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第1章-45 それぞれの戦場

(今だ!)


 この場にいる全員の注意を逸らしたタイミングを見計らって、客席側に紛れていた僕は勢いよく跳び出した。


「あれが賊だ! 空中で身動きが出来ないところを狙い撃て!」


(むしろ賊は勇者のような気もするが……な)


 そう指示したのは宮廷魔法士の団長であるロイ・アーベリングだ。


 迷いを捨てきれない彼は直撃させるというより牽制するための魔法を撃ち込んだ。


 少し遅れて他の宮廷魔法士達も一斉に魔法を撃ち始める。


「なにっ!?」


 魔法の嵐がたった一人に向かっていることで回避も防御も不可能かと思われたが、何故か賊に当たる前にすべての魔法が霧散していく。


(この現象は前にもどこかで見たことがあるような……そうか!)


「総員、武器に持ち替えろ! 投擲だ!」


「……させませんよ!」


「っ!?」


ガギイイイイイイン!


 宮廷魔法士達の前に、こちらの投擲武器を全て切り落とした女戦士とメイドが立っていた。


「先日のこの傷のお礼に参りましたよ、宮廷魔法士の皆様」


「お前は……そうか先日の。

いや、その傷は君がお嬢様に似合いそうな髪飾り発見ですとか言って部屋の扉を手刀で割った時のものじゃないのか?」


「あら何のことでしょうか……ホホホ」


 宮廷魔法士全員の視線がシャリアさんへと向かう。


 先日相対しているからこそ、この人相手に油断は禁物だと分かっているのだ。


「お嬢様に仇なす者は全て……私が排除致します!」


 シャキンと両手に小型のナイフを複数本ずつ指に挟んで武装するシャリアさん。


 どこから出したかは不明だが、一瞬スカートが揺れたような気がする。


 今度ハイスピードカメラで撮らせてもらおうかな……いや、それをやったら別の意味で危険な気がするから止めておこう。


「油断するな……フォーメーションBで全員で確実に仕留めるぞ!」


「「「おおっ!」」」


 そして放置されるミラン姉さん。


「……誰かアタシにも因縁っぽいのある奴いないか?」




 コロシアムには外と中を合わせれば百人以上の兵士達がいた。


 この騒ぎで宮廷魔法士達ほど迅速な対応は出来なかったとはいえ、腐っても帝国のエリート兵士。


 すぐに体制を整えて事態の収拾に動こうとしていた。


 しかし、それは一人の執事によって妨げられることになる。


「……次は兵士長のバルガさん。

あなたは奥さんと娘さんがいる身でありながら酒場のジェイニーさんに言い寄っていますね。

チップだと言いながら身体に触ろうとする手つきが気持ち悪いからもう来ないでという証言をいただいています。

あっ、これ実際の証言です」


『バルガ~?

あぁいつも目つきがキモイおっさんでしょ。

なに、あいつ結婚してんの?

うわ~引くわ~』


「ぐああああぁぁぁっ!? もう止めてくれ!」


「その隣にいる副兵士長のゴッジさんは……ぬいぐるみが無いと寝られないのに宿舎に持ち込めないから横で寝ている人に抱き着く癖が……」


「ぎゃあああぁぁあっ!? 違うんだあああぁっ」


 ……こういうのも心理戦とか情報戦と呼ぶのだろうか?


ちなみに録音に使ったのは僕が地球から取り寄せたボイスレコーダーだ。


「お、おい次お前行けよ」


「あれを見て行けるわけねぇだろ。社会的に抹殺されちまう」


「……だよな。帰っちゃダメかな」


 兵士の皆さんはコロシアムの中央に行こうとすると道の中央に陣取っているセレスさんを抜かなければならない。


 しかし抜こうとすると言葉の暴力が飛んでくるので尻込みしているのだ。


 すでに十人以上が被害に遭ったのか、崩れ落ちて何かをブツブツと呟いていたり奥さんっぽい人に胸倉を掴まれてもはや周りが見えていない人などがいる。


 さっきまで何で喋らないのかと思っていたらこの情報を整理していたわけね。


 もしかしてさっき書いてた百の方法ってこういうこと?


 ……怖すぎ。


 皆が僕の為に道を作ってくれた。方法はあれな人もいるけど、後でお礼を言っておこう。




「ぐっ……クソがぁっ!」


 勇者の視力が回復してきたようだが、もう遅い。


 ダンジョンで練習した高速移動で奴隷商人の長の目の前に来た。


 呪文を唱える魔法使いの倒し方なんて漫画やアニメでいくらでも見てきたから答えは簡単。


「ちょっとだけごめんね」


「むぐっ!?」


 呪文を唱えていた長の口にガムテープを何枚も貼り付けて喋れなくした。


 そう、要は呪文が言えなければいいのだ。


 だからガムテープを取り寄せて貼り付けてみたら上手くいった。


 異世界の人からしたらガムテープなんて未知の物をどうしたらいいか分からずに困ると思ったんだよ。


 ……あれ、長の人が「まったく強引な奴め、でもこういう強引なのは嫌いじゃないぞ」みたいな感じで僕を見ている気がするけど気のせいだよね?


 とにかくこれで呪文も止めたから、後は二人を取り戻すだけだ。


 ちょうど二人を引っ張っていた鎖は手放しているから大チャンス!


 再び高速移動で二人の元へ接近。


 両脇に二人を抱えてそのまま跳躍し、コロシアムの来賓席のようになっている場所へと降り立った。


 おそらく本来は王族が使用する特別席なんだろうけど、あいにく皇帝は不在なので誰も使用していなくて好都合だった。


「シャル! エリー! 遅くなったけど迎えに来たよ……ヒール!」


 シャリアさんから聞いていた通り二人の様子がおかしいことから回復魔法を試みたけれど効果が無い。


 状態異常を治す魔法じゃないとダメってことか?


 ツアー本お願い!



『11ページが開いた』



 さっすが! なになに……?


 状態異常を回復したいとき


【愛しい君を救う光よ 憐れなる者に聖なる祝福を ディスペル】

※必ず最初の一回目は必ず大きな声を出して必ず対象に向けて唱えてください

失敗したくないでしょ?


 くおおおぉぉぉっ!?


 ヒールの時みたいに実は呪文を唱えなくてもいけるだろうと思ったら対策してきたんだけど!?


 必ずを三回も使って念押ししてくるし、最後にちょっと煽ってくるし!


 ええい、ままよ!


「愛しい君を救う光よ 憐れなる者に聖なる祝福を ディスペ―――ル!」



『ディスペルは語尾を伸ばさなくても発動します』



 うっさいわ! 気分だよ気分! 最後に叫びたい気分だったの!




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