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第六百一話 王座を手放した意味

「くっ・・・・・!!」


一度動きを止めたと思い、謙太郎達に止めを刺そうと行動したクトゥルフに

予想外の強襲が襲う。


「っ・・・・!!!」


仲間達を心配し、足を止めたと思った龍穂が突然攻撃の手を強め、なんと得物を持って

迫ってきた。先ほどの牽制だけでも何かしら反応を見せるだろうと踏んでいたクトゥルフは

まさかさらに迫ってくるとは思ってもおらず、不意を打たれた形になったが

龍穂が持つ得物の切れ味を何度もその身で味わっており、近づけるだけなら何とでもなるが

対応が遅れ暴れられれば厄介になると子孫達の術式の束で距離を取ろうと試みる。


「・・今だ。」


その光景を見た兼定は白達に指示を出し、再び銃火器での援護射撃を浴びせる。

クトゥルフの意識を龍穂と白に集める事で危機に陥っている謙太郎や他の業達、ゆっくりと

移動を進める千夏達やルルイエの破壊を試みている古き英雄達を動きやすくするため。


「アル!!行けるか!?」


ここまで大きな動きを見せていた部隊とは別働隊で動いていた竜次達が上げた成果は少ない。

何故ならルルイエの破壊をクトゥルフが見逃すわけがなく、龍穂への攻勢と共に

英雄達の動きをなるべく阻害するために動いていた。

だが、たったそれだけでは竜次達は止まらない。では何故そこまで苦戦を強いられていたのか。


「行きたいけど・・・本当に厄介ね!!!」


それはクトゥルフの力によって姿を変えたルルイエが竜次達を迎え撃っていたからであり、

長きに渡りため込んでいた力を打ち放つルルイエに手を焼いていたからだ。

謙太郎達に牽制として送り出した魚達。海流を動かし集められた弱き者達であったが、

海の水が届かない位置に飛び込める魚など広く、そして深い海を探しても片手で収まる所か

見つからない程に異常な存在だった。

突然の出来事に謙太郎達は気付けなかったが、その魚達はクトゥルフの力によって変異を

起こした以上個体たちであり、それこそがクトゥルフが司る厄介極まりない技術の一つ。


「気を付けて!!また反撃がやってきます!!!」


ノエルが声を上げると、ボロボロなはずのルルイエがなんと独りでに動き出し、

人型に形を変え竜次達に拳を打ち放つ。母なる海。生命の祖が生まれた場所である海を支配する者は無機質な物体に生命を与えた。

地球に存在する生命の母、そして父。視界にとらえるのが難しいほどの小さな生命を生み出し、

そして育てた功績は地球の歴史でも最上の瞬間。その力を手に入れたクトゥルフは

文字通りこの海の支配者であり、敵対する者は母なる惑星が歩んで来た道全てと戦う事を

余儀なくされる。


「ここに来て・・・面倒だな・・・・・!!」


岩の巨人と化したルルイエの拳を避けた竜次だが、決して油断は許されない。

何故なら打ち放った拳から出た島を構成する岩石が自分の意志でその身に飛び込んでくるのだから。

ここまでその力を使ってこなかったのには理由がある。地球の力を手にしたクトゥルフだが、

新たな生命を生み出すのはあまりに消費が激しく、封印されていた期間であっても

限られた回数しか使えなかった。その僅かな好機で作り上げられたのがダゴンとハイドラであるが、優秀な手駒は龍穂に奪われている。

本来であれば勝利を収めた後の王座としてルルイエは残しておく予定であったが、

気が付けばその余裕は無くなり、王座を泣く泣く配下として迎える事となった。


「王座に命を与えるなんてね。ギリメカラにでもするのかしら?」


神話の中には主の乗獣として書かれている者もいる。自らが王として君臨する際、

日ノ本の民にその姿を見せるための乗り物として扱う気なのかとアルは呟くが、

クトゥルフにその余裕は一切ない。ただそこにあるのは古き英雄達を抑え込むための

苦し紛れの秘策。だが、クトゥルフの力を多く含んだ巨人の力は強大であり、

辺りの海を従えるその姿は主を思わせる光景を英雄達に映し出させていた。


「主の真似事で俺達を倒せるとでも思っているのかよ!!!!」


飛び込む巨岩。向かってくるもう一方の拳と海。それを見ても竜次は一切動揺することなく

得物を振るい全て断ち切っていく。クトゥルフに命を与えられ、その力までも得てていると

言ってもそれは模造品でしかなく、クトゥルフとの戦いを想定し鍛え上げてきた古き英雄達に

とってしてみれば仮想クトゥルフとしてやりやすい相手でしかなかった。


「まるでクトゥルフ・・・と言いたい所ですが、やはり格は下がる。

ですが、だからこそ気になりますね。」


暴れる竜次とアルの妖精達の支援。その二つがあれば止めはさせないがまず負けることは

ないだろうとノエルは悠長に語り出す。


「そうね。何故この力を始めから使わなかったのかしら。一度負けた身ではあるけれど、

もっと優位に事を進められたはずよ。」


「忠行の目的を果たすためもあるでしょう。ですが、それだけでは片付けられない。」


ここまでずっと何かを隠してきている。忠行も、そしてクトゥルフも。

幾度となく、正念場を迎えている。このままでは隠し続けてきた何かを出せずに終わってしまう

だろう。そう考えさせる事こそが奴の狙いだとするなら、あまりに手札が無く

そして小物過ぎる。能ある鷹は爪を隠すと言うが、その爪を見せずに終わる者が

果たして鷹と言えるのかと問われれば、首を横に振り雀だろうと誰もが答えるだろう。

千何年と、数えきれないほどの年月を生きてきた者がそれを知らない訳がない。

これまで生き長らえてきた中で雀として生を終えた者を幾度と見てきたはず。

だからこそ、戦う誰もがその真意を気になっている。


「・・これは、仮説です。」


戦場の轟音が響く中。ノエルは呟く。可能性、それは決して希望的観測ではない事を

その小さな体の先、表情が占めている。


「仮説?」


「龍穂君を見て、少し思っていたのです。彼についているハスター。大気の神は

どうやら侵略を試みた惑星に相当な思い入れがある。」


「確かに、龍穂が使う黒い風の術式の中には木星に関するものがいくつもあるわね。」


「そう。むしろ木星そのものを打ち放つ様な場面もありました。それは何故か。

それこそが・・・奴の隠している何かをなのかもしれません。」


術式とは、呪いとは一体何なのか。その根底あるのは一体何か。


「・・もったいぶらないで頂戴。」


「龍穂君が打ち放った術式は”願い”。こうあるべき、こうなって欲しい。

ハスターが望んだ願いだったのではないでしょうか?」


神術、魔術と呼ばれる前。呪いと呼ばれた力の根源は人の願い。

望む未来や恨み言。決して叶わない理想を思う強い願いが形となった。

古来の術式が現代まで継承されていない理由の一つに願いを叶える呪いとしてだけ

認識されており、それが術式によって構成されていると知られるのはかなり先の事になる。


「願いね・・・。龍穂があれだけの神術を使ったのにも納得がいくわ。」


「一つ謎が解けたと言いたいのでしょうが、そうではありません。

では何故、それをクトゥルフがしないのか。あれも地球を支配しようと試みた大神ですから

少しぐらい地球の力を模した術式を打ち放ってきてもおかしくはない。」


「それは確かにだと思うけど・・・・。」


「龍穂君と同じ、海水を使い地球を模した一撃を放つぐらいしてきてもいいはず。

それが出来ない理由は・・・恐らく忠行に才能がなく、龍穂君の才能があまり高いからこそ

あのような術式を打ち放つことが出来た。ハスター本来の姿ではなく、

未だ黄衣の王と呼ばれる眷属の姿しか見せていないのが良い証拠です。

もしかすると、龍穂君が使う術式をハスターが使えないのかもしれませんね。」


異なる神であっても、血が繋がっているのなら同じような事が出来てもおかしくはない。

なのに出来ない理由は使役者にあるとノエルは予想する。


「・・今の話しはクトゥルフの弱点についてね?肝心の詰めの部分について

聞かせて頂戴。」


「申し訳ありません。少し話が逸れました。では何故、才能の無い忠行にクトゥルフは

使役され続けているのか。それが爪だと、私は思います。」


忠行に何かがある。かの大神が求める力を忠行は持っている。

忠行の能力に関してノエル達は情報をあまり持っておらず、当然あるはノエルの

言葉の意味の全てを察する事は出来ない。


「彼らも持っているのでしょう。星に関する術式を。ですがその術式を使うには

あまりに力の消費が激しい。だからこそ、力をため込み使用する事を避けている。

今のような非常事態であってもその術式を使うための力は絶対に手放さない。だからこそ

不意打ちなどを使うのです。」


正々堂々、真正面から敵を屠るのはその周りにいる者達へも影響を与える。

自らより強者が簡単にやられた。その光景は恐怖を煽り足をすくませる。


「王座を手放したも・・・納得がいく。そうです、きっとそうに違いない・・・。」


語り出したノエルが一人で納得する姿にアルは危機感を覚える。

冷静で憶測を嫌うノエルが確信に迫り切れないのは憶測が現実になった際の危険性が

あまりに高く、まだ起きていないのにも関わらずに対応しなければならないと言う

危機感と現実のはざまに揺れている証拠だ。


「・・”星を動かすつもり”です。」


「・・・・・星?」


ノエルの答えを待っていたアルは、あまりに予想外の返答に思わず聞き返してしまう。


「星を模した何かを作るのではなく、地球そのものを動かす算段を付けているのかもしれません。」


待ちに待った答え。それは最悪のシナリオの一つ。惑星の操作をクトゥルフが狙っているのだと

言い切って見せた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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