第1章-35 ヒーローとは照れることなく必殺技を叫べる者のことを言う
「ミラン姉さん、風魔法を使いますね。え〜っと、トルネード……ミニサイズ!」
つむじ風をもう少し凶暴にしたレベルの風が巻き起こった。
こいつをそのまま上に見える煙に向かって解き放つ。はたしてどうなるか…。
バリリリィィィ!
「魔法が……相殺された?」
「アタシにもそう見えた。あれは魔力を帯びた煙ということか」
となると聖なる武器を手に入れようとした精鋭魔法部隊ってのが失敗したのは当然かもしれない。相性が悪すぎたと。
「ならこれはどうだ!」
アイテムボックスの中に入れていた手頃なサイズの普通の石を取り出し、煙に向かって投げ付ける。
何故石を持っていたのかとかは気にしないでほしい。
投げた石は煙を貫通し、そのまま重力に引かれるように戻ってきて再び煙を貫通。
カツンという音を鳴らして床に落ちた。
「物理的な物は素通りするようですね」
「なら、魔法を使わずに登ることさえ出来れば……」
「はい、上に行けそうですね。ミラン姉さん、力を貸してください」
「策があるんだな? 任せておけ」
「助かります。では、獣化してもらえますか」
「わかった」
わかったを言い終わるのとほとんど同時に服を脱ぎ始めたが、予想していた僕はすぐさま身体を高速スピンするかのごとき速度で後ろを向いた。
さっきクルッと回ってカッコつけたようなことになった経験がここで生きた気がする。
今の内にツアー本でさっきの内容を再確認。魔法を弾いて物理的な物は通り過ぎる。
これは間違いなさそうだ。
「獣化!」
脱ぎ終わったミラン姉さんが獣化してくれたようだ。
そろそろ振り向いても大丈夫だろうか。
「(こっ、これは!?」
下着とかが無造作に地面に置かれてる―――!
……くっ、こうなるのはちょっと考えれば分かったはずなのに何故そこまで考え付かなかったんだ僕ってやつは!?
「さぁ、獣化したぞ。そんなに煙ばかり見てないで指示をくれ」
下着を見ないように上を見ていたんですけどね。
「それじゃあ背中に乗せてもらいますね。そのまま煙の辺りまで跳び上がってください」
「まさかアタシの跳躍に合わせて跳ぶのか? さすがに危険ではないか?」
「大丈夫です、やってみせます」
「……わかった。信じるとしよう……では跳ぶぞ!」
ミラン姉さんは姿勢を低くして力を溜め、一気に反動をつけて高く跳び上がった。
さすがだ、煙までかなりの高さがあったのに余裕で届きそうだ。
先ほど開いたツアー本には煙のパターンについて記されていた。
その内容によると煙の中には特殊な物が二つあるらしい。
一つは対象を惑わせる効果があり、森の中で霧が発生して迷わされるような効果を持つ。
いくら振り払おうとしても意味がなく、魔力によって吹き飛ばすのが最も確実な脱出方法となる。
もう一つは魔力を帯びた煙で、他の魔力に干渉して分散させてしまう。
その為よっぽどの威力を持つ魔法を使えるならともかく、ダンジョン内で高火力の魔法を使いにくい状況では歯が立たない。
これを打破するには、物理的な衝撃で一気に霧散させるしかない。
ちなみに煙をスルーしてやり過ごすという手もなくはないものの、それはしてはいけないというのが僕の勘だ。
きっとこの煙を用意しているのには訳があると、僕は思う。
ならばやることは一つ。
正面から……真っ向勝負!
「だああああぁぁぁぁ!!」
身体強化と剣術スキルは、ここに来るまでに共にLv.3になっていた。
それを発動させ、上に見える煙に向かって剣を両手で強く握り締めて大きく振りかぶる。
テレビで特撮ヒーローを観ていた時にふと思ったことがあった。
どうして技名とかを叫んでわざわざ相手に教えてしまうのだろうかと。
その時はカッコイイからまぁいいやと気にしていなかったけど、今ならわかる。
あれは、必殺技を決めるという覚悟であり自分のスイッチを入れる為のものだったんだ。
だから僕もダンジョンを駆け抜ける中でものにした技を、あえて叫ぼう。
「旋空破斬!!」
剣が光に包まれ、横薙ぎに振り抜いた刀身が僕を中心に周囲の煙を一瞬で霧散させた。
下から見るとドーナツ状に衝撃波が広がったように見えているかもしれない。
確かな手応えと、自分もヒーロー達のように必殺技を叫べたという高揚感から思わずガッツポーズを取っていた。
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