第六百三十話 紡いでいく
「・・・・・!!!」
語る俺の隙を突いたつもりなのだろう。だが、当然警戒はしている。
解決しようのない問題、どう選択しても必ずどこかが立たない課題への対応には
力勝負以外の方法はない現状は、正直言ってあまりに歯がゆい。
「・・控えていてください。」
それでも、俺は勝たなければならない。奴の千何年に渡る奴の野望より、俺にとっては
仲間達の方が大切なのだから。
「何が終わりだ・・・!!貴様などに・・・!!!」
瞳を閉じていた子孫達が動き出し、最後の攻撃だと総攻撃を仕掛けてくる。
だが・・・大気達が黙っている訳が無く、全てを防ぎにかかる。
「終わりだよ。お前は・・・俺に手によって終わりにする。」
奴は絶望していたのだろう。自らの力が通じないと心底自分に絶望した。
だから・・・自分の術式を使っていない。いや、使ってはいるのだろう。クトゥルフの力に
依存した回復術と、子孫達の力に依存した式神術。依存していた他者の力は俺達の方が上。
そして・・・・・何より俺が全てを上回っている事を証明しなければならない。
いわゆる・・・美味しいどこ取りだ。だからこそ、全てを終わらせる一撃を叩きこむ。
「大気よ・・・・・!!!」
あえて、あえてだ。俺は基礎的な祝詞を使う。俺を王と見定めた大気達には不要な言葉。
俺のために自ら動く兵と成った大気達への指示としての意味を失っているが、
だからこそ、この言葉は別の大きな意味を持つ。
「なっ・・・!?」
声を上げたのは忠行ではなく、純恋達。その理由は簡単。大気達の鬨の声が力強く辺りに
響いているからだ。祝詞は王としての言葉に変わっている。
「・・・・・頼んだぞ。」
明確は指示はいらない。ただ、圧倒してくれ。そんな俺の願いを言葉にすれば、大気達は
さらなる声を上げ、自らを奮い立たせてくれる。
「お前にゃないもんだよ、これは。」
自らに絶望し、他者に頼った者と他者と力を合わせ、その力を取り込んだ者。
その二つの結末が、似るはずもなく大きく別れるに決まっている。
押し込むだけ。もうあと一押しだけで終わるが、それを望んでいない事を大気達は知っている。
群れ、集まり、重ね、形を成す。自分達が出来る最大火力を形にして、俺に見せてくれ。
「・・・・・車掛かりの陣。」
頭の中に浮かんできた・・・いや、大気達が俺に伝えてきた術式の名を口にする。
上杉謙信。謙太郎さんの先祖を遡った時、出てくる戦国時代最強の大名の一人。
そのライバルである武田信玄と幾度戦った戦場である川中島で見せた車掛かりの陣。
戦列を円状に回転させながら突っ込むと呼ばれているが、包囲を試みた相手への対応を
考えた時、兵を無駄に消費させるだけだと現実味の無い説だと言われていた。
だが・・・すさまじい速さを誇る大気達の兵なら別。忠行の体を全て巻き込めるほどの
巨大な竜巻を起こしながら迫っていく。
「ぐっ・・・!!!」
クトゥルフを失った忠行は抵抗すら出来ない。残された子孫達の力を全て封じ込めているからだ。絶望した末に自らの全てを捨てた奴は、さらなる絶望を迎えているのだろう。
頼りにしていたクトゥルフに見捨てられたのだから。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
その姿を見て、俺はどこか自分に重ねてしまう。今の自分じゃない。
あのまま・・・純恋達の引き留めを受けていなかったのなら・・・俺もこうなっていたのかもしれない。俺の場合、ハスターの力だけに依存して自滅していたのだろう。
長きに渡り、日ノ本で生きてきたこいつにも、元は仲間がいたはず。同じ道を志した仲間達が。
もしかすると・・・・・そいつらにも永遠の寿命を与えていたのかもしれない。
山や谷どころじゃない。様々な困難を乗り越えなければここまで生きて来れない。
だが、結局はその手から離れた。手放したのかもしれないし、手から零れ落ちたのかもしれない。
『・・優しいんだな。』
ハスターのつぶやきはごもっとも。命の奪い合いをしている相手を思うのはご法度。
首元に振り下ろす刃に迷いがあれば、すぐさま切り返される。隙を見せるのはそれだけに
危険な行為。だが・・・命の奪い合いだからこそ、見えてしまう。
「・・・・・そうかもな。」
そいつが歩んだ道のり。序盤、中盤、終盤と見せる様々な姿。まじかで見るからこそ、
命を奪いだからこそ全てが見える。術式、型、そして言動。その精度はその術式を
磨いてきた年月を感じさせ、威力と精度がかけ離れていれば才能の深さが見れる。
それに加え、年齢や立ち回りを含めれば・・・大体の事は理解できる。
「安心しろ。ここまで来て手を抜かないよ。」
その上背景も含めれば・・・情に訴えかけてくるほどだ。だが、それでも摘み取らなければならない。全てを終わらせないといけない。大切な仲間達が天秤に乗せられているんだ。
それ以上に重い思いなど、無いのだから。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
奴は既に足掻く姿を見せない。敗北を受け入れている、完全なる敗北を。
実力、仲間。全てが足りなかった所を見せつければ言葉さえ出てこないだろう。
「逃げないと・・・言ったな。」
ここまで終わりだ。ここまでお互い粘ったが、これ以上はない。後は倒れる姿を
しっかりと確認するだけ。そう思っていた所で、忠行の口が開く。
「お前は、どうするんだ。使い物にならなくなった神を、どうする気だ。」
俺の言葉が引っかかっている・・・違うな。これは、俺に期待しているんだ。
俺は忠行を否定した。全てが足りないと、そして逃げないと。
その答えを、奴は求めている。わずかな時間だ。行動で示すことは難しい。
言葉で伝えなければならない。見せなければならないが・・・・・。
「・・分からないな。」
大きな事は言えない。だが、言葉に出した責任から逃げる気は毛頭ない。
「だが探す、探し続ける。それが神道を志した者の責任だ。」
「俺と・・・・・同じ道を歩むのか?」
「違う。お前と同じ道を歩むのは無理だ。俺には・・・歩めない。」
歩めるはずがない。こいつは、こいつなりに必死に足掻いてきた。それをクトゥルフに
利用されたのか、自ら望んだのか。それは正直どちらでもいい。
大切なのはどのような結末を望んでいたか、そして・・・その道を歩み続けることが出来たか。
「お前は踏み外した。全ての責任を皇に押し付けてな。この日ノ本という国での
あの人の存在がどのような意味を持つか、お前は分かっていただろう。」
ここまで皇を殺さなかったのは理解していたからだ。襲っていたのはその不満をぶつけていただけ。神を見殺し同然にしていた皇の考えを改めようと動いたのだろう。
「俺は押しつけない。俺はその・・・”長”に成る者として、逃げることは許されない。」
神道省長官になったその時、俺はその責任を負わなければならない。
その事実を知ってしまえば、業にその全てを追わせる事なんて出来ない。
「全員で挑む。お前が歩んできた千何年でも解決しなかった問題に。そんで・・・
”紡いでいく”。ここから・・・俺の全てを使ってでも、解決に持っていく。」
端から解決できないなんて思ってはいない。だが、目先の事だけ考えてしまえば
永遠に解決しない問題だ。何故なら、これからも神は増え続けていく。
日ノ本という国は・・・ずっとこの課題を背負わなければならない。
「仕組みを作る。一人よがりじゃなく、組織で解決策を模索し続ける。
何世代も、時代に合わせて解決できるような仕組みを模索し続ける。」
一人だから、一人になったからあいつは壊れた。目指した偉業を手放した原因の大半は
そこにあるのだろう。であれば・・・どんな状況でも一人にならない様な仕組みを作ればいい。
業案件を表ざたにしなければならない難題もあるが、それでも隠してはならない。
神と共に歩んで来た国だ。どうあがいてでもくる寿命という生命の終着点が俺達にはあるのに、
神にはそれが無く、そして苦しんでいるのなら・・・俺達が必死に考えなければならない。
「独りよがりなんてさせない。俺は・・・俺達は最後まで、自分の道の上で戦い続ける。」
それを、俺は教わった。純恋やみんなに。
「・・・・・・・・・・・・そうか。」
俺の答えを聞いた忠行はただ一言、呟く。諦めたのか、それとも納得したのか。
俺には分からない。ここまで歩んで来た先祖の気持ちなど・・・全て分かるものか。
抵抗する素振りを見せることなく、奴の体は切り刻まれていく。
全てが終わった訳じゃない。だが、これで・・・・・全ての因果が断ち切られた。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
それでも、身軽になった感覚はない。その原因は分かっている。だが原因に視線が
向けられることは無く、最後に切り刻まれるその時まで釘付けにされていた。
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