第1章-26 そのころ帝国ではシリアスな話をしているみたい
勇者が帰還したという報は、すぐさま皇帝の元へと届いた。
報せを受けた皇帝は執務中だったのに邪魔が入ったと言わんばかりにため息をつく。
あの阿呆な勇者の為にたった十日で結婚式の準備をしなければならず、最近は慣れない仕事であることも加わって特に忙しくしていた皇帝であった。
自分で許可したことの結果だとしてもやはりストレスは溜まるもので、やれやれと愚痴りながら勇者を迎える為にソファに置いていた正装に急ぎ着替える。
そのまま執務室を出ようとしたタイミングで、皇帝直属の隠密が声を掛けてきた。
「陛下、勇者と共に例の令嬢達も来ています。
状況から見て、間違いなく拉致してきたかと」
「そうか……。ご苦労、下がれ」
「はっ」
出来れば面倒事は避けたかったのでムリヤリ連れて来るのは止めてもらいたいところであったが、やはりダメだったかとぐったりした。
自分が一筆書いたせいとはいえ、これでもし戦争が始まるようなことがあればしばらく睡眠時間は一日一時間だなと自然と何度目かになるため息が出てくる。
勇者と魔法使いの少女は帝国の城内にあるワイバーン発着場に到着した。
そこは帝国が誇る竜騎兵団の本部でもあり、常に屈強な兵士達が訓練する場でもある。
いつもなら今の時間は大勢の兵士達が訓練に汗を流しているのだが、今日は静かだった。
というのも、例の勇者が戻って来たぞと、訓練中だった兵士達は訓練を中断して勇者に関わらずに済むよう我先にとその場からいそいそと逃げ出していったからだ。
その途中、兵士達は出発の時には見なかった人物が一緒にいることに気付いた。
水の膜、おそらくアクアバリアの応用だろうと推測出来るそれに可憐な少女2人が明らかに閉じ込められている。
術者は同行していた魔法使いの少女に違いない。
「お、おい。あれってまさか……本当に攫ってきた……のか?」
「ばか、滅多なことを口にするな。聞こえたらお前もただじゃ済まないかもしれないぞ」
「けど、あれはさすがに……」
「いいから行くぞ。助ける覚悟がないなら見て見ぬ振りも……時には必要だ。俺達みたいな末端は特にな」
「……あぁ。そうだ……よな」
明らかに喜んで帝国に来たわけではない少女達を見て、兵士達は諦めるようにその場を離れた。
アクアバリアが魔法使いの少女の操作で地面にゆっくりと降りてきた。
魔法使いの少女が指を軽くパチンと鳴らすと、バリアはシャボンが弾けるようにして割れる。
「狭い中に押し込めてしまい、申し訳ございませんでした」
魔法使いの少女は心苦しそうにしながらシャーロットとエリザベスに頭を下げた。
なんと言ったらいいのか、シャーロットとエリザベスは互いに顔を見合わせている。
そこへ、空気を読むことを拒否する者が怒りながら現れた。
「ようやく着いたか、まったく。
お前は操縦が雑なんだよ!
おかげでとんでもない目にあっただろうが!
使えない奴隷のくせに!」
勇者は帝国へ戻って来るまでの間、ずっとフタコブワイバーンの尻尾にしがみついていたので機嫌が悪かった。
自分がフタコブワイバーンの機嫌を損ねたせいで帝国まで暴走するように飛び続けたのだが、彼の中では手綱を握っていた魔法使いの少女のせいということになっているようだ。
せめてもの腹いせにと、勇者は奴隷と呼んだ少女を蹴飛ばした。
「あぅっ!? ……申し訳……ありません」
蹴飛ばされた少女は、苦しそうにしながらも謝罪の言葉を口にした。
早くそうしないとまた蹴られると思ったからだ。
「ちょっと! アンタ女の子に何てことするのよ!」
「……サイテー」
いくら自分達を拉致して連れて来た魔法使いだとしても、目の前で女の子に乱暴を振るうバカ勇者が許せなかったシャーロットとエリザベス。
黙っていられず、少女を庇うようにして前に出た。
「ちっ……まぁいい。さぁこんな女は放っておいて君達の部屋へ案内しよう。おい、そこのお前!」
急いでこの場から離れようとしていたが要領悪く逃げ切れなかった新米兵士に、苛立っている勇者は声を掛けた。
「な、なんでしょう……?」
逃げ切れないと悟った兵士は、観念して勇者に振り向いた。
「俺が皇帝の所に行っている間に急いで彼女達の世話をする侍女を連れて来い!
この俺が急げと言っていると伝えればあの頭の固そうな侍女長も納得するだろう。
分かったら早く行け!」
「……わかりました」
明らかに分かりたくないという表情で返事をしてから、新米兵士は駆け出した。
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