第1章-38 宿屋の名は秘密厳守
ダンジョンで目的の物を手に入れた僕達は、帝国を目指していた。
当初の予定では獣化したミラン姉さんの背中に乗せてもらうことになっていたが、ダンジョンを出て出発する時に僕からミラン姉さんに自分の力だけで向かいたいとお願いしたのだ。
獣化したミラン姉さんなら確かに早く着けるのだろうが、僕はダンジョンで手に入れた箱の中に入っていた物を事前に試しておきたかったんだよね。
道中走りながらでも試せるし、途中で魔物が出ればついでに練習も出来る。
鑑定結果で出たことが本当なら、これはライフイーターと戦う上で重要になってくる……はず。
そんなこんなで色々と試してなんとか実戦でも使えると言えるレベルになった頃、ついに九日目を迎えていた。
「まったく、結局最後までアタシが連れて来るという当初の役目はあまり果たせなかったな」
「あはは……すみません。
でもミラン姉さんがいてくれたおかげで無事期間内に帝国へ着けましたよ」
本来は帝国に入る為には関所を通らなければならず、そこで下手をすると数日は時間が掛かってしまうらしい。
だがそこはさすがミラン姉さん。
有名な冒険者である彼女は審査を簡易的にだけ済ませれば優先的に入れてしまった。
有能な冒険者は各国にとっても貴重な戦力であり、上位の冒険者ほど緊急依頼で急いでいる場合が多い。
その為、ミラン姉さんのような冒険者はこれまでの実績と信頼だけでほぼ顔パスなのだそうだ。
もちろんそれに伴うだけの責任があってこその上位冒険者だそうだけど。
獣化による速度に加えて関所をすぐに通ることが出来る上位冒険者だから、セレスさんとシャリアさんはミラン姉さんに僕を帝国へ連れて行くようお願いしていたというわけだ。
「なんとか夕方までには着けたな。
さて、待ち合わせの場所は……あった。ここだ」
「ここは……宿屋ですか?」
「あぁ。アタシ達は見つからないようにする為にあまり目立つわけにはいかないだろう。
この高級宿である秘密厳守は、絶対に客の情報は外部に漏らさない。
決闘まで身を隠しておきたいアタシ達にうってつけの場所ってわけだ」
「……秘密厳守」
なんてストレートすぎる宿の名前だ。
ここに泊まった人は秘密がありますよーと自分で言っているようなものな気がするんだけど、本当に身を隠すのにうってつけなのかな。
あっ、宿から二人組が出て来た。
老執事っぽい人とすごくフワフワした雰囲気の少女だ。
どう見ても一般人ではないのはすぐに分かった。
あの二人にはどんな秘密があるのだろうか……。
「店主が変わり者で、顧客名簿を眺めてどんな秘密があるのか妄想するのが楽しいらしい」
「それはまた」
変わった人もいるものだ。
おっと、ミラン姉さんに置いて行かれないよう僕も早く宿に入ろう。
「おー、いらっしゃいよー」
中に入ると高級宿に似合わない軽い声が聞こえた。
それが第一声でいいのか、高級宿の店員さん。
「先にセレスってのが来てるはずなんだが」
「はいはい来てるよー。
料金はもらってるからお二人さん三階へどぞどぞー。
階段上がって一番右奥よー」
「わかった」
スタスタ進むミラン姉さんに遅れて合流。
そこで不意に興味本位でさっきから喋っていた軽い調子の受付がどんな人か見てみる。
(子ども……だよね?)
見た感じ7〜8歳くらいの子どもがたぶん踏み台に乗って受付をしていた。
女の子……で合ってるはず。
「アーサー、行くぞ」
「あっ、はい」
なんとなく気になって前を歩くミラン姉さんが階段を上がり始めたあたりで受付を振り返ってみた。
向こうもこちらを見ていたようでパチッと視線が合う。
なんだろう、子供の頃に親戚の集まりで間違って大人用のお酒を飲んでしまった時のような、変な感覚があるような……?
「うわ!?」
ミラン姉さんが僕の腕を掴んで耳打ちしてきた。
「(気をつけろ、アレは魔性の類だ)」
「えっ、それってどういう……」
「(話は合流したらな)」
気になるけれど、ミラン姉さんがそう言うならひとまず置いておこう。
ミラン姉さんに連れられて、僕達は三階へと向かった。
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