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さようならと言った少女と、家族を失った父  作者: ちぃ


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10/20

置いていかれる少女

季節が巡り、少しずつ肌寒くなってきた。


私は、もうすぐ七歳になる。


けれど――。


自分の誕生日のことを、誰かが覚えていてくれるのかなんて考えなくなっていた。


お母様がいた頃は、誕生日が楽しみだった。


「エリシア、お誕生日おめでとう」


そう言って、お母様が抱きしめてくれた。


あの温かい腕の中にいるだけで、私は幸せだった。


でも、今はもうお母様はいない。


だから、今年の誕生日のことを誰にも祝ってもらえなくても、私は気にしない。


……そう思っていた。


**********


そんなある日のことだった。


朝から身体が重かった。


「……コンコン」


咳が止まらない。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


ミリアが心配そうに私の額へ手を当てた。


「少し熱がありますね」


「……大丈夫よ」


そう答えたものの、身体はだるく、頭もぼんやりしていた。


「今日はゆっくりお休みになったほうがよろしいと思います」


「うん……」


ベッドに横になっていると、しばらくしてお父様が部屋へ入ってきた。


「エリシア」


「……お父様」


「今日はソフィアの実家へ行くことになった」


「ソフィアさんの……?」


「そうだ。ローゼンベルク家へな」


その言葉を聞いて、私は小さく頷いた。


「お前も一緒に来なさい」


「……」


私は返事をしようとした。


けれど、その瞬間にまた咳が出た。


「ゴホッ、ゴホッ……」


お父様が眉をひそめる。


「まだ具合が悪いのか?」


「……はい」


「熱もあるようですし、お嬢様は今日はお休みになったほうがよろしいかと」


ミリアがそっと口を挟んだ。


「このまま馬車に乗られると、さらにお身体に障るかもしれません」


「そうか……」


お父様は少し考えた。


「エリシア、お前はどうしたい?」


私は少し迷った。


本当は――。


一緒に行きたくなかった。


今の私には、三人と一緒にいることのほうが苦しかった。


「……今日は、お留守番したいです」


「分かった。無理をする必要はない」


お父様はそう言うと、部屋を出ていった。


**********


しばらくして、屋敷の外から声が聞こえてきた。


私はベッドから起き上がり、窓の外を見た。


そこには、お父様とソフィア、カイルの三人がいた。


「気をつけて行ってらっしゃいませ」


使用人たちが見送っている。


ソフィアが馬車へ乗り込む前に、こちらを見上げた。


「エリシアちゃん、ゆっくり休んでね」


「……はい」


窓越しに、小さく手を振る。


カイルもこちらを見ていた。


「エリシア、早く元気になれよ」


「……ありがとう」


二人とも、私を嫌っているわけではない。


それは分かっている。


けれど――。


三人が並んでいる姿を見ると、胸が苦しくなった。


お父様。


ソフィア。


カイル。


三人はまるで、本当の家族のようだった。


やがて馬車が動き出す。


「……」


私は窓から、その姿を見つめ続けた。


馬車はどんどん遠ざかっていく。


そして、見えなくなった。


部屋の中が、急に静かになった気がした。


「……」


私は窓から離れ、ベッドに戻った。


「もう……私には家族はいないのかな」


ぽつりと呟く。


お母様はもういない。


お父様には、新しい家族がいる。


ソフィアもカイルも、私に優しくしてくれる。


それなのに――。


私は、その輪の中に入ることができない。


「……私には、ミリアしかいない」


ミリアだけが、いつも私のことを気にかけてくれる。


体調が悪ければ心配してくれる。


食事が少なければ、何度も声をかけてくれる。


私が泣いていれば、そっとそばにいてくれる。


「これから……私はどうなるのかな」


熱でぼんやりする頭の中に、不安が広がっていく。


私は布団にくるまり、目を閉じた。


外では冷たい風が吹いていた。


その風の音を聞きながら、私は一人で小さく震えていた。


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