第1章-6 シャー&べー
シャーロット様とエリザベス様に連れられて入った部屋は、五畳しかない自宅の僕の部屋が何個も入るくらい広い部屋だった。
真ん中に長方形の長テーブルと椅子が複数あるところを見ると、食事をしたり家族が集まったりするところなのだろう。
促されるままテーブルの短辺側に座ると、セレスさんとシャリアさんがその左右に椅子を持ってきた。
「ふふふ」
「……」
右の席にシャーロット様が座る。
「……てへ」
「……」
左の席にはエリザベス様が座る。
こういうときは普通テーブルの向かい側とかに座るんじゃないのかな?
「あの……シャーロット様?」
「……(ぷいっ)」
「えっと……エリザベス様?」
「……(ぷいぷいっ」
呼び掛けても二人とも知らんぷりして返事をくれない。
なにこれ新手のいじめ?
困って近くに控えているシャリアさんへ視線で助けを求めると、バチーンという音が聞こえそうな勢いで両目を閉じた。もしかしてウインクをしようとしたのだろうか。略してバチンクと呼ぼう。
とりあえず逆に目をクワッと大きく開いて見返しておく。その様子に、側に立っていたセレスさんがビクッとしていた。
さて、仕方がないので少しフレンドリーな感じで名前を呼んでみるか。
「シャー様とベー様」
「「誰!?」」
シャー様とベー様が左右から同時に叫んだ。
「いや、なんか親しみ込めて愛称とかで呼んだほうがよいのかと……?」
「それはそうなんだけど、もう少しなんとかならなかったの……?」
「……愛称センス……ゼロ」
「なんと!?」
おかしいな、僕の愛犬であるペロペロスを紹介した近所に住んでる留学生のスミスからは世界有数の個性派だねって褒められたのに。
あっ、異世界だから愛称の基準が違うのだろうか……?
(あの顔はたぶんわかってないですね……)
(おそらく)
首をかしげている僕を見て、セレスさんとシャリアさんがボソボソと何か話している。
そうか、もしかしたらシャリアさんもシャーさんと呼べてしまうから主従関係的にまずかったのかもしれない。
「トーさんならどう?」
「父さん!?」
「……逆に天才?」
シャーロット様をトーさんと親しみを込めて呼んでみたのだが、左右二人の反応はイマイチだ。
「はぁ……。私のことはシャルと呼んで」
「……エリー」
なるほど、元々自分で決めていた呼び方があったから不満だったのか。それなら最初から言ってくれればいいのに。
ショッピングに行ってどっちの服が似合うと聞かれるから素直に答えても、「え〜私はこっちが好きだなぁ」と僕の意見が採用されないのと同じか。
「うぉっほん」
唐突にシャルが咳払いをした。異世界でも話を戻す時には同じようにするのか。
そのタイミングを見計らったかのように、セレスさんとシャリアさんが僕達にお茶とお菓子のような物を出してくれた。ずっとこの部屋にいたはずなのにどうやって用意したんだろう。
「ところでこの辺りでは見掛けない服装と髪の色だけど、アーサーはどこから来たの?」
「限りなく東京に近い埼玉……かな」
「う~ん、聞いたことが無い地名ね?」
まぁ日本ですら魅力度ランキング最下位になったりする場所だからね。……悲しい。
「あの、僕も聞きたいんですが」
「……敬語いらない」
「あっ、えっと、聞きたいんだけど」
「それでよし。で、なに?」
「ここって、なんてところ?」
「……アーサー……迷子?」
「どうやらそのようね。ここはアベリア王国の首都、ミルグレースよ」
異世界だから地名を言われてもピンとこない。地図とかがないか後で聞いてみよう。
なんて考えていたら、テーブルに置いていたツアー本に手が伸びていた。
(2ページ……地図で場所を確認したいとき……)
相変わらず痒いところに手が届く本だ。なになに……。
「マップ」
そう唱えると、目の前に地図のような物が出現した。だいたいA2くらいのサイズだろう。
ちなみにいきなり謎の言葉を発した僕に、左右の二人はビクッとしていた。
出現した地図を手に取って見てみると、真ん中付近に小さな青い丸があるようだ。
「い、今のなに……? って、それ地図?」
「……すごい。こんな地図見たことない」
驚いているシャルとエリーの後ろからセレスさんとシャリアさんが地図を覗きこんだ。
「……セレスさん、私ここまで正確な地図は初めて見ました」
「そうですね、私も初めてです」
日本ではよく見るタイプの地図だが、どうやらこの国では違うらしい。
「セレスさん、ちなみにアベリア王国はどの辺ですか?」
「この青い所ですよ」
セレスさんが指差したのは、先ほどの青い丸が付いている所だった。もしかして現在位置を示しているのかもしれない。
「アーサー様、これはどのような魔法なのですか?」
シャリアさんがこう言うと、他の三人も興味津々にウンウンと頷きながら見てくる。
「えっと、マップっていう魔法……かな。地図を見たい時に使うみたいなんだけど」
ツアー本の示す通りついマップを唱えてしまったけど、この反応はまずかったかな。
「そのような魔法が存在するのですね……」
「そ、そうみたい……ですね。ははは……あっ、お菓子いただきますね」
困った時は必殺、話をそらすを発動するしかない。
ちょうど目の前にはお菓子と思われる物があるし。
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