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第五百八十八話 仲間を求める者

空気と水。俺と忠行。そして・・・クトゥルフとハスターの力がぶつかりあう。

先ほどまで静寂を保っていた海は深海の主に答える様に荒れ狂い、そして俺が操る空気も

忠行の息をつかせまいと言わんばかりの猛攻に勢いを抑えることが出来ず、

何者も寄せる事が出来ないほどの強風を吹き続かせる。


「ッ・・・・・!!」


共に戦ってくれる竜次先生はクトゥルフを封印へ追い詰めた種族の末裔であり、

俺の風と忠行の海に対応できる数少ない戦士であるため共に戦ってくれているが

この場にその身を留めるだけでも苦しそうな表情を浮かべている。

共に戦ってくれるだけでもありがたく、出来れば少しでも風を緩めたい気持ちは山々だが

少しでも気を緩めた隙を奴が突いてこないはずがない。

俺と共に戦い、奴を討ち果たす。その気持ちを汲むのが今の俺出来る精一杯。

頭の中に生まれた後ろめたさを小さく丸め、片隅に押し込め今は奴に集中する。


「フフッ・・・!!心躍るわ・・・!!!」


必死で戦う冷えていた頭に熱が帯びてきたのか俺に向ける触手や海を操りながら

歓喜の声をもらしだす。自らを縛り付けた状況から一転、全てを出せる環境と俺という

相手を前に命を奪う戦いへの喜びが溢れ出ているのだろう。

命の奪い合いという争いごとを限りに無く減らした現代において、その積み重ねた歴史を

汚す冒涜的な感情だが、俺の中にも歓喜と呼ぶことのできる感情が生まれてきている。

楽しいなど・・・思ってこなかった。自らと、そして仲間達を守らなければならない

立場があったからなのだろう。


『・・それが本能だ。人間などという小さなくくりではない。全ての生命体が

心に持つ生を求める。それが最高に玉かったその時、生存以外の思考が削ぎ落され最後に

残るのは純粋な戦いを求める生存意欲のみだ。』


生存意欲・・・か。ここまで奴と戦ってきたが、有利不利なく戦ったのはこれが初めてだ。

奴はここまでの疲労があるが、俺の万全とは言えない状況だ。

竜次先生がいてくれてるとはいえ、まともに手出しができない状況。奴との戦いに

必死だったが、確かに純粋な力のぶつけあいと言えるだろう。


『どの生命体よりも高等な我々であっても死を前にしたその時、怯えだす者が大半だ。

その戦いを楽しめる者は限りなく少ない。

龍穂。やはりお前は選ばれ者だ。お前の親父はそうだったように。』


ハスターは母から。そして・・・この得体のしれない高揚感は父から。

得物から伝わる受けついた血が俺をこの場に留めている。


「嬉しいぞ!!賀茂龍穂!!!これほどの高揚は初めてだ!!!」


嬉々として放つ言葉。それが耳から入り、脳が飲み込んだ瞬間。一つの違和感が生まれる。

こいつは今まで表に出てこず戦ってきた。歴代の皇と戦ってきたのかもしれないが、

クトゥルフが封印されていた事を考えるにその身一つと信頼できない仲間達と

戦ってきたのだろう。純粋な強者との対一で戦う事がなかったとでも言いたいのかもしれないが、その中でまともにぶつかった経験などあるのだろうか?


『・・・・誰か頼めるか?』


存在をほぼ隠されていた子孫達は分からないが、歴代の皇達がこいつ相手にまともに

戦うなどあり得ない。一対一で戦う機会があまりに少なかったからこそのこの態度。

そしてもう一つ。恐らく、こいつはここまで全力を出し切れていない。

何故ならこいつは始めてクトゥルフを取り込んだからだ。

強大な力とそれを発揮できる環境。この二つが奴の心を跳ね上げている。

であれば・・・付け入る隙は十分にある。その役目を果たせるのは俺じゃ不可能。

仲間に頼らなければならない。だが、竜次先生がまともに立ち回れない環境で戦える仲間が

果たしているのかどうか。冷静に判断で出来る親父達が後方に控えているので

純恋達が無理やりこちらに来ようとすれば止めてくれる。

ない物ねだりかもしれないが・・・ここは頼む以外の選択肢は無い。


『・・・・・分かりました。』


俺の支援要請にこたえたのは楓。確かに今の楓であれば・・・・・。


『助かる。』


楓が俺の元へ来るのなら影渡りだろう。だが、あからさまに影を作るために立ち止まれば

奴はすぐさま察して来る。翼を羽ばたかせたとしても俺の風が邪魔をし、

そのうえ影渡り以上に奴にバレる所かこちらに向かわせないように海を操作する。


『龍穂さんは何も考えず戦って下さい。私が何とかします。』


どうにかしようと考えていると、俺の思考を完全に理解した言葉が飛び込んでくる。

この嵐の中でどう向かってくるかは検討が突かないが、楓がそう言うなら俺に出来る事は無い。


「俺もいる事を忘れんなよ・・・!!!」


風でうまく身動きが取れなくなっていた竜次先生が俺の風を掴んだのか炎を吐きながら

翼を羽ばたかせ接近を試みる。炎で道を作るつもりだと察し、炎に風を混ぜると空気を取り込んだ炎は大きさを増し、奴に向かっていく。


「おおっ!すまん、忘れておったわ!!」


息を潜ませず近づく竜次先生を忠行が気付かない訳がなく、すぐさま荒立てた海を動かし

海流の束を向ける。襲い掛かる津波はさらなる動きを見せ形を変えていく。


「知っているか?日ノ本に龍の存在が知られたのは中世の事だ。

それ以前は蛇信仰が多くを占めていたんだぞ?」


形を変えた海はうねりながら先生へと迫る。大きな胴に八つの頭と尾を持つ化け物へと

姿を変え、大きな口を開けながら炎を飲み込んでいく。


「八岐ノ海蛇(やまたのかいじゃ)!!」


その姿は伝承に聞く八岐大蛇そのもの。すさまじい炎を前に海水はすぐさま蒸発

するものの、地球という惑星の多くを占める海に繋がる体の全てを蒸発させるには至ることなく

小さくなった炎は食らいついた口の中に含まれ胴の中に入っていく。


「まだまだ・・・・・!!!」


切り開かれた道を歩む先生にはもはや引くという選択肢は無く、手に持ったグングニルを

目の前にいる海蛇の化け物に向かって放り投げる。

必ず命中し、命を奪う槍。オーディンの得物である名槍が海蛇の心臓を貫くが

クトゥルフの力で作られた心臓は水で作られており、命と言う概念を持たないその体を

貫いても効果はなく、炎を飲み込んだ大きな口が向かってくる。


「大戦の戦利品(ヒマリア)!!!」


このままでは炎と同じ結末を迎えることになる。それを防ぐため、空気を動かし九つの惑星を

作り上げる。巨人達との大戦であるティーターノマキアー。オリンポスの神々と

クロノス率いる巨人達の戸の大戦に勝利した後愛人としたヒマリアの名を冠した衛星群を

作り出しその口にねじ込む。牙という武器を失くした水蛇だが退く様子はなく、

その巨体を構成する海水に先生を閉じ込めようと突進してくるが、最後に残った

衛星で体を貫き退く時間を作り出す。


「くっ・・・・・!!」


隙を作り出そうとした策は失敗に終わった。これ以上の踏み込みは勇敢とは呼べず、

もはや愚行でしかないと判断した先生は悔しそうな表情で退く判断を下す。


「羽虫が。邪魔をするな。」


必死に翼を羽ばたかせる姿を見た忠行は口角をひどく、そして醜く上げる。

俺以外の者は敵とは呼べないとでも言いたげだが、その表情がすぐさま変わる。

奴の全てが間違っている。俺以外、敵ではない事。俺が一人で戦う前提で動いている事。

そして・・・この場で満足に動ける者は俺たち以外にもいる事。


「な・・・んだと・・・・・?」


海水で滴る醜い体に備えられた触手が音を立てながら水面に叩きつけられ、そして沈む。

そこには黒い翼を持った小さな体が一つ。いつの間に現れたのかは俺でも分からない。

だが、俺の期待に応えてくれた事だけは簡単に分かる。


「・・助けに来ましたよ?」


始祖の悪魔の力を持った者。得物ではなく、黒く長い爪を持った楓の姿がそこにはあった。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

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