第1章-7 中2だから中二病でも怖くない
「あっ、アーサー様!それはお菓子では……」
「ごふっ!?」
シャリアさんが止めようとしてくれた声に反応した時に、ちょうどお菓子と思われていた物をひと噛みしてしまった。噛むと同時に凄まじい刺激臭と口の中で何かが破裂したかのようなパチパチという音が鳴り響いた。
「ご、ごりはびったい……」
見た目はふ菓子みたいな感じだし、お茶と一緒に置かれてたからてっきりお菓子だと思ったのにどうやら危険な物だったようだ。
「これは近くに置いてあるお茶の温度を一定に保つことができる魔道具ですよ」
一瞬セレスさんが何を言っているのかわからなかった。
お茶の温度保つ必要あるかな。僕は温いお茶も好きなんだが。
「ひょひょりょでみゃびょうぶってふぁんでふゅにゃ?」
口の中が火傷したかのようになっているためうまく話せない。
「……魔道具は魔力が込められた……えっと……便利グッズ」
(((今のを理解してる……!?)))
僕の「ところで魔道具ってなんですか?」の質問に答えようとしてくれたエリーだったが、途中で挫折したようだ。
便利グッズとか言われると魔道具という特別感が100円均一ショップの商品と同列に感じてしまう。いや決して100均をバカにしてるわけではないからね、いつもお世話になってます!
しかし困ったな、口の中がこれではしばらく会話が困難に……おや?
いつの間にかツアー本のページが開かれている。
10ページ、怪我をして困っている人を見かけた時の対処法。
まさか困っているのが僕自身とは思わなかったが、相変わらずピンポイントな内容だ。
なになに、呪文を唱えるだけの簡単なお仕事……か。なんか急に胡散臭くなったような。
まぁ、仕方がないので唱えてみよう。
呪文の内容は、【天の光よ ここに集いて 祝福を与えたまえ オーバーヒール】……だと。
こんなの唱えたら中二病かと思われるじゃないか。確かに僕は中2だから問題ないのかもしれないけれど。
……ええい、ままよ!
「ふぇんのふぃふゃひぃひょにょにょにちゅどぉいてにゅくにゅくうぉふぁふぁふぇふぁふぁふぇ」
(((……急にどうしたんだろう)))
(……にゅくにゅく?)
くっ、四人の不思議なものを見る目が痛い。エリーだけは少し微笑んでいるが。
って、あれ。
「おぉっ、口の中が治った! 呪文すごいなぁ」
中二病とはいえ、唱えるだけで怪我が治るならかなり使えるぞ。
ん? このページ続きがあるな。
恥ずかしいと思うのでヒール以外は心の中で唱えても大丈夫。
また、最初だけの特別仕様なので二回目からはヒールだけ唱えれば治ります……だと。
無駄に恥かいたぁぁぁ!
「ねぇセレス、今のって……まさか回復魔法?」
「私の目にもそう見えました」
「で、ですけど、回復魔法って使えるのは今や聖女様くらいだったのではなかったでしたか……?」
「「「……」」」
シャル、セレスさん、シャリアさんの視線が強くなった。
も、もしかしてこのツアー本っていわゆるチートなんじゃ……。だとしたら迂闊なことをしてしまったかもしれない。
「……アーサーは女の子?」
「なんですと!?」
エリーに何故か性別を疑われてしまった。あっ、聖女かどうかってことか。
まずいぞ、このままだと回復魔法と性別の二重の意味で怪しい人物になってしまっているかもしれない。急いで誤解を解かなければ!
「わかった。僕……脱ぐよ」
「なんでよ!?」
誤解が解けるよう、せめてもの抵抗に上着から順にダンディズム溢れる感じで脱ぎ始めるとシャルに怒られた。
いつか上半身の筋肉を盛り上げてシャツを破ってみたいものだ。港で出会ったマイケル、元気かなぁ。いつかまた筋肉談義をしたいものだ。
「アーサー様、脱ぐ必要はございませんので服を着てください」
上半身最後のシャツを脱ごうとお腹を露出したところでセレスさんに止められた。
女性陣は両手で目を覆って見ないようにしてくれているようだ。
指の隙間から若干覗いているのはご愛敬というものだろう。僕の筋肉を披露するのはどうやらまた今度になりそうだ。
「さて、服を着直したところでそろそろ本題に入るわね」
「本題……ですか?」
「そう。セレスとシャリアからアーサーの実力は聞いているわ。その力を見込んでお願いがあるの」
「シャル様……侯爵家からのお願いって実質強制なのでは」
「……てへ」
困ったように僕が呟くと、エリーがあざと可愛くテヘペロしていた。
「エリー様が可愛いのでひとまず続きを聞かせてください」
可愛いは正義だ。
「……あなたけっこうたくましいわね。まぁいいわ。セレスとシャリアがそれぞれ一人で馬車に乗っていたのは見たわね。あれは果たし板を乗せていたからなの」
「果たし……板?」
初めて聞く単語だ。いったいどういうものなのだろうか。
なんだそりゃ感を察知してくれたのか、お茶のおかわりを注いでくれながらシャリアさんが教えてくれる。他の皆の目付きが真剣だし、きっと深い意味があるに違いない。
「果たし板とは、昔この国の貴族が果たし状だけでは恨み辛みを書ききれないと叫んでいたところ、たまたま目に入った大きな板を使用したことが始まりと言われています。
その時の名残から、現代でも果たし板を出す相手が本気の場合はそれに比例した大きさの板を用いるようになったのです」
しょうもない理由だった。
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