第1章-17 感じたことが無いほどの怒り
それにしても先に式を挙げることを提案ってどういうこと?
「(婚約者が本当にいようがいまいが、式を強行されてしまえばお嬢様方はもう新たに結婚する相手を見つけることが出来ません)」
セレスさんが耳打ちして教えてくれた。
つまり逃げ道を無くすだけでなく、侯爵令嬢として致命的ってことか。
「あぁそうそう、万が一にも一緒に来ないなんてことがあれば書状にも書いてあると思うが帝国との戦争になるからな。
そこの睨みつけてきてる執事とメイドにもちゃんとわからせておけよ。
下手なことを言うだけでも戦争になりうるってことをな」
セレスさんとシャリアさんに嫌味ったらしく言ってくるロリコン勇者が腹立つ。
「くっ……」
「なんて卑怯なの……」
ギリギリと歯噛みするセレスさんとシャリアさんをシャルが手を軽く上げて抑える。
「なんだよそれ……強迫じゃないか……」
あまりの身勝手さに気付けば僕の心の声がそのまま声に出ていた。
「あぁん?
さっきのガキか、強迫とは失礼な奴だ。
俺の魅力と勇者の特権とでも言って欲しい……ね!」
「うあぁっ!?」
ロリコン勇者が突然僕の腹部を蹴り飛ばしてきた。
ケンカ慣れしてないこともあって咄嗟に反応しきれず、なんとか最低限の受身は取ったけど数メートル吹っ飛ばされてしまった。
「「アーサー!?」」
僕の所に駆け寄ろうとしたシャルとエリーをロリコン勇者と一緒にいた魔法使いますよ~な雰囲気を持つ少女が遮った。
「……いけません」
ここにきて初めて喋った彼女の声は震えていた。
「げほっ……。僕はなんとか……大丈夫だよ」
柔道部顧問の山岸先生から受身を教わってなかったらけっこう危なかったかも。
体育の授業の度に何故か僕とばかり稽古を始める山岸先生から様々な投げ技で投げ飛ばされておいて助かった。
ロリコン勇者に蹴られたお腹はズキズキ痛むけど、なんとか耐えられなくはない。
こんなもの……歯医者で「痛かったら手を挙げてください」と言うから速攻で手を挙げても「は~い、痛くないですよねぇ」と聞く耳持たれなかった時の苦しみに比べたらなんてことない!
あの時の絶望感といったら……、ねぇ?
飛ばされた時に魔法使いますよ~な人の顔が少し見えたけど、かなり若くて可愛らしい少女みたいだ。
ただ、すごく辛そうな表情を浮かべていたのが気になる。
あとずっと空気と化していたフタコブワイバーンが、僕らが食べていた食事をモシャモシャ食べているのが視界に入って気になってしょうがない。
「……シャル。……私は平気」
エリーがシャルの手を握った。
(今のアーサーではまだ……)
わずかな時間葛藤をしていたエリーは、10歳とは思えないほど大人びた表情でロリコン勇者を見上げる。
「……エリー。
そうね……わかった。
帝国へは行くからアーサーに……。
ここにいる大切な人達とこの国の民には手を出さないと約束しなさい」
「……約束するなら大人しく付いて行く」
シャルとエリーの返答に満足したのか、ニヤァと笑みを浮かべながらロリコン勇者は二人に近づいてくる。
「俺の求婚を受けてくれて嬉しいよ。
世界も平和になるし好きな相手である俺と結婚も出来る。
執事も嬉しいだろう?
嬉しいって言えよ……なぁ?」
こいつ……この状況を楽しんでる。
どんだけ自分に自信があるんだよ、腹立つなぁ。
「う、うれ……」
ギロッとセレスさんを睨むロリコン勇者。
「セレス……」
セレスさんに対し、「言いなさい」と目で指示を出しているシャル。
それを見たセレスさんは項垂れながら口を開いた。手はギリギリと握りしめられ、僅かに血が流れている。
「嬉……しい……です」
「……セレスさん」
シャリアさんは悔しさのあまり涙を流している。
セレスさんの分まで泣いているかのようだ。
シャルとエリーも今にも泣き出してしまいそうなところを、お互いの手を握り合うことで必死でこらえている。
「くくっ……はーはっはっは。
だよなだよな。
勇者と結婚するなんて栄誉、侯爵家に仕える身として主を祝福するのは当たり前だよなぁ」
ニヤニヤしながら僕のそばにいるシャルとエリーに近づいてくるロリコン勇者。
僕には興味がないのか、こちらを見ようともしない。
僕は目の前であんな光景を見せられて、いったい何をやっているんだろう……。
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