第1章-14 日本人がいただきますの代わりに忍術を使う日は来るのか
お風呂を出ると、待っていてくれたメイドさんが食事の用意が済んでいると案内してくれた。
どうやら向かう場所は先ほどシャルとエリー達と会った所のようだ。
「あら、似合ってるじゃない」
「……かっこいい」
部屋に入って来た僕を見て、先に席に座っているシャルとエリーが褒めてくれた。
お風呂から出た時、セレスさんが用意してくれていた服に着替えていたのだ。
なんというか、ザ・貴族の坊っちゃんというピシッとした服なので、褒めてくれるのは嬉しいが個人的にはコスプレしている気分になる。
でももし本当に似合ってるなら大人になった時に王子喫茶とか開いてみようかな。
月に一回だけ婚約破棄イベントとかやってみたい。
あっ、せっかく異世界に来たんだから悪役令嬢とか聖女なのに悪女っぽい人とかにも会ってみたいなぁ。
いつか会えるかなぁ……。
「それじゃあ、夕食にしながらさっきの話の続きをしましょうか」
シャルがそう言って手をパンパンと軽く叩くと、数人の使用人と思われる人達が料理を運んで来てテーブルに並べていく。
僕も叩いたほうがいいのかと思ってPAPANPANPANPAPANみたいにリズムに乗った手拍子のメロディを刻んでみた。
こんなんじゃダメだ、もっと魂を振るわせるようなビートを刻まなければ!
次はボイスパーカッションを加えようと唇を振るわせようとしたその時、シャリアさんが座る席を教えてくれた。
「あのシャリアさん……さっきも思ってたんですけど、席を間違ってません?」
「そんなことはございませんよ」
ふふふと笑顔で流されてしまった。
今のふふふは聞きようによってはクフフと聞こえるように笑っているような気がするのは僕だけだろうか。
そんな僕の悩みを余裕で受け流しながら、シャリアさんは案内してくれた席の椅子を引いてここに座るよう目配せしてくる。
案内されたのは社長席、異世界風に言うなら当主席と言えるであろう一番位の高い人が座る場所だった。
そして左右には先ほどと同じくシャルとエリーが座っている。
僕が座ったことを確認した二人はずずずっと椅子を動かして手が届くほどの距離まで近づいて来た。
こんなに近づいて食べるならもっと狭い部屋で食べたほうが楽じゃない?
「どうぞ、たくさん食べていいわよ」
「……召し上がれ〜」
僕達三人の前には豪華な食事が並んでいた。
高級料理店はたまに連れて行ってもらっていたのでなんとなくのマナーは分かるものの、こちらの世界でも同じだろうかとちょっとドキドキする。
ちなみにセレスさんとシャリアさんは側に控えているので、どうやら一緒に食べるとかはしないらしい。貴族社会だとこれが普通なのだろう。
「いただきます」
手を合わせて言うと、何それ? と不思議な表情をされた。
「僕の故郷では命に感謝とか作ってくれた人に感謝していただきますとか、そういう意味がある……らしいんだよ」
どこまで本当なのかはよく知らない。
「へぇ〜そうなのね」
「……私もやる」
シャルとエリーが面白そうにしながら、僕を真似ていただきますをする。
なぜかセレスさんとシャリアさんもしているが、食事をしていない人がするとただ拝んでいるだけの人にしか見えない。
あれ、エリーだけ合わせている手の平が少しずれて手裏剣や忍術を繰り出しそうな角度になっているような?
まぁ可愛いからこれはこれで。
むしろあそこまで堂々とされると僕のほうが間違っているような気がしてきた。
試しに全日本人は忍術を繰り出せそうな手の合わせ方をしてみて欲しい。
もしかしたら数人くらいは本当に忍術が使える人も出てきたりしないかな。
せっかくの異世界だし、僕も後でこっそりやってみよう。
やっぱり忍者や忍術は日本人の憧れだよね~。
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