団にくるまり、目を閉じた。
外では冷たい風が吹いていた。
その風の音を聞きながら、私は一人で小さく震えていた。




