第1章-30 いやそういうことではなく
ダンジョン。
それはいまだに解明されていない未知の場所。
洞窟や平原、塔とか城なんてパターンも発見されているものの、どうして奥から魔物が出てくるのかは不明。
誰かが意図的に管理しているのではないかと推測する者もいるが、結局のところ分からないままである。
放っておくとダンジョンから魔物が溢れて地上に出て来たことがあるらしく、ダンジョンが新たに発見された場合は厳重に管理される。
だがダンジョンがあることは悪いことばかりではない。
魔物から手に入る素材やアイテムで人々は様々な武具や道具を作り出すことが出来る上、まだ数例しか発見されていない極めてレアなパターンだが稀に凄まじい力を秘めた何かが発見される場合も確認されている。
今回ペネロス侯爵領内にて発見された新しいダンジョンは、その極めてレアなパターンに該当するダンジョンだった。
「ここがその発見されたダンジョンですか。僕達以外誰もいませんね」
獣化したミラン姉さんの背中でモフモフな毛を堪能すること約一時間。
僕達はペネロス侯爵領で発見されたばかりのダンジョンへと到着していた。
目の前にはピサの斜塔に似た雰囲気の塔が見える。あれが発見されたダンジョンのようだ。
塔の天辺付近にだけなぜか雲のような物があるせいで全体像は見渡せない。
周りに他の雲なんてないし、そもそも雲があるにしては低すぎだ。
「降りますね」
「気を付けろて降りるんだぞ?」
ミラン姉さんが姿勢を低くして降りやすくしてくれた。
このモフモフともしばらくのお別れかと思うと寂しくなった。
最後にもう一回だけモフっておこう。
「そんなに気に入ったなら……また乗せてやるよ」
「ぜひ!」
やった、これでまたモフモフを堪能出来る。
「さて、元に戻るか」
「そのままの姿だとダンジョンに入るのは狭そうですもんね」
「そういうことだ。服を用意しておいてくれよ」
「そうですね、服を……待って!?」
服をアイテムボックスから出そうとしたタイミングとほぼ同時にミラン姉さんの身体が光った。
これは間違いなく獣化を解除しているのだろう。
となるとこのまま目の前に現れるのは……。
「どうした? 早くアタシがさっき脱いだばかりの服をくれ」
言い方ぁ!? 合ってるけど言い方が良くないと思います!
「はははいどうぞぞぞ!」
「そんなに照れられるとアタシまで恥ずかしくなるじゃないか。
こんなガサツで筋肉質な女の裸を見ても大して面白くないぞ?
シャリアみたいなスタイルならともかくさ」
「そんなことないですミラン姉さんは美人だしスタイルもいいし筋肉質だけどムキムキになってるわけじゃなく健康的な筋肉の付き方でとてもバランスがよくて髪の毛も赤くてキレイでモフモフを思い出しますし性格もワイルドでかっこいいですし……」
「そ、そうか……」
しまったぁぁぁ。
またしてもキモイ感じの早口でつい本音を漏らしてしまったぁぁぁぁ。
ミラン姉さんが自分のことを卑下するからそれが許せなくてついやってしまったぁぁぁぁ。
「アタシが言ったことを許せなかった……のか。その……ありがとう」
口に出してたぁぁぁ!?
しかも裸のままで赤い髪をいじりながら照れてモジモジするの止めてぇぇぇぇ!?
「すみません向こうで土下座してくるので服を早く着てください!
服はここ置いときますんで!」
「どげ? ……あぁ行ってしまった。
……アタシのことをあんなふうに言ってくれたヤツは初めて……だな。
美人で……かっこいい……のか」
スキルで底上げされた力は想像以上に凄まじく、僅か数秒でミラン姉さんが豆粒みたいに見える位置まで移動していた。
早速土下座開始だ。
「あの……君は何をしているのかな?」
「話しかけないでください。自分の中の煩悩を倒して反省の意を示す為の神聖な儀式中なんです」
「それは若いのに大変だな……。だけど、何もダンジョンの入口でやらなくてもよくないかい?」
「大事なのは場所ではなく気持ちですから」
「いやそういうことではなく」
僕が土下座をする為に移動したのはダンジョン入口付近だった。
そこにはペネロス侯爵家から派遣されている兵士が四人ほど見張りで立っており、僕に話し掛けてきたのはその内の一人だ。
「悪い、その子はアタシの連れだ。連絡は既にいってるだろ?」
ミラン姉さんが兵士に話し掛けているようだが、儀式中の僕は顔を上げることが出来ない。
兵士さんが普通に対応していることから服は着ているようだ。
「あぁ彼が例の……。その……大丈夫ですか?」
後になってから考えると、色んな意味が含まれていそうな大丈夫ですかだった気がする。
もしかしたら頭がとかも含まれていたのかもしれない。
「アタシの直感が大丈夫と言っている。必ずダンジョンで強力なアイテムを手に入れてくれるさ」
「いやそういうことではなく」
儀式を終えた僕は話し中の二人に合流した。
「お待たせしました。煩悩を退散させた今の僕なら何でも出来そうな気がします」
「いい気合だ、アーサー。
だがムリはするなよ、その為にアタシが一緒に来たんだからな。
ダンジョンに入る前にトイレは済ませておけよ」
「確かに済ませておきたいです。
あっ、大丈夫ってそういう意味だったんですね。
兵士さん、お気遣いありがとうございました」
「アタシも済ませておくか。
悪いが待機所のトイレ借りるぞ。
行くぞアーサー」
「はい」
親切な兵士さんにペコッと一礼してから二人でトイレを借りに行った。
後ろから「いやそういうことではなく」と聞こえた気がしたが気のせいか。
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