↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
594/639

第五百九十四話 仕組まれた狂気

這い寄る混沌が生み出したのは混沌ではなく、むしろ明瞭で純粋な戦い。

全てを背負い、全てを捨てた戦いを生み出した。


「面白いですねぇ・・・。そうではなくてはならない。」


闇夜を月あかりが照らす。強い光が海面を照らすが反射が少なく、肉眼で先を

見るのはあまりに難しい。


「さて・・・勝ち同然の状況から煽りに煽り、むしろ奮起させてしまった罰です。

ほんの少しだけ手を貸しましょう。」


影・・・いや、太陽の無い地球本来の姿の闇の中。ニャルラトホテプは海面に敷かれた闇を

動かす。先程とは段違いの大きさ。そして数の闇の刃を生み出し、クトゥルフへと一斉に向ける。


「私はただ、狂気を望みます。建前を孕んだ戦闘など虫唾が走る。

生命だけを賭けた戦い。それこそ、最も狂気が前面に出やすい最高の環境ですから。」


再びクトゥルフの体に付き刺さる影の刃。だが、奴は明らかに動き気配を見せず

その刃を受け入れる様な見えた。


「ほら。クトゥルフも腹を括りました。いくらその身に刃を受け入れようとあなた方に

勝てればそれでいい。命を奪えさえ出来ればそれでいいと。」


兼兄の体から影が抜け、元の足元へ戻っていく。


「・・やるだけやって帰るのか?」


「私を引き出したいのなら、あなたがたも狂気を見せればいい。ですが・・・

今のあなたにはそれは難しいのかもしれませんがね。」


ただ俺達に勝てばいい。それがクトゥルフの意志。確かにあのような無数の刃を

体に受け入れてなお、俺達への殺意を向け続けているのは狂気以外なにものでもない。

だが、それは忠行の意志ではないだろう。人間性を失えば残されるのは生命の本能。

野生だけを残した戦場はまさしく狂気。ニャルラトホテプはこれを引き出した語ったのだろうが、俺達にとってしてみればいい迷惑でしかない。


「お前・・・・・!!」


ふざけるなよと言いかけた所で、影の力は抜けて兼兄の意識が戻ってくる。

やりたい事だけやって逃げる姿は俺達の感情を逆なでるが、もうそんなことを言っている

余裕はない。


「・・すまんな。」


「・・・・・・・・・・・・・。」


・・考え方を変える必要がある。人間性を失った狂気を孕んだクトゥルフと対峙する事だから

こその好機。


「・・・・・そうか。」


人間だからこそ、理性があるからこそ起こる現象。もしかすると、ニャルラトホテプは

それを俺達に与えたかったのかもしれない。


「どうした?」


兼兄の謝罪を受け取らない俺を見て、竜次先生達は影の刃を抜くクトゥルフに警戒しながら

尋ねる。


「これで・・・良いんです。」


「良いって・・・ニャルラトホテプの行動がか?」


狂気とは、生死のみを賭けた戦いとは。全てを捨てて戦う意味とは。

その先に俺達を待っている光景を理解し、得物を握りしめる。


「戦いましょう。」


戦い、勝利する。この状況でクトゥルフから勝利を奪う事こそに意味がある。

辺りの空気操作を念密に行い、向けられた殺気に負けじとこちらも鋭い殺気を返す。


「お前・・・・・。」


負けない。負けられない。それだけが感情を支配する。


「・・竜次、アル、ノエル。ついて行ってやれ。」


「兼定・・・。」


「龍穂が正気じゃないことぐらい、俺でも分かる。だがな、そこまでしなければならない

状況であることも理解しろ。」


耳から何かが聞こえてくるが、脳が理解を拒む。


「・・彼には仲間達がいます。理性がない状況でもし命を落とすことがあれば、

彼女達に会わせる顔がありません。当然、そこにいる楓さんもそのうちの一人。」


「そうだな。だが、守るべき者や果たすべき野望には必ず理性が付きまとう。

背負う何かがある者は必ず退路を作る。理性が研ぎ澄まされた者ほど多くの退路を。

敗北を喫したとしたとしても、一度身を引き回り道を辿り再度野望を手にするための道だ。

その結果が今、俺達が置かれた状況だって事をお前達も分かっているはず。」


「それは・・・そうだが・・・・・。」


「・・私は龍穂さんについて行きますよ。」


体に何かが触れる感触が伝わってくる。恐らく、近くにいた楓だろう。


「どこまでもお供します。希望の光あふれる未来、絶望の闇の中。

後ろにいる龍穂さんとの契約を結んでいる人達もそれだけの覚悟を持っている。

ですが龍穂さんは優しい人です。その覚悟を使う場面をなるべく避ける様に立ち回っています。

それが理性。私達を護るために使われた道理。その道理が通ることなく、

勝利のみを目指すのなら、その道に寄り添うのが私達の道理であり、理性です。」


共に付いてきてくれるんだ。頼れる相棒と共に戦えるのならこれ以上の喜びはない。


「・・・・・・・・・・。」


「納得なんてしなくていい。龍穂を支配している狂気はニャルラトホテプの影響を受けているが、その大元は俺だ。龍穂達が向かった龍脈に向かい、戦場になるであろう海へ流れる様に

術式を仕込んで来た。」


「これは・・・あなたが望んだ状況だと言うのですか?」


「そうだ。龍穂と忠行。何代と続いた賀茂家の使命と、途方もないほどの年月を生き長らえ

燃やし続けた野望。その二つはあまりに重く、退路を作るには十分すぎるほどだ。

そんなんだから決着がつかない。意識せずとも自然と保身に走り、ここまで戦いを

引き延ばされた。一度勝利を掴みかけた忠行の行動がまさにそれだ。

王を名乗るため、あれほどまで慎重に立ち回って結果海へ逃げた。」


「だが・・・・・。」


「忠行が白を引き連れ龍穂を自由に動かしたのも決戦を見据えての事。俺達の情報を伝えさせ、空気操作で多くの力を消耗させる事が狙い。ハスターの術式を理解していなかったこともあるが、多くの力を消費し続けた龍穂はガス欠を起こした。だが今はどうだ?あれだけの術式を使ってもびくともせず、新たな一手を生み出し続けている。効率よく力を使う方法を本能で会得したんだろうよ。」


「そんな二人が保身を持ち続けながら立ち回れば、三日所以上戦う事も出来るかもしれない。

そんなことが起きれば、我々は援護を続けられなくなる。

であれば正気を捨てさせ、狂気に身を任せた方がいいと兼定は判断したのです。」


クトゥルフは全ての刃を引き抜き、空を浮かぶ俺達へ臨戦態勢を整える。


『・・高ぶるか?』


心の中で聞こえるハスターの声。


『・・・・・ああ。』


高ぶる心。純粋な殺意。これが・・・ハスターが言っていた俺の才能。


『笑え。嬉々として高笑いを上げろ。理性をなど捨てろ。奴に勝利すれば全てが手に入る。』


何を言っているのか・・・。やはり分からない。だが、呼び起こされた本能が

言葉を聞かずとも、全てを理解する。


『殺意を向けろ。奴は敵だ。お前と・・・俺の絶対なる宿敵。

全てを捨て、全てを賭けろ。生命として上回れ。全身全霊を賭け、奴を塵へと変えろ。』


勝て。奴の命を奪え。喰らいつくせ、奴の全てを。

ここまでの鍛錬。磨いてきた技術を吐き出し、奴へとぶつけろ。

それが俺に与えられた使命。それ以外は・・・邪魔だ。


「・・・・・ははっ。」


出てきたのは乾いた笑い。腹の中の邪魔な渇きを吐き出し、潤いを持った笑いを

吐き出すための前準備。


「は・・はは。はははははは!!!はははははははははははははは!!!!!」


狂え。戦いは純度。立ち回りも、不意打ちも。それら全てはここまで来たら蛇足でしかない。

命を懸け、戦う。それが狂気と言うのなら、俺は喜んで飲み込まれてやる。


「龍穂!!!!」


自然と動き出す足。かけるのは大気の上。後ろから聞こえた声を理解できるほど、

脳のリソースは残されていない。脳が支配するのは純粋な殺意。クトゥルフを滅ぼすため、

俺は狂気に包まれた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。