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第六百二十九話 それで終わり

神道の道を収めている者として、神の結末について知らなければならない。

授業や資料では語られない闇の部分。


「神が妖怪へと変わる事があることぐらい、お前も知っているだろう。」


こいつはそれを無くすために戦ってきた。神の成れの果てはよく知っているだろう。


「先程も言ったが・・・妖怪は必要とされたい神の成れの果て・・・。

畏怖されてでも、人間を守る・・・・・。」


妖怪の逸話の中には悪逆非道の限りを尽くしたなんてものは僅か。

魔王と呼ばれる様な大物でも、逸話の無い者もいる。その代表格と言えるのが山本五郎座衛門

だろう。妖怪の群れを引き連れてくると脅す逸話もあるが、実際に起こした記録はない。

そのような名のわりに実績がない妖怪達を器として利用したのが兼兄。

正確に言えば・・・・・。


「・・・・・業。」


確か・・・忠行は兼兄の事を貶していた。業が何だとか・・・・・。


「話しが早いな。そうだ、その管理を業が行っていた。その方法について、お前は知っているか?」


妖怪、神の管理を行っていたのが業・・・。業とは、皇直属の部隊。

その仕事について、俺は良くは知らないが今までの行動を見ていると直接的な指令が無ければ

基本的に自由に見えた。


「妖怪も神も同じ。帰る場所は一つ。」


黄泉の国。神産みで加具土命を生んだ伊邪那美は大火傷で命を落とした。

伊邪那美の死を悲しんだ伊邪那岐は黄泉の国へと向かうが、そこには火傷によって

姿が変わった伊邪那美の姿があった。


「黄泉だ。奴らは強制的に神達を黄泉に送っている。まだ人間達に必要とされたい

神々をだ。」


・・現代ではその多くの正体が判明している不可解な現象。だが、当時では理解できない

民衆達は先ほどの忠行の言う通り、名をつけ触れらないように遠ざけていた。

百鬼夜行は神々が起こした事だが、恐らく名をつけられた現象の妖怪と成った神もいたのだろう。


「皇も大それた名をつけた。業とは、日ノ本の業を指している。

自らが生み出した神、それが不要となった際に処理を行う部隊。泥人形ごときが

そのような事を行うこと自体が大罪。そうは思わないか?」


・・・・・なるほど。これは、先祖達の中に忠行側へつく者もいる訳だ。

神道の道を歩む者は必ず神の力を借りる。式神として契約を結んだ時点でそれ相応の絆で

結ばれた時点でその末路を聞けば心が動くのも頷ける。


「・・・・・・・・・・・・・・。」


仕方がない。そう割り切ることも出来る。何故なら本来神は次元の違う世界にいるのだから。

これは日ノ本特有の闇。八百万の世界だからこそ起きる問題。

寿命という概念の無い神だからこそ、居場所を求める。自らの存在意義こそが彼らの寿命であり、もし信仰を受けようとして行った行為が人類に害をなすのであれば・・・

こちら側から寿命を突きつけてやるしか出来ない。


「人類の信仰によって生まれた神は高天原に登れない。であるのなら、彼らの居場所は現世だ。

それを奪うのはあまりに愚行。”責務”を果たさない人類など滅べばいい。」


責務・・・?その言葉に、俺は一つの疑問を抱く。


「・・責務ってのは、他人が果たさなきゃならないものなのか?」


責務、責任。神達の役目とは、一体何なのか。神とは、良くも悪くも人間に影響を与える者達。

強大な力を持ち、人間の営みの一部としてこの国では信仰を受けている。


「・・・・・何?」


「責任ってのは、自然と生まれるものじゃない。誰かが与え、初めて生まれる。

俺の責務はな、これまで紡いで来た先祖達の無念を晴らす事。これは俺が望んで生まれたもんじゃない。」


先程の発言と矛盾しているが、これは事実。俺が望んだ責務じゃない。

むしろここで滅ぶことを望んでいる先祖達も奴の体の中にいる。


「だが・・・俺には放棄する選択もあった。もし、俺が望まなければこの責任は生まれなかった。先祖達・・・いや、ここにいるみんながいたから俺は選択できた。

受け入れることが出来たんだ。」


与えられ、受け入れる。それで初めて責任は生まれる。俺が受け入れずとも立場ある者達が

責務を押し付けてきたかもしれないが・・・・・受け入れなければ責務は生まれなかっただろう。


「俺がやらなければ他の人に迷惑がかかる。迷惑なんて言葉が適切じゃない程の苦行が

その身に襲い掛かるだろうな。そんで、結局は俺は死ぬことになるだろうな。

責任を逃れた責務、自業自得だ。結局は全て繋がっている。誰かに託したとしても、

結局の所自分に帰ってくるんだよ。」


宙ぶらりんになった責務はそのまま浮かんでくれている訳じゃない。必ずどこかに着地する。

そして本来果たすべき者は強い引力を持っており、全てを受け入れる事となる。


「確かに人間のために働いた神様の末路にしては、あまりに悲惨だ。

青さんやイタカ、そして八咫烏様がそのような結末を送るとなれば、俺もどうするか分からない。だがな、この人達は俺の手を借りずに黄泉に国に行ってくれるよ。

自らの足で、迷いなくな。」


「何故・・・そう言い切れる。貴様には情というものがないのか?

人間が求めた神であるはずなのに、未だ力が残されているというのに。

それを・・・求めたはずの人間が裁くのはあまりに酷だろう。」


理論と感情論。始めは感情に重きを置いていたはずなのに、最終的には筋を通している。

それらは水と油。決して混ざあう事が出来ない事は奴も分かっているはず。

見るからに焦っている。これまでの先祖の中に・・・・・同じような事を言った人がいるだろう。


「お前、間違っているよ。人間が何故求めたんだ?何故、神に至るほどの信仰を受けた?」


俺達を泥人形と呼んだ。確かに、忠行はそう言った。だがそれはあくまで海外の神話を

参考にしたまで。神が姿を現すことが無かった海の外と、神と共に歩んだこの日ノ本では

その価値観は間違っている。何故なら、俺達を共に歩んだのだから。


「それはその道具が”必要”だったからだ。何世代も受け継ぐほど、人間には

必要な物だった。だから・・・必要にされなくなったその時、存在意義は・・・・・”無くなる”。」


苦しい。このような事を言うのはあまりに苦しい。ただの無機質な物から神と成った

彼らには感情がある。必要がなくなったことを突きつけられた彼らの感情は分からない。

忠行の言葉通り、必要とされる道を必死に探した事だろう。それに・・・・・絶望した者だっている。


「必要とされ、また人間を必要とした。その関係の一方が絶たれたその時、存在意義が無くなるのは人間も一緒だ。どれだけ情があろうと・・・庇いきれなくなる時が来る。」


捨てる側にも・・・・・それなりの理由がある。何故なら、必要とされたいと言う気持ちには

限りがあるからだ。必要価値が無くなった時点で、その思いは一方的なのだから。


「互いに必要でなければ、関係ってのは続けられないんだよ。悲しい事だってのは分かる。

だが、それは事実であり、道理。お前が言う情は確かに道理を超える。

感情ってのは、道理なんてものを消し飛ばせる唯一の方法だ。だがな、その時点で

独りよがりなんだよ。その上、感情ってのは他人が理解するのは大変な事だ。

例え血を分けた親子でさえもな。」


情は人によって大きさが異なる。必要としなくなればすぐさま捨てる者もいる。

自分で言うのもなんだが、俺は情が深い方だと思う。捨てる決断が早い者の考えは理解できないが、否定自体はしない。


「他の役目を探す選択は否定しない。だが、もうその時点で神様も分かっているはずだろう?

自分は元の神には戻れない。唯一の信者を失ったんだ。他の何者にも変わることが出来ないって。」


理想を求め、決断した選択は自らの否定。そんなことをしても、信者は着くはずがない。

何故なら・・・互いを求めあった事で神に成ったのだから。


「信者の事を思えばそんな選択は出来ないはずだ。姿の変わった姿を見たくはない。

信仰を受けた神としての姿で終える事が、最後に出来る唯一の恩返し。

俺達も同じだ。寿命が尽きるまで、信仰をし続ける。そして子孫達にどれだけ大切な存在かを

伝え続ける。どちらかが破綻したその時、それは終わりを告げるんだよ。」


それで終われなかった神を忠行は助けようとしたが、それはもはや情けなどではない。

神としての自らに溺れた存在。妖怪になってまで神としてのプライドを捨てられなかった者の

末路と考えれば・・・お似合いの姿だ。


「それで終わりなんだ。終わりにしなきゃ・・・ダメなんだよ。」


全ての神がそうなるとは限らない。自ら黄泉の国へと向かう者もいるはず。

それらの管理を業がしているのなら、兼兄達は決して神を貶してなどいない。

これは俺の意見。だが、純恋達は誰一人として口を挟むことはしない。何故なら、答えなどないのだから。どれだけ言い合おうと・・・この場で勝者した者が正しい。

そうやって決着をつけなければならないほどの事。忠行もそれを理解しており、

此方に向かって最後のあがき打ち放ってきた。



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