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第六百二十四話 忠行の過去

「お前達は日ノ本の神話しか知らん。だから教えてやる。海の外の神話には人間は

神が作り出した泥人形と呼ぶものもあることを。」


奴は自らの目的を深くまで語りながら、子孫の力を残されている体に浮かび上がらせる。


「お前達は知らん。神がどのような扱いを受けてきたか。役目を終えたなんて言う言葉は

あまりに横暴だと思わないか?」


忠行の言葉の最たる例を挙げるとするなら、付喪神だろう。

代々大切にされてきた道具などが神と成る。だが、時代が進むにつれ海外から新たな

技術を取り入れてきた日ノ本には文字通り役目を終えた道具がいくつもあった。

海外であれば道具の神として奉られている神の数は多くはない。技術の発展により

道具が役目を終えたとしても、新たな物が生まれれば神としての役目は継続されるが、

その一つ一つに宿る付喪神は役目を完全に終えてしまう。


「その結果が・・・百鬼夜行だ。役目を終えた神々が姿を変え、妖怪として群れを成し夜を歩く。

だがな、それもまた人が付けた名だ。元来の意味は違う。」


百鬼夜行・・・。妖怪達が闊歩した夜に人は恐れ、闇夜を歩くことは禁忌とされていた。


「・・視界の悪い夜は襲われやすい。」


「そうだ。だからこそ、闇夜に出歩いた。神はそう簡単には姿を見せる事は無い。

神は強さによって現世に留まる時間が限られるからだ。強い神が現世に長く留まれる訳ではなく、その力が強ければ強いほど現世への影響も強い。その強さに比例して力の消費が激しく、

現世に立つのもそれ相応に消費する。信仰を失った神々だが、妖怪としての姿を受け入れても

現世に留まる決断を下した。その理由はただ一つ。”必要とされたかったのだ。」


・・何とも悲しい話しだろう。過去の栄光に縋ったと言うにはあまりにむなしい結末だ。


「だから・・・役目を探した。」


「日ノ本という特異な環境では、神とは人間の傍にある。人間が必要とされた神々は

彼らの悩みはよく知っていた。だが、信仰を失った彼らには大きな動きは出来ない。

夜に闊歩する愚かな人間や恨みを持つ妖怪達の対峙などもってのほか。

ならば夜に出歩かせないようにすればいい。灯りを灯し、大きな足音を立て街を闊歩する。

そうすれば被害にあう事は無い。被害が減ったことで再び信仰を得ることができる。

見向きされなくなった人間達も再び必要とするだろうと・・・思っていた。」


分かりやすい恐怖の対象である百鬼夜行。様々な逸話の中に出てくるが、その被害を

謳った物は数少ない。その多くはそれを見た高僧などが退治する様な物がほとんど。

中には被害が出ている資料もあるが、今の話し気を聞くに毛色が違う。


「だが、現実は甘くはない。人間は恐怖した。百鬼夜行を理解しようともせず、ただ拒絶した。

必要とされたいという一心で闇夜から守っていた神々を拒絶した。

その後は悲惨だ。それでもと闇夜から人間を守り続けていた神々達を利用しようする者達が

現れた。人間達に恨みを持つ妖怪達、そして・・・賊達だ。」


近年京都で起きた百鬼夜行。当時の高官が招いた酒吞童子が起こした大事件。

どうしてもそのイメージが強かった。何故なら百鬼夜行の主役は鬼達であり、彼らが起こした

事件は古くから存在する。だが、彼らが本当に鬼であったのかは怪しく、

力の強い賊達を恐れた市民がその恐ろしさから鬼と呼ぶようになったとも言われている。


「何やら面白いことをしている者たちがいる。それを利用すれば一稼ぎや積年の恨みを

晴らすことができるかもしれないと神達を利用した。

実害が出たのだ。その事実はどのような影響を及ぼすかぐらいお前でも分かるだろう。」


触らぬ神に祟り無し。得体のしれない恐怖だからこそ、拒絶だけで済んでいた。

だが、その恐怖が害をなすと分かれば拒絶ではなく、排除という選択に切り替わる。


「晴明まではいかんが、陰陽師の中でも指折りの実力だった。

陰陽を広げたという功績もあり、百鬼夜行の鎮静の話しが回ってきた。」


「・・それで、どうしたんだ?」


「どうもこうもない。沈静するしかなかった。民の願いに当時の官僚も同調し、

退治しなければ自らの立場も危ぶまれる。だが、そのような背景を見て見ぬふり出来るほど、

私利私欲に溺れる悪人にはなれなかった。」


俺達からすれば極悪人。歴史を振り返っても類を見ないほどの男。

だが・・・やはり、この男にもそれなりの理由がある。取ってつけたにしてはあまりに

虚しく、そして闇深い歴史の裏側としてあまりに現実味のある話しは、俺の心を惹きつける。


「だが、一つ彼らに要求をした。いつになるかは分からないが、彼らの願いを果たす。

使うだけ使い、用済みになれば捨てられる様な事を無くすと。

神に成ったのであれば、神として相応の最期を迎えられるような世界を作り上げると。」


「それで、お前はこうして俺達の前に立っているんだな。」


「そうだ。これはわしの使命。賀茂忠行として、必ず果たさなければならない宿命だ。」


だとしても・・・それは間違っている。こいつの行い、宿命を貶すつもりは一切ない。

それだけを見れば、むしろなんとも誇り高い使命なのだと感服するだろう。

神々に尽くした男。日ノ本の歴史に名を刻まれるほどの英雄だ。


「・・なのに何故、神だけの世界を作り上げようとしているのですか?」


横でじっと話しを聞いていた千夏さんが口を開く。千夏さんが尋ねなければ俺が同様の

問いを返していただろう。こいつの問題は二つ。一つは結論がズレている事。

そしてもう一つは・・・過程にある。


「現代においての付喪神を見てそう判断したのなら分かります。ですがあなたが救おうとした

神は人間を求めていた。それは彼らが神としての生を受けたのは、人々の信仰を受けたからに

他なりません。」


俺達が使う生徒手帳。以前起きた暴動への対策として、付喪神を組み込んだ防犯システムは

神という存在を侮辱していると言われても仕方がない。人間の上位存在である神への扱いとして

あまりに横暴と言われてもおかしくはないが、人間に求められるという視点で見れば

道理であると言えるのかもしれない。

だが、それはあくまで現代の話し。平安時代に生まれた付喪神は純粋な信仰を受けていたはず。

それを証拠に彼らはもう一度必要とされたいと願った。千夏さんの言う通り、

筋が通っていない。


「彼らが望む人間からの思い、すなわち信仰が無くなるではありませんか。

そんな事、彼らが望むわけが・・・・・。」


「無いだろうな。そんなことをわしが分からんとでも思っているのか?」


ずいぶんと思い切りのいい開き直りをしたものだ。だが、真っ当な指摘への苛立ちは

隠しきれておらず、子孫達の口が開き術式を唱え始める。


「人間とは愚かな生き物だ。わしがいくら彼らの無念を説いても、耳を貸す事もしない。

神は我らを生み出したというのに、その感謝を忘れる所か捨ててしまえばいいと言い切る者まで

出てくる始末。そうなれば選ばなければならない。神か、人間か。」


全ての人間が神を必要としているのかと尋ねられれば、俺は首を横に振らざるおえない。

神と人間の世界が別れたその時から、人間は人間の力でで生き延びてきた。

もちろん神の手助けがあったことを含めても強くそう思える。


「俺は神を選んだ。ただそれだけの事。」


そも、神の事まで考えられる人間など一握り。何故なら、生きるだけで精一杯の人間が

この日ノ本には多くいる。生活に不必要な神を思える人間が一体どれほどいるのか。

俺にも分からない。


「・・だからと言って、俺達を巻き込む必要は無かっただろ。」


そして俺もまたその一人。先祖達を殺しつくし、そして自らを殺そうとする人間を前にすれば

俺にもそんな余裕はない。


「お前は間違っているよ。根本を解決しなきゃ、何も始まらない。」


こいつは馬鹿だ。楽な道に逃れた。役目を終えた神を思えるほどの余裕を人間が持てれば

何もかも解決出来た。


「・・・・・なんだと?」


「逃げたお前にお似合いの最期を迎えさせてやるよ。ホラ、早くかかってこい。」


分かりやすい挑発を受けた忠行は子孫達の術式を一斉に放つ。

こいつにはそれだけしか残されていない。全てを・・・クトゥルフのために使ってしまった

のだろう。

千夏さん達に巻き付けていた触手を解き、向かってきた術式達を乱暴に払いのける。

大気で勝負を決めるなどしない。俺自身の力、”賀茂龍穂”としての力でねじ伏せなければ

ならない。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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