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第六百三十三話 似た国の末路

「・・今回は待つんやな。」


ゆっくりと歩く中、千夏さんの報告を待っていると純恋が声をかけてくる。


「今までとは状況が違うからな。」


ずっと目の前に敵の大将がいた。それなのに思惑があるのかもしれないと考え、

後手に回っていたのが敗因だった。だが今回は違う。ルルイエがクトゥルフだと思っていたが、

報告を受けている合間に入れてくれた情報では大きな動きはないとの事。

だが、それでもルルイエを破壊したという報告はない。何が起きているのか分からないが、

未だクトゥルフが姿を隠している可能性がある以上、下手に大きな動きを見せれば

奴の策に掛かる可能性が高い。だが、当然リスクもある。敵は一人、数で言えばこちらは優勢。

だからこそ、各個撃破を狙う事は容易に考えられる。


「安心しろ。俺がいる。」


孤立している俺達は各個撃破の格好の的。だが、それは成立していない。

何故なら孤立しているのは奴が恐れる俺。今までの俺ではなく、ハスターが全てを出せる様に

なった俺がいるなら何よりもの脅威。


「むしろ狙われるのは謙太郎さん達だ。この状況なら俺はそうする。」


戦場で最も戦力が薄いのは援護組。他の戦場においては主力級の者達がずらりと顔を

並べているが、ここでは援護しかさせらない。だが、それは層の厚さを物語っている。

例えクトゥルフの強襲を受けたとしても、俺達が駆けつけるだけの時間は稼げる。

力を放つことができない影渡りだが、連携を取りながら使う事で逃げる事は可能だ。

そしてそれは俺達の移動にも同じことが言える。奴は袋の鼠、だがそれは・・・・・

奴が”戦う”と決めた時のみ。


「・・自分で決めたんやろ?あんま勘ぐるのは辞めたって。」


反対側にいる桃子が考え始めた俺の思考の回転を止めるための言葉をくれる。

奴の謀に対して、今俺達が出来ることは少ない。俺が考えている事なんて兼兄や他の人達は

とっくのとうに考えている所か、既に動き出しているだろう。


「・・・・・そうだな。」


嫌でも考えてしまう。大気の王とハスターに呼ばれたが、王の座など俺には向かない。

王とは、どのような状況でも座に座っているもの。どっしりと、時が来る時まで動かず

動揺を見せるなどもってのほか。


(そういえば・・・・・。)


自分とは対照的な姿。王の姿を創造させた人物を思い浮かべるとともに、その人物は

一体どこに行ったのかと気になり始める。王とは、民衆の長。

これも日ノ本特有の考え方かもしれないが、歴史を重ねるごとに、大きな戦を重ねるごとに

日ノ本の中核から足を遠ざけていた皇は、王という姿を徐々に変えていった。

ハスターの事を知りたいと、資料を漁っていた俺がたどり着いたローマ神話。

木星の名の由来である主神ユピテル。太陽系の惑星の英名が他のローマ神話から来ているのだと

知った所で俺の興味は尽きる・・・はずだった。

ローマ神話の中には実際の王であった人物の名が出てくる。初代王であるロムルスと

その弟であるレムス。親に捨てられ、狼に育てられた二人がローマを建国したと神話の中で

語られていたことを知り、日ノ本神話と共通する部分があると興味をそそられた。

日ノ本神話の中でも王に成った人物が出てくる。天照大神の血を引く神武と呼ばれた皇。

彼から数えて百幾何かの血を紡ぎながら、日ノ本と言う国は発展を続けてきた。


「・・・・・・・・・・・・・・。」


だが、ローマという国は他民族の侵攻を受け、その名を都市に残して歴史から身を引いている。

島国である日ノ本は敵国からの侵攻を受けにくく、未だ国として成り立っているが

大きな敗戦を経験している事を考えると、発展した現代では四方を海に囲まれているという

防衛において圧倒的な利点を生かしきれなくなってきている。

そして・・・これは俺の勝手な妄想に過ぎないが、共通のある国と日ノ本が同じ末路を

辿る可能性もあると考えている。

ローマという国は初代ロムルスから王政を敷いていたが、傲慢王と呼ばれたスペルブスを

追放した後、人民が政治を行う共和制を採用し国として存在していたが、領地を広げ過ぎた

代償は大きく、各都市を収める有力者が私利私欲のために動き出し国家として機能しなくなった。そしてその対応として取られたのが元首政。権力のトップを作り上げる事で上下関係を

はっきりさせる名目だが、事実上皇帝が治める国として元の体制に戻ったことになる。

厳密に言えば王政と皇政は異なるが、日ノ本も似たような道を歩んでいる。

一度身を引いた皇だが、荒れた神道省の統治を行うために長としてその座に就いた。

民で収めきれず、神道省とはいえ皇がその座に就いた原因は民の暴走。

忠行など裏で働きかけている化け物もいたが、私利私欲で動いた権力者が多くいたことが

原因であり、経緯は酷似している。それだけならよかったが、酷似したローマの末路を

日ノ本も後を追っている様にしか思えない。暴走した民、忠行の手によって

皇が命を差し出すことになってしまったのだから。

まだ、間に合う。王には王にふさわしい座がある。その椅子に座ってもらうには俺の働きが

絶対不可欠。皇の姿が見えないのは不安だが、その居場所を兼兄や親父が知らない訳がない。

ここで・・・終わらせてたまるか。王座に付ける者はまだ・・・残っているのだから。


「皺、眉間に寄ってますよ。」


突然、軽い衝撃が眉間を突く。そして聞こえてきた楓の声に前を向くと俺の進路を

塞ぐように楓が立っていた。


「さっき言われたばっかりでしょう。考え事は不要です。」


「・・・・・楓。」


クトゥルフの事を考えていた訳じゃないと言い訳してもまた怒られるだけ。


「何ですか?」


「風太さんに連絡取れるか?」


あの人は必ず定兄の近くにいる。そしてそれは親父の傍でもあり、皇の近くでもある。


「難しいでしょうね・・・。あの人、任務中に連絡を取る人じゃありません。」


「・・・・・そうか。」


風太さんらしいと言うか、忍びなら当然だ。楓は俺の近くにいること自体が任務であり、

前の様に八海への帰省が無ければ家族との連絡はほぼ取らない。

そもそも楓は家族との連絡を頻繁に行う方ではなく、それは両親や兄弟が忍びの道を歩んでいる

からであり、取ろうと思っても取れない事が大半。


「ですが、取れる人なら知っています。」


「取れる人・・・?」


「ええ。私からの連絡は返さないでしょうが、とある人からの指示なら必ず返す。

確実に兄と連絡が取れるでしょう。」


皇を戦場に引きずり出す気はない。だが、その居場所を知っておくことで最後の場面に

立ち会うための道を作り上げられるかもしれない。

兼兄の役目なのかもしれないが、王座でなくともあの人が座っていた椅子に座るつもりでいる

俺が最後の花道を作り上げてもいいだろう。


「その人を教えてくれ。」


戦場の中、風太さんと連絡が取れるほどの猛者に声をかけるのは危険かもしれないが、

これは必要な事だと楓に尋ねると、俺に向けられていた視線が俺の奥に向けられる。

援軍が来たのかと振り返ると、立ち止まった千夏さんに寄り添う純恋と桃子の姿がそこには

あった。


「・・・・・・・雫さんか。」


純恋と桃子は大阪からこちらに来た身だ。風太さんに繋がる様な知り合いというよりかは

皇に直接つながれる様な知り合いが多いだろう。だが、その様な知り合いが戦場にいる訳がなく、残されるのは千夏さんのみ。そして、楓が知る千夏さんの知り合い且つ、この戦場に

いるとなると該当するのはたった一人。


「ええ。ですが、その前に大切な事を忘れています。」


寄り添う二人は千夏さんを心配そうに見つめながら、いつでも支えれるように手を

体に添えている。ヘッドセットから音声が流れている様には見えず、どうやら

全ての情報を取り終えたみたいだ。


「かなり刺激的な情報だったみたいです。体験したお二人と仲の良い千夏さんは

感受的になったみたいなので、お二人が支えていたのですよ。」


そのような状況になっているにも関わらず、気が付けなかったのは流石にマズいと

すぐさま千夏さんの元へ駆け寄る。

苦しそうな表情で心配する二人に大丈夫だと声をかける千夏さんの元へたどり着き、

声をかけながら手を握ると、強い視線が帰ってきた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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