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第1章-9 にゃあにゃあだった右手

 高貴な方の頭を撫でてしまった以上、もはや裸になって土下座をするしかないと思ったんだけど。

 

 略して土下裸をしようとしたら皆から止められた。


 僕の無礼を許してくれるようだ。優しい人達でよかった。


 今気付いたけど土下裸ってカタカナにすると怪獣っぽくない?


 ドゲラか……弱そう。モグラのロボット怪獣には勝てそうにないくらいかな。


「……ねぇねぇアーサー」


「なんでしょう?」


「……私のことは撫でないの?」


「さすがにエリー様までするのは……ちょっとまずいのではないかと」


「……(しゅん)」


「エリー様も可愛くて良い子ですね! (ナデナデナデナデ)」


 しゅんとしたエリーを見てついまたナデナデしてしまった。


 土下裸は……シャリアさんからNOの視線が来たので止めておこう。


「……撫でるのうまいね」


「そ、そうですか?」


「……うん。シャルもそう思うでしょ?」


「んにゃっ!? そそそそうね、にゃあにゃあな右手だったわ!」


 にゃあにゃあだったのか。


 包丁使う時の猫の手みたいな感じという意味かな。意味はそれでもよくわからないが。


「それで、結局果たし板には何が書かれていたんですか?」


 話がなかなか進まないので聞いてみることにした。


 シャルはにゃあにゃあ言った後どういうわけかお茶を一気飲みしているので、代わりにエリーが教えてくれるようだ。


「……気持ち悪い部分は割愛すると、二人の婚約者に決闘を申し込む。

自称勇者が勝ったら私とシャルを花嫁として迎える。

結婚式は海の見える教会で天気のいい日に行い、ウェディングドレスは三回お色直しをしてハネムーンは夕陽と花畑が綺麗な所に行きたい……って書いてある」


「ずいぶん乙女チックな勇者ですね」


 後半もだいぶ怪しい内容なので気持ち悪い部分がどういったものだったのか気になるところだが、聞かない方がよいのだろう。


「もしかしてお願いっていうのは……」


「……そう、私とシャルの」


「二人の代わりに花嫁になれ……と」


「なんでよ!?」


 お茶を飲んでいたシャルが鋭く突っ込んできた。どうやらシャルはツッコミ属性持ちのようだ。


(アーサー様は可愛らしい顔立ちをされているのでそれはそれで悪くない気が……ふふふふ。

あらいけない、興奮して鼻血が出てしまうところでした)


 シャリアさんから何故か生暖かい視線を感じるのはどういうことだろうか。


 花嫁に見えるよう、軽めにきゃるんと効果音が出そうな可愛いポーズをシャリアさんに向けてやってみると、急に自分の鼻を押さえ始めた。花粉症かな。


 そういえば商店街の花屋さんも花粉症がひどそうだったっけ。挨拶するといつも鼻を押さえてたし、花屋さんなのに花粉症なんて大変だろうなぁ。


「アーサー、あなたに私達の婚約者として自称勇者と決闘してほしいのよ」


「僕が……決闘を?」


 それはいくらなんでも無茶振りというものだよお嬢さん達。


 スーパーのタイムセールの時、おばちゃん達に120連敗で負け越してる僕なのに。


「そうは言っても、僕は見ての通り底辺をモットーに生きる男なので勝つのは無理だと思いますよ」


「底辺と言いながらあれだけの力があるのであれば安心ですね」


 セレスさん!?


「そうですね。あの鮮やかな手並みで底辺なのですから、頼もしい限りです」


 シャリアさんまで!?


「……が・ん・ば」


 エリーの可愛いおねだりきたー。


「あの……皆さん。期待してくれるのは嬉しいですが、いくらなんでも僕には」


「そう……私とエリーがあの自称勇者にあんなことやこんなことをされてもいいってこと……ね(ちらっ)」


「え……それは」


「くっ、私があと20歳若ければお嬢様の婚約者として立候補を……」


「それはない」


「……ですよね」


 なんとなくセレスさんが不憫で仕方がない。


「……くすんくすん(ちらっ)」


「あぁ、お可哀想なお二人。もしもの時は私がこの身を捧げてでもお守りします……(ちらっ)」


 明らかな嘘泣きをしながら、エリーとシャリアさんが女の子座りをして手を取りあい、わざとらしく僕に向かって上目遣いで見つめてくる。僕への効果は抜群だ。


「はぁ……わかりました。でも必ず勝てる保証は……」


「アーサーなら必ず勝てるって言ってくれると思ったわ!」


 保証は出来ないですからねとまでは言わせてもらえなかった。


「私の代わりの婚約者役をよろし……」


「セレス、それはもういいから」


「……ですよね」


 セレスさんも懲りないな……。


「……わーい。アーサーありがとー」


「アーサー様のおかげで私の身も綺麗なままで済みそうです。それと、私の身が綺麗なことをしっかり覚えていてくださいね」


 コメントしにくい……。


 今日初めて出会った僕に頼むくらいだし、決闘まできっと時間ないんだろうなぁ。


 何日あるかわからないが、どうにか決闘までにツアー本から有力な手段がないか調べたいところなんだけど。


「あっ、決闘は一ヶ月後だからがんばってね!」


「けっこう先だった!?」


 モチベーションの維持は無理そうだなと、ぼんやり思った。



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