第六百二十三話 終わり方
何もできない忠行の元へ迫ったのは楓。その後ろには桃子が付いてきている。
「さあ・・・行きますよ。」
陣形を組む提案を一度払いのけたが、俺を抜かした全員は自らの役目を十分に理解している。
どの距離でも戦える楓の立ち位置はその戦いで変わるが、今回は前線に突っ込んでいく。
始祖の悪魔の力は強大。俺の代わりに先頭をかけるのは十分。そして桃子も蹴ってきた
平将門の力を身に纏いながら控えている。楓が強化されたことで日ノ本でも屈指の前線を張れる
二人だろう。そして・・・それを支える後方の二人もまた強力。
だが、千夏に限って言えば欠けている人がいる。
「・・青さん。」
俺抜きで戦う際の弱点。それは前、中距離の層の薄さ。以前であれば桃子が前に出て
楓が距離を取りつつ立ち回るのが一つの形となっていた。
だが桃子だけでは強大な敵を相手するには手数が足らず、楓が合流すれば空間が開いてしまう。
そもそも俺を含めた陣形なのでどうしても穴を埋める者がおらず、
例え十二天将である式神達であっても不可能。
『なんじゃ。』
「イタカも連れてこちら側へ。」
だが、それは単体での話し。神融和で全員の能力を底上げすれば距離を埋める必要はない。
「騰蛇!!」
「白虎!!!」
前線の二人が神融和を行う。自らの体に別の神の力を有していても拒むことなく、
魂を一つにするのは相当な信頼を築いてきた証。俺が見ていない所で共に特訓等を
重ね、丁寧に積み重ねてきたのだろう。
「何じゃ何じゃ。心配の念一つ入れることなく・・・・・。」
俺の影から出てきた式神達。ぶつくさ文句を垂れる青さんと、何も言わずにじっと
此方を見つめるイタカ。
「心配していました。千夏さんがお待ちですよ?」
心配は言葉だけ。そう簡単にやられる人たちじゃないことぐらいとうに知っている。
「少しぐらい気持ちを込めろ。ったく・・・再度父親に会って、
また一段と横暴な所が引き出されたな。」
「・・分かるんですか?」
「阿保。元主人じゃ。龍彦の力が戦場にあればすぐに気が付く。それに・・・・・
何じゃそれは。あやつらわしらが知らない封印を仕掛けておったのか。」
それも・・・そうか。歴代の賀茂家に仕えてきたこの人が父さんの力を分からないはずがない。
「千夏に付けばいいんじゃな?全く・・・無茶言いおって・・・・・。」
既に前線の二人は忠行に向かって得物を振りかざしている。あの二人なら例え挟撃されたとしても、そう簡単に倒される所か押し返してしまうだろう。
だが、肝心なのはむしろ後衛。空間が開いた事で距離を詰められ得物を振るわれてしまえば
ひとたまりもない。そこで青さんや八咫烏様の力が必要になる訳だが・・・・・。
奴を倒す前に一つ聞いておかねばならない。
「・・青さん。」
「ん?なんじゃ。」
「青さんが支えてきた賀茂家の人達に・・・忠行の言葉を受け入れた人はいたんですか?」
奴の行動を考えた時、賀茂家の血を多く残すはず。自らの命を長引かせる餌としてはもちろん、
自らの血が流れている者達であればそれなりの才能に恵まれる且つ、同じ志を抱く可能性が
あるからだ。
「・・いたぞ。」
背中からの俺の声に振り向くことなく、青さんは答える。
「あやつの真の目的を聞いたのだな。大層な志じゃ。神としての理解もある。
だがな、大層な願いを貫くにはちぐはぐ過ぎた。小さき者達を救うためにこの日ノ本を
変えると言うのは大きな矛盾じゃ。皇を失えば最後、奴らも居場所を失うのだからな。」
皇を失った時、日ノ本の根本にある神道が大きく揺らぐ。その隙を他の神々が狙わない
訳がない。八百万とはこの特殊な環境を指すのではなく、全てに神が宿ると言う教えこそが
八百万などだと理解する。
「丹念に育てた愛弟子を取られわい。まあ・・・それもまた一つの選択、限られた生を
どう全うするかなどわしが決める権利などない。だが・・・・・。」
顔を上げる。見つめるは二人の猛攻を触手で受ける忠行。
「・・それの成れの果てが”あれ”とは、なんとも言えんの。」
大志を抱いた忠行に、魅入られた子孫。その成れの果てがあのような醜い化け物では
あんまりだと言わんばかり。恐らく、忠行にその身を捧げた者は両手で足りない程
いたのだろう。優しい青さんの事だ。かなり入れ込んでいたに違いない。
「・・・・・全てを終わらせる事こそ、彼らにとっての何よりの手向けです。」
魂だけ縛られた彼らはとうに生を終えている。いわば忠行に付いた地縛霊。
同じ大志を抱いた彼らに忠行の敗北を見せる事で、全てを諦めてもらう。
「・・・・・そう思うのなら、そうしろ。」
ただ一言、俺の思う様にすればいいとだけ呟き、千夏さんの元へ向かっていく。
あの人があんな風に呟く際、別の感情を心の奥底にしまいこんだ時だ。
俺へ不満はあるだろうが、それ以上に忠行の体に縛られた彼らへの気持ちが大きいのだろう。
納得などあり得ない。だが、この世を離れる時は少しでも希望を抱いて欲しいのかもしれない。
「・・付き合う必要はないぞ。」
俺だって、出来る事ならと青さんの背中を見つめている後ろから声が聞こえてくる。
「師を裏切ってまで進んだ道の果てがアレなのは自分の責任だ。
青が思うならまだしも、お前が勝手に背負う必要はない。」
声の主はイタカ。ごもっとも、真っ当な意見だが・・・あの肉の塊は俺の中に流れる血を
繋げてきた人達であり、青さんの弟子であるのなら兄弟子に当たる人達だ。
「背負うなんてことはしない。イタカの言う通り、俺にとってしてみれば只の敵だ。」
何せ父さんの母さんの顔さえも覚えていなかったほどだ。それより前に生きている人達なんて
俺からすれば面識ない他人と同じ。
「・・だけどさ。」
「なんだ。」
「巨大ではあるけど、あの体の中にあの厚い家系図に乗っている魂が全て込められているんだろ?変な倒し方をすれば、あれ全てが俺の枕元に立つかもしれないのは流石に怖い。」
恨みを買うなんてのは当たり前。あちら側も俺の恨みを存分に買っている。
だからと言って、無下に扱うのは俺の性に合わない。葬るのなら出来るだけ後悔の無い様に
葬るのが一番だと思っている。悪人でも、善人でも同じだ。そうすれば・・・死後は
恨まれることは無い。綱秀の様に金縛りにあい、枕元でささやかれるなんてごめんだ。
とはいえ、俺に出来ることは少ない。千夏さん達に願い出る事も出来るが、
彼らの全てをこちらが汲んで立ち回るのはあまりに過酷。
「・・・・・好きにしろ。」
言葉でも、頭の中でも言い訳の建前をしている事を察したイタカは諦めたようにそっぽを向く。
出来る事なら・・・俺なりの答えを見せてやりたい。必要とされなくなった神々が
再び人間に求められるような環境を作るのは、現代ではほぼ不可能。
それでも・・・・・何かしら、方法があるはず。
「・・千夏や。」
青さんが千夏さんの元へ到着し、声をかけている姿が見える。後ろには玉藻と八咫烏様の
神融和を行う純恋の姿が見え、迎撃態勢を着々を整えている。
「よく、ご無事で。」
「やはり龍穂の奴とは違うな。心からの心配、感謝するぞ。」
呼ばれた理由を分かっているなと言う風に、青さんは千夏さんに向けて拳を伸ばすと
千夏さんも受け入れ量の拳が触れた瞬間、二人の体が光を放ち、気が付けば一つとなっていた。
青さんも、八咫烏様も俺の式神なのに・・・手慣れたものだ。
「桃子さん!!」
こうなれば配下達の必要もないと、大気達を純恋達への支援に徐々に向かわせていく。
「分かってるで!!!」
奮闘する前線の二人に影響が無い様に、徐々に数を減らしていく。
彼女達ならやれる。ならば・・・俺は終わり方について集中させてもらう事にしよう。
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