第1章-4 出席番号1番の男
そんなこんなで馬車が停止した。どうやら侯爵家へと到着したようだ。
到着までだいたい二時間くらいだっただろうか。
二人ともそれぞれの馬車を操っていたので、暇な僕はその間馬車の中で座り一人でボーッと景色を眺めながら道中を過ごした。
最初こそ草原ばかりだったが、しばらくしたらポツポツと住居や畑が見え始めて思ったより面白かったなぁ。
畑には見たこともない野菜や果物みたいな物があるし、地球にはいなさそうな動物もチラホラ見掛けてついつい目で追ってしまった。
途中何匹か轢いてたような気がするけども。
「そういえば……結局どちらの侯爵家へ行くんだろう」
けっこうな時間ずっと外の景色に夢中になってしまっていたが、目の前に広がる大きな屋敷を見てこれから侯爵家に行くんだったと自分の状況を思い出した。この屋敷はどちらの侯爵家なのだろうか。
「アーサー様、起きていますか? 着きましたよ」
馬車を停めたセレスさんが呼び掛けてくる。なんだかんだと今まで自分の名前を言う機会がなかったので今更感が半端ではないが、今呼ばれたのは僕の名前だ。
いや、これだと誤解が生じるな。
僕としては朝陽と言ったつもりだったのだけど、どうも日本語の名前が発音しにくいらしくて妥協点としてアーサーという名前で落ち着いたんだ。
ちなみに名字は朝田で、名前順の出席番号になった場合だと朝田朝陽は高確率で一番最初になる。
あとめちゃくちゃ朝型で朝に強いと思われがち。
「うわぁ……でかいなぁ」
セレスさんに促されるまま馬車を降りて屋敷を見る。
何故か馬車から大きな板を取り出しているがあれはなんだろうか。わざわざ馬車に積んでいたのだから何か意味があるのだろうと気にしないでおいた。
しかし侯爵家の屋敷ってこんなに大きいものなのか。
もしかしたら庭とかの敷地も含めると東京ドームくらいあるかもしれない。東京ドームに行ったことはないけど気持ちの問題として広い心で許してください。
「ふふふ、中はもっとスゴいですよ?」
ポカンと口を開けている僕が面白かったのか、隣に来たシャリアさんが微笑みながら僕を見ている。
シャリアさんがこう言うってことは、ここはペネロス侯爵家なのかな?
「そうですね。確かに内装には私も力を入れていますし、何より季節ごとに綺麗な花を咲かせる庭園が自慢なのですよ」
シャリアさんの言葉にウンウン頷きながらセレスさんが誇らしげに語る。あれ、セレスさんが自慢するならこの屋敷はベネクン侯爵家のほうってこと?
結局どちらなのかハッキリしないまま、僕は二人に連れられて屋敷の中へと案内される。僕の身長の倍はありそうな大きな扉を開けると、そこには自慢するのも納得な室内がお迎えしてくれた。
ちなみに僕の身長は……秘密だ。
こう言っておけば二メートルと思ってくれる人がいるかもしれないとかは考えていない。
家具や美術品の類いはどれも明らかに高そうだし、床は全面絨毯でフカフカ。かといって全体的に高級そうなのに嫌味っぽくなくて、不思議と落ち着く気さえしてくる。
こういうのをセンスがいいと呼ぶのかもしれない。暑い時に使うのは扇子がいい。いやハンディファンかな。
「こんなスゴい屋敷を見られただけでお礼としては十分なので、僕はそろそろこのへんで……」
「ふふふ、ご冗談を。さぁさぁこちらへどうぞ」
最後の悪足掻きとして逃走を試みようとしたのだが、シャリアさんに回り込まれてしまった。
そのまま二階へと連れて行かれ、なす術なく「話は別の者からご主人様へ既に伝えておりますので、こちらにどうぞ」とセレスさんに言われた部屋に入ることに。
うぅぅ、怖い侯爵様とかがいたらどうしよう。
昔色々あって、とある極道の組長さんがいるビルに学級新聞の取材へ行かされた時のことが思い出されるよ。極道用語特集なんてどこの中学生が読みたいっていうのさ、まったく。今では組長は僕の将棋友達で、学級新聞をわざわざ学校まで読みに来たり運動会の保護者席にいたりする仲だが。
過去のトラウマのようなものを思い出してやや震えている僕を不思議そうにシャリアさんが見てくる。
初めてドスを持った極道を見た時の恐怖は体験しないとわからないからさ。早くオツトメ終えて外の空気吸いたい。あっ、極道用語使いこなせてるわ。
「シャーロット様、エリザベス様。失礼致します」
扉をノックしてから開けたセレスさんが女性の名前を呼んだ。それも二人の名前だ。
もしかして侯爵様って女性なのか。もう一人は侯爵様の娘か妹とか?
チラッと覗き込むも二人ともこちらに背を向けて椅子に座っているのでどんな人なのかよくわからない。
「待っていたわ。あなたがアーサーね。
ふ~ん……思ったより可愛い顔してるけど、この辺では見掛けない雰囲気なのね」
どうやってこちらを見ずに確認しているのだろう?
とにかく失礼な態度は取らずに少しでも早くこの屋敷からお暇できるよう、ファーストコンタクトは好感触でいきたい。面接の極意の一つ、しっかり相手の目を見て話す。
二人がこちらを向いた気配がしたのでハキハキと喋ってみせるぞ!
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