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第六百十八話 心に突き立てる者達

「・・・・・・!!!」


俺の槍が脳天を貫くと、嬉々として向かって行った兵達も遅れはならないと得物を振るう。

触手だけでは済まない。醜い皮膚がことごとく切り刻まれていく。

反応が遅れたクトゥルフも応戦しようと海を動かそうとするが、それは叶わない。

飛び込んで来た海は風によって海面へと押し込められる。


「今まで通りになんて行くと思うなよ。」


それだけのことしてしまったのだと、思い知らさなければならない。

中にいる忠行共々、あの世にいても思い出させるくらいに圧倒しなければならない。

脳天を貫いたグングニルが手に元に帰ってくる。投げ槍と主に使用され、相手を貫いた後に

手に元に帰ってくると伝承がある伝説の槍。なるほど、なんとも使い勝手がいい。


「貴様・・・・・!!!」


グングニルは奴の脳天を貫いたはずだが、クトゥルフは体から体液を流すだけで

息絶える様子はない。


『我らの体の構造は異なる。この戦いのために準備を整えてきた奴は体にも細工を

している事だろう。お前なら分かるだろう?』


九つの脳。そして三つの心臓。その内、複数の脳の破壊は確認している。

ここからそれを全て削り切るのはどうしても時間がかかってしまう。

奴の狙いについて千夏さんから報告を受けており、惑星の支配が完了してしまう。


「・・それがどうした。」


関係ない。もし、俺の仮説が外れて本当に惑星が支配されたとして、俺は負けない。

その時点で奴は俺の領地を汚している。そんな野郎に俺は負けるわけにはいかない。


『そうだ。王とは全てを受け入れ尚、勝利を義務付けられる。』


奴の反応からして、どうやら脳を破壊した訳じゃない。家系図に刻まれた契約を

見る事が出来れば完全な判別が出来るかもしれないが・・・別に関係ない。

グングニルは俺の想像なのかで作られた槍。当然、必中必殺も俺の経験に沿った

効果しか生まれない。だからこそ、脳天を貫いた。


「違うなら・・・!!」


もう一度突き刺してやればいい。海が使えないのであれば、頼りになるのは触手だが

兵達に刻まれ続ければ再生は追いつかない。ここからなら突き刺し放題、

手の内に戻った槍を再び投げつけると、今度は心の臓と思われる部分に突き刺さる。


「グッ・・・!!!」


手に足も出ないとはこのこと。何故なら、手も足も再生する前に刻まれるのだから。

槍を投げながら迫る俺は奴にとって死そのもの、たどり着く頃にはその体は

ハチの巣以上に穴が開いている。そうなれば急所の一つや二つ、十や二十あったとしても

全て貫いているだろう。

さも簡単に勝負がついたように見えるが、ここから油断をせずとも奴は戦況をひっくり返してくる。残された脳で計算し、三つある心臓から来るタフネスで策を成功へと導く。


『そう悩むな。命を削る前提で奴は策を進めている。その状況で取るべきではない選択を

お前なら理解しているはずだ。』


躊躇してはならない。決して手心ではなく、奴が企む策を恐れてはならない。

道理に外れる行動や敵が不自然な余裕を目の前にした時、俺は足踏みしてしまう。

その理由は仲間達を守りたいがための防衛反応。だが、護る仲間は近くにいる。


「対応していては後手だな。」


決して恐れているわけではなく、単に後手に回りたくないだけ。

対応できるだけの兵力を持っているが、奴が仕掛けてくるのはそれを上回る一手。

対応するのではなく、削り取る。それが出来れば勝機は俺の元へやってくる。


「さあ・・・まだまだだ!!!」


戻ってきたグングニルをもう一度投げながら、一歩ずつ近づいていく。

今度は胴と思われる部分の中央からわずかに左を貫く。果たしてそこに心臓があるのかどうかは

分からないが、もし違ったとしてもそれでいい。めぼしい場所を全て潰していけばいい。


「・・龍穂君。」


俺の歩みが邪魔になるほど身を寄せた千夏さんは小さく俺の名を呟く。


「分かっていますよ。」


何もしない奴に恐怖を抱いている。やはり、まだ信頼は薄い。

千夏さんは策を立てる、いわば俺達にとっての軍師。態度だけや結果ではなく、

言葉で安心させた方が心に届くだろう。


「何もしない事について・・・でしょう?」


「・・ええ。」


「それは俺も気になっています。何かしら企んでいるのかもしれません。ですが・・・

全てなぎ倒すつもりです。」


「・・・・・・・・・・。」


心配そうに見つめる視線。当然、これで終えるつもりはない。


「・・奴は一人です。」


「一人・・・?」


「俺達の様に陽動が仕掛けられないんですよ。どれだけ図ろうとしても、その身で行わなければ

ならない。」


「それは・・・・・。」


「確かにまだ手駒を隠している可能性もある。ですが、あのタイミングであの落とし児を

呼び出したのですから、あれ以上の手駒であってもまだ到着に時間がかかる。

要は時間稼ぎをしなければならないですが・・・奴はあのように耐える事しか出来ない。

必死に耐え、俺達を動かそうとする。」


これまで、それ一辺倒。だからこそ、今もまた奴は耐えている。

同じことを続け俺達に足止めを誘い、策を講じている様に見せるから千夏さんが深く考える。


「・・何もないかもしれないですし、何かあるかもしれない。ですがああやってただ一人

耐え忍ぶ姿は滑稽どころか・・・むしろ可愛らしく見えませんか?」


悟らせるのはやめだ。何を言っても、千夏さんは深く考える。

俺が語れるのは可能性ばかり、確証など一切ない。ならいっそのこと、馬鹿馬鹿しい言葉で

頭の中を全て吹き飛ばした方がよっぽどいい。


「・・・・・・・・ふっ。」


俺の言葉に耳を傾けていた千夏さんだが、予想外の言葉に一瞬固まった後、

小さく笑みを浮かべる。


「緊張をほぐそうとしているのは分かりました。ですが、もう少し考えてから

話して欲しいですね。」


安直すぎるとというまさかの評価をもらい、豆鉄砲を喰らってしまう。


「まあ・・・ここまで来て、考えすぎだと言うのは分かりました。

それでは龍穂君が心配する・・・でしょう?」


・・今の一言でそこまで読まれたか。それもまた、千夏さんらしい。

この人を言葉で動かそうとしたことが間違いだったみたいだ。

俺の方へさらに身を寄せ、今度こそしっかりと邪魔に入る。じゃれている暇はないが・・・

これくらいしなければ俺が安堵しないと分かっているのかもしれない。


「・・・・・正解です。」


皆が頼ってくれることこそ、俺の安堵に繋がる事を千夏さんは理解している。

だが、それでは千夏さん達の不安がぬぐえない。形だけではなく、心の底からの

安堵を与えなければならない。

それには目に見えた戦果が必要だが・・・奴は触手をすぐさま再生させながら未だ残っている

子孫達の術式を使い、何とか応戦しようと試みている。

攻めてはいるが、これではまたじり貧になる。

だが、踏み込もうとすれば風の速度になってしまう。俺は大丈夫だが・・・。


「・・踏み込むのはどうや?」


皆がそれに対応できるだろうかと悩みかけたその時。声を上げたのは桃子。

純恋を守る立場にある桃子がまさかそんな大胆発言が出るとは思わなかった。


「大丈夫なんやろ?じゃあ、やるべきや。」


風の速度は常人なら目を回すどころか、下手をすれば意識を失ってしまう。体験したことが無い速度で視界が霞み、限界を迎えた脳が機能を停止する。現在は慣れた楓だが、白虎と共に黒い風の力を使う時にはよく意識を失っていた。前線で戦う楓がそうなのだから、

純恋達なんてその比じゃない。それでも・・・俺がそう選択したのなら、純恋達は

維持でもついてくると言うのだろう。


「・・分かった。」


良いのかと聞くほど、俺は野暮じゃない。真正面からゆっくりと突き進むのはやめだ。

皆、俺に期待している。挽回して欲しいんだ。俺への信頼を。

再びみんなの腰に触手を巻き付け、先ほどより近くに寄せる。

所々弱気になる癖は抜けきれない。ハスターも指摘すればいいのに、純恋達の言葉こそが

俺の心に突き刺さると知っている。

得物を握り、そして再びグングニルを投げつけ割いた風に乗り近づく。

兵達への対処で反応が遅れたクトゥルフの視界の隅に、先ほどまでいた二人が姿を消していた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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