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第五百八十七話 見る事の出来ない未来

「・・ああっ!!もう!!!」


岸に上がった瓦礫の山の上。そこには白と業、そして木星の部隊の姿があった。

離れた場所で戦う龍穂を前に何もできない無力感に苛まれた純恋が苛立ちを隠さずに

声を上げており、隣に立つ桃子がなだめに入るが海と純恋を交互する視線は

苛立ちとは違う別の感情を抱えていた事を周りに報せている。


「助けに行こうや!ここで何もせんより百倍ええやろ!!」


「気持ちは分かるけど・・・落ち着いて?」


木星の部隊。特に龍穂と共にいた者達は空を駆ける手段を持ち合わせている者が多い。

翼を広げ、空を駆けて龍穂と共に戦おうと提案する純恋を落ち着いた表情で近づく

千夏が止めに入る。


「桃子さんの言う通りです。ここは一度落ち着くべき。空を駆け龍穂君の元へ

近づこうとすれば、私達はすぐさま何度も巻き起こる津波や海水の束によって

深海へと引きずり込まれるでしょう。」


「そんなん・・・龍穂に助けてもらえばええやん!!」


「それが既に負担なのですよ。この戦いの中で龍穂君は力を増した。

正確に言えばハスター本来の力を徐々に開放しているという事になりますが、

あの状態で忠行とクトゥルフの水と拮抗しています。

そんな綱渡りの状況で無策のまま私達が奴の領域へと踏み込めばからめとられる。

いえ、それだけならまだいい。簡単に命を奪われるのです。

悔しい気持ちは分かりますが・・・ここで待ちながら龍穂君の助けが必要な時に

力を溜めておくのが最善なのです。」


龍穂と自分の力の差が開いている事を純恋が気付いていないはずがない。

今までは自らの力を十二分に発揮したことで何とか食らいついていたが、もはや

同じ戦場に立つ事さえ敵わなくなった事実に歯がゆい気持ちを抑えきれない。

いつもであれば意地でも戦場に踏み込むが、千夏の言い分があまりにも筋が通っている且つ

先程放った十二分の一撃が一切通じることが無かった光景に体を縛り付けていた。


「・・純恋よ。」


何もできない自分に腹が立ち、眼に涙をためていた純恋に近づいてきた声。

そして・・・肩に置かれた手を見つめた純恋が振り返った先には神となった皇の姿があった。


「じいちゃん・・・。」


「待つのもまた戦い。好機や窮地をいち早く察し、手を貸すのがお前達の役目だ。

それともなんだ、お前は龍穂の隣に立っていたくはないのか?」


隣に立ちたいからこそ前に出たいと言いたげな表情で睨みつけようとするが、

近くにいた影定の真剣こそあれどどこか悲しげな表情を見てその真意にたどり着く。

龍穂の隣に立ち続けた先。その道を皇は見守れない事が既に決まってしまっている。


「・・見られないんやな。」


「すまんな。出来れば純恋達の花嫁姿を見るまでは生きていたい願っていたが・・・

そうはいかなくなってしまった。」


そう口にしながら近くにいた純恋と桃子の頭を撫でながら、千夏を見つめる。


「仙蔵への土産話も・・・これで一つ無くなった。ふふっ、久しぶりに怒られるかな。」


「そう・・・ですね。」


両手を伸ばし、空いた懐に千夏はゆっくりと近づいて胸に頭を寄せる。

仙蔵を失くした千夏を密かに見守り、龍穂達に気付かれずに仙蔵の家に足を運んでいた

皇に千夏は祖父の影を感じていた。皇の願いは三人も同じ。

もし、花嫁衣装がすぐそこにあるのならこの場で見せる事が出来るが、三人の意中の相手は

長きに渡る因果を断ち切るために必死に戦っている。


「悲しいが・・・わしが至らなかった結果だ。受け入れるしかなく、お前達に

押し付けることになって申し訳ないと思っている。」


「・・謝らんといてください。」


流れる涙を手で拭いながら桃子は呟く。忠行と戦う自分達に責任はあると口に出しそうになるが、この戦いの責任を負う決意を決めた皇の前では無粋であると言葉を飲み込んだ。


「生きては叶わなかったが、空の上からなら見ることができる。

だが、ここで命を失えばそれさえ叶わない。わしの願いを・・・聞いてくれるか?」


同じく涙を流す純恋は小さく頷く。本来なら、皇もこのタイミングで純恋達に願いを

伝えることは無かっただろう。思いをはせるからこその無理をしようとする純恋を

止めるにはこれしかないと決断した皇の思惑は三人の心に深く突き刺さっていた。


「・・分かった。今はここで控える。」


「それでいい。千夏の言う通り、出るべきタイミングで龍穂を助けてやれ。

お前達が傷つくことをあやつは望んでいない。その思いも汲むでやる事も共に歩むには

大切な事だ。」


頼みを飲み込んだ純恋達の頭から手を離すと、頭を寄せていた千夏の肩を叩き離れていく。


「さて・・・すまんな。少し説得に時間を使った。」


「いえ、大切な事ですので大丈夫ですよ。」


三人と同じく龍穂を思う楓は口を開くが、皇に近づくことは無い。

その視線は龍穂をじっと捉え続け、いつどのタイミングで飛び出せるように警戒を

続けていたが、そんな頭を歩いてきていた影定が優しく撫でるがすぐさま手を払う。


「・・良い雰囲気の所、ごめんなさいね。」


三人が皇から離れた所で後方で治療を受けていたアルとノエルが合流を果たす。

その後ろには治療に当たっていた白の面々もおり、戦場に出ている全部隊が決戦の地へ

降り立った。


「ここは支援部隊をお見受けしました。我らも加えていただきたい。」


「それは構わんが・・・。」


返事を返した兼定の視線の先には戦う龍穂と竜次の姿があった。

さらに力をつけ、忠行に有利な海の上でも引けを取らずに戦う姿がそこにはあったが、

一進一退の攻防の中に加われる数少ない戦力として後方に控えるにはあまりに勿体ないのでは

ないかと視線で訴えかけていた。


「私達は善戦に出ません。いえ、出れないと言った方が正しいですね。」


「出れない・・・?お前達ほどの実力でもか?」


眉をひそめながら二人は大きく頷く。


「影定さんは戦場にいなかったから見ていないでしょうけど・・・私達は

あいつに殺されかけているの。」


「その原因を作ったのは私達二人。仮に出たとしても少しは戦えるかもしれませんが、

いずれ隙を作られ基点とされてしまうが目に見えています。」


古き英雄達の血を引く二人であってもそれなら自分達には戦場に出る権利すらないと

この場にいる殆どの人間が胸の中で呟く。


「それも・・・”もう一人”を見つけることが出来なかったが悪いんだけどね・・・。」


「・・水神の力を引く者か。」


「あの場面。水に囲まれた私達は奴の猛攻を抑えきれなかった。特に私達は顕著。

奴の力に対抗できたのはわずかな時間だけ。そこに強い水の力を持った子がいれば

話しは大きく違っていたの。」


「一応見つけること自体は出来たのですが、あまりに幼過ぎました。

それに私達と同じ道を歩まない者に命を捨てる覚悟を押し付けるのはあまりに心苦しい。」


二人でも近づけないとなれば、龍穂への援護はこの岸から行わなければならない。

例え影渡りで近づけたとしても、まともな一撃を叩きこむ前に戻らなければ千夏の言葉通り

絡めとられて命を奪われる。


「・・ない物ねだりはやめろ。どうすれば奴に近づける?」


「空を駆ける者に対してここから全員の援護を行うのです。そうすれば少しは近づける。」


「少しではダメだ。確実な援護を・・・。」


二人に語りかけていた皇の口が止まる。その理由、二人の視線が己ではなく、

別の者へと向けられていたからだ。


「・・今の話しはこの場にいる殆どの人間を送るための条件です。

ですがこの中にたった一人。生身で援護に向かえる人物がいます。」


皇は二人が向ける視線を追う。たった一人でもいい。遠距離のみに警戒している奴の

不意を打てる者がいれば話は変わってくる。


「”楓”。いけるわね?」


視線は海を見つめる楓の背中を捉えているが、すぐに答えは返ってこない。


「・・・・・ええ。」


少し間を置いた後、楓は大きく頷いた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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