第1章-1-2 その日、突き飛ばされて異世界に行った
ともかくこれで誤魔化せただろうとホッとしかけたその時、ピカッと目の前のマッチョ光輪が眩い光を放った。
ちなみに光の巨人が使う技は八つ裂きにする光輪だ。こわっ。
「うあぁぁぁ!? 目がぁ……目がぁ……」
あまりの眩しさに、どこかの天空の一族の男性のような声を出してしまった。
「ほら見えてた」
くそぅ、まさかここまでして絡んでくるとは……。
「わかりましたよ……。確かにマッチョ光輪とか多すぎる羽毛とか金色の冷や麦みたいな髪とかが見えてましたよ」
「言い方ひどっ!?」
目を瞑ったまま彼女の声がする方を向く。眩しくてまだ目がうまく開かないのだ。
「それで、ここまでして引き留めていったい何の用だったんですか」
「ごめん、キミが話しかけているのは私の右のつば……羽毛よ」
わざわざ翼を羽毛と言い直すところに引っ掛かりを覚える。さっき僕から言われたことを根に持っているようだ。
まだ目がよく見えないが、ひとまず向きをやや修正してこの人がいるであろう方向を向き直す。
「それで、ここまでして引き留めていったい何の用だったんですか」
「ごめん、キミが話しかけているのは私の右の羽毛の真ん中付近よ」
こいつ、閉じてた羽毛を広げて声をこもらせ本体の位置を分かりにくくしてやがる……。
めんどくさいのでそのまま真ん中付近の羽毛に話しかけることにしよう。
「羽毛さん、早く用件を言ってくれます?
こう見えて四人分の宿題の手伝いと買い出しと夕飯の準備とマッサージとゲームのレベ上げをしないといけないので僕は忙しいんです」
「いや私の名前はそもそも羽毛じゃないし。それにキミが帰ってやらなきゃいけないことの意味がよくわからなくて頭に入ってこないんだけど」
今言ったことが全てなのに何が分からないのだろうか。
あぁ、明日は休日だからショッピングの荷物持ちに備えての準備もあるって言うのを忘れてたな。
なんて考えていたら不思議なものを見る目で羽毛さんがこちらを見てくる。不思議なのは羽毛さんの存在自体なのだが……。
「まぁいいや、少年。とりあえずここ座ってくれる?」
先ほどまで座っていたブランコに再度座った羽毛さんが、隣のブランコに座るようポンポンとブランコに触りながらようやく目が回復した僕に促してくる。
しばらく躊躇しているとポンポンからベコンボコンと音が変わってきた。繋がっているブランコの鎖もギシギシ悲鳴を上げ始めている。これは逃げられそうにないなぁ。
諦めて羽毛さんの隣のブランコに腰かける。ブランコって久々だけどこんなに小さかったんだね。
「実はね、私って異世界から来たんだ」
「そうかなって思いました」
こんな見た目でバングラデシュ生まれ日本育ち上野在住なんですとか言われたら困ってしまうからね。
「キミ、驚かないんだね」
「羽毛さんの見た目のインパクトが尋常じゃなかったので」
褒められたと思ったのか、羽毛さんが若干照れているのはスルーしよう。
「でね? 三段腹バーコード頭皮の脂ギトギトな私の上司が、とある世界の危険が危ないから私にちょっと行って元凶を小突いてこいって言うわけよ」
さっき言っていたのとは別の悪口が炸裂している。
ここまでこの人に悪く言われる、ちょっと書類コピーしてきてって言うレベルで異世界の救世主みたいなことをやらせようとしてくる無茶ぶり上司がどんな人か気になってきた。
気になりすぎて今夜は眠れそうにない。
「キミは異世界の素養が高いみたいだから、私の代わりに元凶小突いてきてくれない?」
なるほど、羽毛さんの無茶ぶり上司はきっとこの人みたいな人なのだろう。
散々悪く言っていた上司と同じようなことを言う羽毛さんのおかげで上司のイメージが出来たので、今夜はぐっすり眠れそうだ。
「あの、異世界の素養って聞いたことないフレーズなんですが……」
「よかった、代わりが見つかって。これで安心して海外ドラマの続きが観られる。ウォーキングするゾンビって話が長すぎて観るのに時間かかるから困ってたのよねー」
確かに海外ドラマは長いけど面白いからいいじゃないか。ウォーキングするゾンビは僕も観てた。
「じゃあ早速準備しよ~っと」
「待って待って! 行くなんて一言も言ってないですよ!」
「うーん、なにがいるかなぁ」
「ちょっと、人の話を……」
「そのまま手ブラっていうのもあれだし、どれがいいかな~。よし、奮発してこれあげる!」
ドサッと広辞苑くらいの厚みがある本を渡された。
「何これ?」
「これから行ってもらう異世界を紹介したツアー本みたいなやつ。日本人ってこういうのチマチマ読むの好きよね」
日本人への偏見がひどい!
まぁ確かにこの秋オススメ紅葉スポット特集とか書かれた雑誌をつい読みたくはなるが。読んだだけで行った気分になれるのだからプロのライターさんの文章力とカメラマンさんの撮影技術はスゴいものだ。
「いきなりそんなこと言わ……」
れても困ると言い切る前に、いつの間にか僕の背後に出現していた次元の穴みたいな物へ羽毛さんに突き飛ばされた。
「それじゃ、がんばってね~」
「ちょっ、まっ!」
僕はこの日「ちょっと待ってさっき言い忘れたけど僕らすぐそばから見られてた幼女に一人で面白い動きしてて変なの~って笑われてたよ!」と叫ぶ暇すら与えられないまま、異世界へと無理やり送り込まれてしまった。
唯一出来た抵抗は、咄嗟に手を伸ばした時に羽毛さんの羽毛を何枚かむしりとったことくらいだ。
「あっ、もう一つ大きな問題があるの言い忘れちゃった。
まぁいいか、彼からは強い……っていうか重いくらいのラブパワーが付きまとっているのが見えるし」
少しでも面白い、これなら続きを読んでやってもいいかなと思われた方はポチっとポイントをいただけるととんでもないくらい励みになります!




