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第1章-20 小物感ある敵は何故セリフが長いのか

 奴隷と言えば異世界に言ったら高確率で聞くパワーワード。


 味方に出来る場合の良い意味の場合と扱いに人権が存在しない最悪の場合もあったりするけど、この世界ではどうなのだろうか。


「まずい! お逃げください!」


「お嬢様!!」


 さっきまで口元をニマニマしながら同じく沈黙していたセレスさんとシャリアさんが焦った様子で僕達に向かって叫んだ。


 その声に反応して僕はシャルとエリーの手を掴もうとした。


 しかし、どういうわけか急に身体の力が入らなくなってうまく動けない。


 視線だけで周りを見ると、シャルとエリー、セレスさんとシャリアさんも同じように動けないでいるようだ。


 動けない間の数秒が長く感じた。


 まるで目の前で扉が閉まって先に行かれてしまったエレベーターを待っているかのようだ。あれは地味に長いのよ。


「「アーサー!」」


「シャル! エリー!」


 こんなに近いのにまるで重力が重くなったかのように手が届かない。


 というよりも体から力が抜けていくほうが正しいかもしれない。


 いったいどうなってるんだ!?


「ミストフィールド」


 美少女魔法使いが魔法と思われる単語を呟くと、周囲に濃い霧が現れた。


 自分の身体すら確認が難しいほどの濃さだ。


「アクアバリア」


 再び美少女魔法使いの声がした。


 これも何かの魔法か!?


「シャル! エリー! 無事なら返事して!」


 唯一まともに動く口を使って叫ぶが返事はない。


「ハッハッハッハッ!」


 子鹿勇者の気持ち悪い笑い声が響くと同時に、バサッバサッという音と突風が辺りを駆け巡る。


 そのせいで「ハッハッハッハッ!」が「バヒャッバヒャッバヒャッバヒャッ!」と聞こえてきて不快感がハンパなかった。


 どうやら笑う時に口の中に強い風が入ってきて上手く発音出来なかったらしい。


 そんな突風のおかげで霧が晴れてきた。


 皆は無事なのか!?


「お嬢様達がいない!?」


「あっ、上に!」


 シャリアさんの声に、僕とセレスさんは上を向いた。


 上空には、僕達のやり取りを気にせずご飯を食べ終えてペロペロと手入れの為に尻尾を舐めていたはずのフタコブワイバーンが飛んでいる。


 その背中には手綱を握る美少女魔法使いと、水の球体の中に閉じ込められているシャルとエリー。


 もしやあれがさきほどのアクアバリアと聞こえた魔法か?


 シャルが内側からドンドンと叩いている様子を見る限り、溺死するような類ではなさそうなのがせめてもの救いだ。


 ただこんなシリアス展開のはずなのに、子鹿勇者がフタコブワイバーンの尻尾に逆さまにしがみついているのがイラッとする。


「結婚式の準備と招待客を近隣国から呼ぶのに十日はかかるそうだから、それまでに帝国に来い。

俺達の式の余興に貴様を八つ裂きにして、俺に逆らうことの意味を世界中に知らしめてやる!」


「そういうセリフは尻尾にしがみつきながら言っても効果薄いぞ!」


「ええぃ、うるさい!」


「今すぐ決闘してやるから二人を離せ!」


「こいつの力でまともに動けないくせに偉そうに言ってんじゃねぇよ」


 こいつの力と言ったタイミングで子鹿は自分が持っている剣をチラッと見た。


 これはロリコン勇者の持っているあの剣のせいなのか……?


「そのスマホとかいう魔道具がパソコンより上なのか、どこまでのことが出来るかわからねぇ以上、この場での決着は預けておいてやる。

十日後の結婚式にその魔道具を持ってこい。

それまで嫁達は俺の所にいてもらうぜ!  

元々嫁として連れて行くつもりだったが、テメエに対しての人質にもなっちまった!

アーサー、テメエのせいでな!

ハーッハッハッ!!」


「子鹿ぁぁぁ!!

セリフが長すぎてちょっと覚えきれなかったからもう一回言ってくれる?」


「しょうがねぇな、そのスマホとかいう魔道具が……って、二度も言わせようとすんな!

おいデカブツ、早く飛べ!」


「あっ、いけません勇者様!? そんなに乱暴に扱っては!」


 器用に尻尾に捕まりながら足でフタコブワイバーンの身体を何度も蹴っている子鹿勇者。


 見ている限りは非常にマヌケなことに彼は気付いているのだろうか。


 これも写真に撮っておこう。


「グロォォォォン!?」


 蹴りが急所に当たったのか、フタコブワイバーンが吠えながら遠ざかっていく。


 悔しいけど身体がうまく動かせない僕達に、それを追うことは出来なかった。


 動けるようになったのは、フタコブワイバーンの姿が完全に見えなくなってからだ。


「シャル! エリー!」


 あっという間に姿が見えなくなったので届かないかもしれないが、それでも僕は叫ばずにはいられなかった。


「くっ、このセレス一生の不覚。お嬢様をお助けするためにあの部隊を動かすべきか……」


「お嬢様……このシャリアが必ずや外道の○○をチョン切りましょう。

……それまでどうかご無事で」


 怒りや悔しさについては同意見なんだけど、なんかセレスさんとシャリアさんがめちゃくちゃ怖い。


 侯爵家の闇を見た気がした。


少しでも面白い、これなら続きを読んでやってもいいかなと思われた方はポチっとポイントをいただけるととんでもないくらい励みになります!

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