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第五百八十九話 人間の皮を被った化け物

俺の呼び出しに答えてくれた楓。その姿は人と呼ぶにはあまりに禍々しく、

その体に秘めている始祖の力をより濃く前面に出している。

俺の風をまともに受けても微動だにせず、黒い翼をゆっくりと動かしている。


「待っていましたか?」


そして今までにない余裕。本当に楓なのかすら疑わしいが、俺との繋がりを示す

式神契約と風に乗り鼻に入ってくるいつもより濃く匂う甘い匂いが本物だと俺の本能に

語りかけてくる。


「・・・・・ああ。」


不意打ちをしてもらうつもりだったが、この力を持っているのならもはや関係ない。

この風の中を自由に駆ける事が出来る強靭な肉体と翼。そして・・・俺と連携が

取れる楓がいるのなら奴が望んだ展開を壊すことができる。


「面倒な奴が来たな・・・・・。」


堂々と現れた楓の姿を見た忠行はすぐさま子孫達の力を向けるが、嵐をものともしない

翼で身を隠す。強力な一撃達が黒い翼を貫こうと試みるが薄く見える皮膚は全てを阻む。


「ええ。面倒ですとも。」


自信を込めた面持ちで笑う楓。これまでの戦いで力を隠していたのか。

一体この自信を何処に潜めていたのか。そんなことはどうでもいい。

再びゆっくりと翼を羽ばたかせながら俺の方を向くと、近くにいる忠行を意に介さず

此方に向かってくる。お前などに興味はなく、あるのは俺にだけだと言わんばかりの

視線を送りながら俺の前まで来て後ろに手を組んで顔を突き出してくるが、

あまりに場に会わない行動を咎めるために額を指で突く。


「あだっ!」


「阿保か。そんなことをしている余裕はないぞ。」


ここは戦場。日ノ本・・・いや、世界の歴史をたどってもこの戦いに匹敵する戦いは

神話の終末戦争を含めてもそうはないだろう。

そんな場面で余裕を見せるのは悪い事ではないが、ふざけるのは心臓に悪い。


「え~・・・。」


「えーじゃない。前を見ろ。」


場違いにもほどがある行動を目にした忠行は苛立ちを超え、怒りを露わにする。

自らが望んだ心地よい戦場に水を差したばかりかあまりに場違いな行動をとり続ける

楓を見れば怒り狂っても仕方がない。


「・・これだから悪魔の類は嫌いだ。神聖な場に泥を塗る冒涜な存在。貴様らのような奴に

我らの戦いの高潔さなど理解できんだろう。」


「高潔?何を言っているんですか?」


俺に叱られ渋々忠行の方を向いた楓は向けられた文句にすぐさま反論する。


「命の奪い合いが高潔などと勘違い甚だしい。そこにあるのはただの暴力。

そして残るのは結果だけ。例え命を維持するための捕食を目的にしたとしても過程が

一つ増えただけで残るのは捕食した後に残る骨という結果のみ。」


忠行が語る戦いへの美学。だが、楓はそんな者など存在しないと真っ向から否定する。

しかし・・・あまりに楓らしくない言葉の数々は楓の中に眠っていた始祖の悪魔の力は

単に身体能力を向上させただけではない事を俺に示してくれる。


「貴様は何も分かっていない。死と生命を天秤にかけられたその時こそ、

生命は強い輝きを放つ。それを侮辱するなど無粋にもほどがある。」


「無粋ですか・・・。そのような見た目をしているのに、酷く人間らしいですね。」


化け物相手に人間らしいか・・・。なかなか面白い所を突いている。


「私もそうですが・・・人間とは何かにつけて意味をつけたがる生き物です。

ただの殺し合い、捕食。それだけならまだいい。葉が落ちたとか、ここ自分がいる意味だとか。

ただそれだけなのに何かしらの意味をつける。吉兆ならまだしも凶兆にも紐づけ

自らを陥れる様な思考に陥る事もしばしば。」


「・・・・・愚かだな。」


「ええ、愚かですとも。ですがその愚かさが我々人間を強くした。本来ただそれだけである

にも関わらず、その意味を追求した。意味のない事だった事もその真意を突き止めたことで

新たな知識を蓄え続けた。それが我ら人間なのです。」


楓の血に流れる始祖の悪魔の血が広い視野の与えたのか。人間という生命体のこれまでの歩みを

語るその口調は上位存在そのもの。


「・・そのような愚かな者にわしは負けん。」


「おや?あれだけ人間臭かったのに、今度は化け物面ですか。面の皮が厚い所は

褒めたい所ですが、共に歩む神の顔色を窺いすぎるのは滑稽ですね。」


奴の怒りを買い、正気を失わせるだけなら先程のやり取りだけで十分。

不必要な煽りには・・・必ず”意味”がある。


『・・龍穂君。』


楓が煽っている最中、千夏さんの念話が俺に届く。ここに来る前に何かあったのだろう。


『遅れて申し訳ありません。家系図について少し報告があります。』


子孫の名を記した家系図。力を使った子孫の名が光る事だけは確認しているが、

それを上手く利用できるかは定かではなかった。


『光を放つ名から放たない名までそれぞれありますが、その分類が分かりました。

脳に直接契約を結んでいる者とそうではない者がいるようです。』


化け物の形をした子孫達と戦った事で脳に直接契約を結んでいると思っていたが、

俺達が思っていた以上に複雑な契約を結んでいるらしい。


『・・脳に契約を結んでいない者の詳細を。』


奴の攻撃のリソースを割くには脳以外の契約にフォーカスを当てるしかない。

俺達が戦っている間に後方にいる味方達が出来る限り敵の武器を減らせれば御の字だ。


『どうやっているのか分かりませんが、どうやらこの家系図の名と契約が繋がっている様です。』


契約が・・・繋がっている?それは一体・・・・・。


「人間が・・・!!少し強い血が混じっているだけでいい気になりおって・・・!!!」


千夏さん達の報告を受けていると、堪忍袋の緒が切れた忠行がついに楓に向けて海を打ち放つ。


『・・進捗があれば報告を。戦闘に入ります。』


この報告を受けることが出来ただけでも儲けものだ。楓が時間を稼いでくれた甲斐があった。

始祖の力で強化された楓の皮膚であれば奴の海水ぐらいは弾けるかもしれない。

だが、この場は奴の支配か。体に触れた海水が悪さをして追い込まれてしまう事ぐらいは

容易に想像できる。


「こっちだ・・・!!!」


煽り高ぶった感情のままに迎え撃とうとする楓の体を空気で引っ張りながら移動を試みる。


「私だって・・・!!!」


「出来ないなんて思ってない!それでも一人で戦うな!!」


忠行は楓に集中している。俺が自由に立ち回れるように配慮してくれたのかもしれないが、

明らかに危険な状況で楓一人に立ち回らせる事は出来ない。

向かってくる海水に向けて風を向かわせ受け止める。四方八方からの攻勢を見て、

楓も一人ではすぐさまからめとられると、風から解き放たれると俺の背中にピタリと張り付く。


「・・どうしますか。」


「どうするもこうするもだな・・・!!」


ここまでくればやるしかない。陽動など不要。真正面から二人で突っ込む。

久々に・・・こうして肩を並べて共に戦う。本当に対等なのは八海にいた時以来か?


「やるしかありませんね!!!」


こうしてみると・・・・・二人共ずいぶんと姿が変わった。

俺は黄衣をまとい、楓は悪魔へ姿を変えている。だが、中身はそのまま。

楓は得意の体術を使うため、悪魔の爪を奴に向けながら俺の隣で翼を羽ばたかせる。

そして・・・俺も得物を握りながら空気を操作し忠行へと向かう。

化け物気取りの奴に、人間の力を思いしなければならないと呟く楓と共に

得物を振りあげ奴に向かって突き立てた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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