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第五百九十話 悪魔の弾丸

楓と共に忠行へと己が持つ武器を突き立てる。向かってくる触手の群れを

六華で切りつけるが、楓の爪も同等の切れ味を持っており苦にせず対応を見せる。


「ふふっ・・・。いいですねぇ・・・・・。」


自らが手に入れた力。変わり果てた体が起こす結果、忠行の体を引き裂いた爪を見て

光悦の表情を浮かべている。


『始祖の悪魔か・・・・・。』


向かってくる触手や海への対処をしていると、ハスターが楓の姿を眺めながら呟く。


『・・何かあるのか?』


『いや、”奴”も面倒な名をつけたものだと思ってな。』


奴・・・?楓の力が何者かによって名をつけられたというのは初耳だ。


『始祖の悪魔・・・。リリスっていうのは地球の悪魔の名前だろ?』


『そこが何とも奴らしいのだ。クトゥルフと同じ手口を使い、配下達に力を蓄えさせる。

相変わらず、何を考えているか分からん奴よ。』


クトゥルフ関係ではないとなると・・・言い方からして”アイツ”しかいないが、

今はそんなことを考えてる暇はない。


「喰らいがいがありますねぇ・・・!!」


触手を全て切り伏せた楓は翼を羽ばたかせ忠行との距離を詰めようとしている。


「こらっ・・・!!」


ここまで来て別れて戦う意味はない。俺との繋がりの影響で見せていた狂気とは

また別ベクトルの狂気を見せている。空気で体の動きを止め、首根っこを掴んで引き留める。


「ぐえっ!!」


「ぐえじゃねぇだろ・・・ったく・・・・・。」


この緊迫した状況でよくもまあふざけた事を言えるもんだと思った反面、あれだけ追い込まれていた状況からここまで回復したもんだとほんの少しホッとする。


「えへへへ・・・・・。」


それがいつも隣にいた楓だったからこそなのかもしれないが、さすがに間抜けすぎると

もう一度指で額を弾き、掴んで手を引き寄せ顔に寄せる。


「しっかりしろ。敵陣だぞ。」


幸い、全ての触手を断ち切った事で奴も警戒を強め辺りの海水の操作を強めており追撃の

気配はない。


「・・・・・・・・。」


注意をしたはずだが、楓は俺の顔をじっと見つめているだけで返事さえ返してこない。


「やっぱり・・効かないんですね・・・・。」


「・・?しっかりしろ、大丈夫か。」


何かを呟いた気がしたが、そんなことを気にしている余裕はなく、もう一度叱りつけると

光悦とした表情は消え去り、いつもの真面目な顔に戻る。


「・・・・・はい。」


「それならいい。突っ込む時は一緒にだ、いいな?」


今度はしっかりと返事が返ってきて再び張り詰めた緊張感が俺達を包み込む。

この様子であれば接近戦は楓に任せても問題ない。危険視しなければならないのは

相変わらず海の操作であり、範囲攻撃から不意打ち、そして一点集中の強力な一撃までこなせる

その汎用性は俺達にとっていついかなる時も脅威でしかない。


「・・・・・リリスを手なずけるか。」


あれほどまでに荒れていた海を全て制して静けさを保たせた忠行が俺達に向かって呟く。


(いやに固執するな・・・。)


楓があの力を使ってから忠行はその力を欲しており、一度断られたにも関わらず

口惜しそうな言葉を呟いている。信頼できる仲間を欲していたのは知っているが無理やり楓を

仲間にしたとしても俺がいる限り裏切られるのは目に見えているだろうに。


『リリスの催淫の力を欲しているのだろうな。あの甘い匂いを嗅いだ生物は強制的な

術式の支配を受ける。現代の技術では抗う術はほぼなく、あるとすればサキュバスの

支配に抗った事のある様な西の国々だが・・・・・あれほどの力を覆すのは残されていないだろうな。』


悪魔と呼ばれる存在の被害を受けたとすれば、間違いなく欧州の話しだろう。

あそこには日ノ本に浸透しなかった世界最大の信仰がある。古くから悪魔と戦い続けている

彼らの技術であれば抗えるかもしれないが・・・日ノ本では間違いなく無理な話だ。


『・・前から思っていたんだが、なんで俺には通じないんだ?』


『相性もあるが、俺の力を取り込んでいる事が大きい。催淫とは元をたどれば我らと同じ力。

だからこそ人間は耐性を持っておらずかかりやすい。俺の力を取り込んでいる龍穂は

強力な耐性を持っている事になるが、サキュバスの血を受け継いだ人間は耐性を持って

いることが多い。お前の父親もその一人だったはずだ。』


千夏さんが持っている家系図を見れば誰が持っているかが分かるのだろうが、

今はその結果を知っているだけで十分。


「・・両親様様だな。」


俺の体に宿る力。そして流れる血が忠行に抗うための力を残そうとして来たかがよく分かる。

様々な強き者の力を取り込み、あらゆる状況への耐性を作り上げてくれている。


「正面から行きますか?」


楓は俺からの指示を待っている。前に出る事を望み、今か今かと待ち望んでいる姿は

まるで犬の様。


「・・・・・正面だな。」


極めて少数だが、本体である俺達が正面から当たるからこそ後方にいる味方に

選択肢を与えることができる。出来ることは少ないと空高く距離を取った竜次先生も

動きやすいだろう。だが陽動を仕掛ける素振りを見せない俺達を見た忠行もそんなことは

容易に察しており、さらなる茨の道を駆ける事になるだろう。


「・・いいですねぇ。」


俺からの指示を受けた楓は先ほどの光悦な表情を浮かべながら指を動かし伸びた爪をぶつけながら胸の高鳴りを辺りに示す。楓もまた俺と同じく戦いを楽しめる者。

茨の道を前にして、口角を上げながら嬉々として歩める者だ。

長く共にした仲間とそんな道を共に駆ける事が出来るのは俺としてもありがたい。

隣に立つ楓の光悦の中に見える胸の高鳴りを見て、俺も自然と口角を上げる。


「・・・・・・・そうだな。」


理性に包まれた中にある熱を感じ取りながら、楓と共に忠行の元へ駆ける。

その姿を見た奴はすぐさま反応を見せ、巨大な津波と荒れ狂う海流を向けてくるが

すぐさま空気で押さえつけ、それでも防ぎきれないものには弾いた空気で道を作り上げる。


「悪魔の魔弾(サルバルサン)!!」


道を作り上げた俺達を見た忠行は触手や子孫達の術式での範囲攻撃でその歩みを止めに

かかるが、その姿を見た楓が俺の風の操作を奪い、無数の弾丸を作り上げて打ち放つ。

サルバルサン。別名魔法の銃弾。とある病気へ特効役の名前であり、医療用語の一つ。

特定の病原菌のみへ狙いを定めると言う意味であり、銀弾弾丸ともいわれる。

魔法でも銀でもなく、悪魔と呼び名をつけた意味を見せつけるかのように、道を阻みに

かかるものを全て貫きながら、子孫達の顔や忠行を体を貫いていく。

魔法、銀の弾丸は理想とされているが、そもそもそのようなものは稀であり、

万能な対応策は存在しないという意味で銀の弾丸は存在しないと言葉もある事から

存在自体が幻とされていたが楓が打ち放った弾丸は阻むもの全てを喰らいつくすように破壊する姿は悪魔と呼ぶにふさわしい。


「ぐっ・・・・・!!!」


その勢いは留まる事を知らず、このままいけば全てを破壊してしまうのではないと

思うほど。あまりに一瞬の出来事に忠行も対応できず、このままではマズイと攻勢を止め

逃げるように海に沈んでいく。


「逃げますか・・・。」


当然逃がさまいと弾丸も海中へ飛び込むが、水より軽い空気が海中を進むにはあまりに

制限が強く、そして忠行の支配下である深海の水に触れた瞬間操作を奪われてしまう。

俺の力を取り込んでいるとはいえ、さすがに奴の領地では悪さは出来ない。

一度は追い込んだものの、再度仕切り直しを押し付けられてしまう。

その姿を見た俺達は一度距離を取る事しか出来ず、再び姿を見せるであろう海面に

意識を集中させる。全体を見渡すために背中合わせて全ての方向を見渡す。


「・・これが俺と奴との明確な差だな。」


海と空気の決定的な差。奴は俺の領地へと踏み込めるが、俺は深く踏み込めない。

この状況をひっくり返さなければジリ貧だ。


「ですが追い込むことは出来ます。そして奴の力も無限ではない。

これを続けていればいずれ・・・・・。」


奴から勝負を決めに来なければならない。その隙、その時が来れば倒すことができる。

明確な勝機が見えてきた。この不利盤面を覆さずとも仲間がいれば大丈夫だと確信したその時。


「・・倒せるとでも思っているのか?」


海面が大きく渦を巻き始める。これまで多くの力を消費しているはず。

だが、それでも底の見えない力を前にしそれでも戦うしかないと心を奮起させる。

空気を操作し、再び楓と共に踏み込む準備を整えていた所で新たな気配が生まれる。

一つ・・・いや、二つ。明らかな気配が二つ。姿を隠す気の無い奴らは俺達の近くに現れた。


「よくここまでやってくれた。」


姿を現したのは・・・兼兄と毛利先生。姿を見せなかった切り札がここで自ら前に出てきた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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