第五百八十六話 姿の見えない式神達の行方
猛達を救い出し、仕切り直しとなった戦場で忠行と向かい合う。
俺への下手な攻勢は無意味と報せたつもりだが・・・奴はさらなる手を目論んでいる様だ。
「す・・すまん・・・。」
俺を助けようとした猛達は謝罪をくれるが、今は素直に受け入れる余裕はない。
「謝るな。青さん達はどこにいるか聞かせてくれ。」
二人が無事である事実は大きい。だが、式神である青さんとイタカの姿が見えないのは
いただけない。あの二柱が簡単にやられるとは想像しにくいが、相手は忠行だ。
何が起きたもおかしくはない。
「無事・・・だとは思う。」
「・・だと思うってのはどういう事だ?」
「一度目の大津波を止めた後、すぐさま二回目の津波が来たんだ。同じぐらいの
威力で止められると思っていたけど・・・その中に奴が潜んでいた。」
どのタイミングで奴が二回目の津波を起こしたかは分からないが、俺の想像を超える速度で
この海への移動を行っていたらしいが・・・。
「・・・・・庇ったんだな。」
俺の判断ミスにより、二人が奴の餌食となった姿が容易に想像できる。
それなら俺の念話が届かない理由は筋が通るが・・・契約自体は消えていない。
「・・ごめん。」
「謝るな。無事だと思うってことは庇った以外に何かあったんだろ?」
猛の言葉は願いではなく、何かしらの行動を目にしたからだろう。
この二人は青さん達と行動をしたことはほとんどないからだ。
「・・奴は津波の中から現れた。それを受け止めようとした所を襲われそうになったの。
龍穂の予想通り、あの二人が間に入ってくれて私達は何とか逃げれたんだけど、
その代わりに二人は吹き飛ばされたの。」
・・なるほど。それであれば可能性はある。海に引きずり込まれるより遥かに
生きている可能性が高い。
「吹き飛ばされた方向は分かるか?」
俺の問いに真奈美は全員が控える方向とは遠く先を指差す。奴が海水を向けられるので
味方が青さん達へ助けに向かう所を狙われれば分断された後に殺されるだろう。
(助けにはいけないな・・・。)
契約が感じ取れない以上、影渡りで向かう事も出来ない。そもそも俺がここを離れる事は無いが・・・今はあの二人が無事である事を祈る事しか出来ない。
『安心しろ。イタカは奴にやられるほど軟じゃない。青も同様だ。今は目の前に集中しろ。』
ハスターの言葉で雑念を消し、忠行に視線を向ける。海に浸かっていた猛達を空気で掴み、
後方に控えさせようとした所で奴が動き出す。
「万波の淵。」
突然荒くなった波に警戒するが、こちらに海水が迫ってくることは無い。
だが動き出した海は猛達の体を掴み、海底へ引き込もうと海が割れていく。
「なっ・・・・・!!!」
声を上げ、体を動かそうとする二人だが手や足が何かを掴むことは無く足掻く術を持たない。
「人間の姿に戻れ!!!」
大きな体を持つ二人を引き込む力と持ち上げようとする力が拮抗するはずもなく、
徐々に割れた海底に引きずり込まれていく。
「我が領地内にいるこ奴らを生かしておく理由。お前の隙を生む以外に無かろうが。」
猛達は人間の姿に戻るが、二人の足を海から伸びた手ががっちりと掴み離さない。
二人を引き上げるために意識を割いた俺に向かって荒れ狂う海が襲い掛かるが
すぐさま無数の空弾を撃ち込み、全てを弾き飛ばす。
「阿保が・・・!!」
奴は自らの策に俺がまんまとかかったと言いたげだが、傷ついた猛が俺の目の前に
いるのなら助ける以外の選択肢を取る訳がない。
賭けに勝ったように見える奴のしたり顔が気に食わないが、この姿こそ奴が化け物である証拠。
「オラッ・・・!!!」
猛達の足を掴む手に向かって空弾を打ち放ち、引き剥がした瞬間空中へ放り投げる。
人間の体の二人は軽く、空気操作で安全な場所へと運ぶが奴は追い打ちをかける様子を見せない。
「残念だな。お前の思惑通りにはいかねぇよ。」
たかだかそれだけで俺を倒せると思ったら大違い。俺の手の届く範囲にいる仲間達の命は
奪わせず、そして共に戦う仲間達は決して足手まといではない。
「そうだろうな。だが、今はそれでいい。」
呆気なく引き下がる奴の思惑は俺の隙を作る事ではなく、何かの確認を行った。
『どうやら・・・お前の動きを確認したようだな。』
『・・動き?』
『仲間を助ける行動をとるのかどうかだろう。お前の前で仲間を傷つければ必ず助けに向かう。
お前の空気操作が届く範囲且つ、近くにいたことで助け出すことは出来たが
遠く離れた場所でも同じことをすれば今以上の隙を晒すことになるぞ。』
その時は・・・・・助けに行かないなんてことは出来ない。今までであれば
皆ならなんとかしてくれると信頼を置いた上で放置する事はあったが、過去の相手と
海の中に潜む忠行とクトゥルフ相手は比較さえ出来ないほど状況が違う。
皆が何とかしてくれる信頼より、海に引きずり込まれれば確実に命を落とす方に絶対的
信頼を置いてしまうからだ。奴の海に対して明確な対処法を持つ味方でなければ
俺と共に戦う事さえ許されない状況だが、後方支援をもらうにも岸からはかなりの距離が
空いている。
「・・面倒だな。」
あちらを立てればこちらが立たず。唯一それらの状況を全てクリアしているのは俺のみ。
何かしらの対抗策を見出さない限り、俺一人で戦う事しか出来ないと腹を括ったその時。
海面から姿を見せていた奴の上からすさまじい光が降り注いだ。
「悠長だな!!クトゥルフさんよ!!!」
声と共に降り注いだのはすさまじい炎。純恋と同等の力を持った炎が海の中に潜む奴もろとも
燃やし尽くす。流石の忠行もあの炎の前では深海の姿を潜める以外に選択肢は無く、
水蒸気の中から反撃は一切飛んでこなかった。
「そんな難しい顔しなさんな。お前の気持ちは十分分かるが、考えすぎるのは体に毒だぞ。」
いる。俺と共に戦ってくれる仲間達が。竜次先生なら奴の攻撃をいなしながら
立ち回ってくれるだろう。一つ懸念点があるとするなら・・・。
「・・一つ聞かせてくれませんか?」
「ん?なんだ?」
「竜次先生達が一度倒されたのは、奴の何を喰らっての事だったんですか?」
一度敗北を経験している竜次先生は奴の恐ろしさを頭や体が覚えているはず。
壁の中で逃げられない状況下であったことが関わっているだろうが、この海の上で
同じことを奴はいつでも行えるだろう。警戒しなくてはならない。
竜次先生達と同じ轍を踏めばそこですべてが終わるからだ。
「・・不意打ちを喰らった。全方位のな。」
「全方位・・・。」
「奴が繰り出した壁や海から一斉に攻撃を放たれた。当然全員で対処したが、
俺達が奴から意識を離した瞬間、俺達の力に楔を打ってきやがった。」
楔・・・か。俺が猛達に行った様な事を奴は戦闘のわずかな隙間で、しかも竜次先生達相手に
あれを行るのは流石に最大限の警戒を敷くしかない。
「まあ、あれは俺達専用の技と言っていい。アルとノエル、そして俺が力を失った事で
出来た隙を兼定達がカバーしたんだが・・・総崩れになった。
一度クトゥルフを倒している過去がある俺達への対応策としてあらかじめ準備してこなきゃ
あれほどの速度で行えない。」
そこまで警戒しなくてもいいと語るが、俺の両親がハスターの力を使っており、
ショッピングモールで俺も同等の力を使う事を奴は知っている。
クトゥルフと同等の神の力を扱う俺に対して同じ様な策を持っていてもおかしくはない。
「・・警戒しましょう。そして、その上で勝ちます。」
楔を打つためには竜次先生達が絶対に回避しない状況を作り上げる事が必要だった。
であれば、その状況を作らせなければ楔は打たれない。
水蒸気は既に俺の風によって晴れており、姿を見せない奴の代わりに
深い谷が出来上がった海が動き出し、溝を作るために退いた海が波となり俺達を
挟み込もうとする。片方の波は俺の風で、もう片方は竜次先生の炎によって
全て無に帰すと奴が再び姿を現し荒れ狂う海と触手や子孫達の力を使い襲い掛かってくる。
その一つ一つを二人で丁寧に取り除きながら迫り、奴の体に向けて得物を振るう。
奴が隠した手札と俺が新たに生む手札。人類史上でも屈指の消耗戦が始まった。
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