第五百八十四話 化け物達の果て
「惑星衝突。」
二つの惑星が海の中でぶつかり、すさまじい衝撃を生む。
今でも領域を広げている宇宙の中では隕石のみならず、惑星と呼ばれるほどの物体が
日々ぶつかっているとされているが、地球の衛星である月の誕生も星々がぶつかったからと
言われていた。そして・・・地球において、隕石の衝突は多くの変化を変化を与えた。
以前作り上げた隕石もまたその一つ。生態系の変化、それは俺達人間がこの地球に
広く繁栄させた意志なのかもしれない。
二つの隕石は起こした爆発は海中にいる影を吹き飛ばすほどの衝撃を起こす。
俺がこれまで作り上げた術式。生み出し、模倣した物の大半はこれまでの経験ではなく
仙蔵さんの家に置いてあった資料を参考にしている。本だけではなく、仙蔵さんが好んで
収集していた映像作品を、休憩時間にみんなで見ていた事が俺に力を与えてくれる。
「・・やるな。」
衝撃は巨大な水柱所か、空高く打ち上げられた水蒸気は宙で傘を開きまるでキノコの様に
打ちあがる。近づいてきた竜次先生はその光景を見上げながら小さく呟いた。
「こりゃ、いい脅しだな。ここまで戦いで疲弊していた自分ではない。
そう奴に伝えたわけだ。」
「ええ。奴の姿を完全に捕らえたわけではありませんからね。」
完全なる仕切り直し。互いに追い詰められている状況では有利も不利もない。
あるとすれば場の支配。この広い海を領地としている奴が一件有利に見えるが、
それに対して俺は海が映し出す広大な空を支配する。
場の支配は同等。力は十分。互いに手札を切った俺と奴は対等。
「そうだな。皇は比較的安全な場所で業と共にいる。その時間をお前は作り出してくれた。」
そこに白の力が加われば俺達の方が有利。だからこそ、奴は姿を見せない。
「場所を見つけるのは俺達の仕事だ。まあ、任せておけ。」
竜次先生にしてはあまりに弱気な発言。先ほどは共に戦うと言って前線に出てきたが、
その言葉は索敵、後衛に徹する宣言。
「・・共に戦わないんですか?」
戦えない訳ではないが、一人で戦うより二人で戦う方が当然立ち回りやすい。
それに・・・この人ほどの力を持った味方を後方に置くのは持ったいない。
「・・気付いていないのか?」
気付いていない・・・?ここまで何もおかしいことは無かったはずだ。
「忠行に・・・何かされたのですか?」
あるとすれば竜次先生達が忠行相手に何かをされているのかもしれない。
竜次先生達を倒した忠行が皇を呼び出すために止めを刺さなかった時、何かしらの術式、
いわゆる呪いをかけられたのかもしれない。
「その様子だと・・・まあ、分かっていないみたいだな。空気操作、強くなっていないか?」
空気操作・・・?確かに奴の水に負けない様にはなったが、それは皇の力によるものだ。
俺の力が上がり、奴を上回った感覚は一切ない。
「自覚は無い様だな。だが、傍から見ればお前の力があったことは明らかだ。
それを証拠にお前と共に戦おうと進言する奴はいないだろ?」
確かに・・・楓が近くにいない事に今更気が付く。先ほどまで俺を護るために
傍にいてくれた仲間達が近づく事を避けている様に。
「別にお前の事が怖くなったわけじゃない。だが、明らかについて行けない。
あいつらの実力は十分。むしろ実力以上の力をここまで出している。
だが、それでもお前には追い付かない。感覚はないだろうが、お前は戦いを超えるたび
強くなり、そして追い込まれた分前に進む。」
「・・それでも、俺には仲間が必要です。」
「そうだな。だからこそ、あいつらはお前を追い込まれ、助けが必要な時に備えている。
俺もそのつもりだ。勘違いをさせた様だが、俺は共に戦う。安心しろ。
だが、主力はお前だ。お前を助ける役目だと思っていたが、どうやらそれも出来なくなってきた
らしいからな。」
・・それなら安心だが、まるで自分が化け物だと言われているような錯覚に陥る。
強大な力がみんなから俺を遠ざけているという事実は重いが・・・それでも
俺を助けるための機会を伺ってくれているなら、それでいい。
「まあ、それは仲間の意識の問題だ。もう一つ、明らかにお前の力が上がってきている理由。
龍穂、お前の自己評価が低すぎる事とその類で局所的に視野が狭くなることが要因だ。」
「視野・・・ですか。」
「信じていると言えば聞こえばいい。だが、広い視野を持ちながらさらに疑問を持つ事も
時に大切。まあ、その役目を担っていた仲間達が距離を置いている事が原因なのだろうな。」
疑問・・・か。俺の力が増しているのは確かなのだろうが俺は何かに気付いていないと
言う事か。それが一体何なのかは分からないが、俺の力が増しているという自覚がないと
示しているだけでこれから戦闘に大きく影響はしないだろうと疑問を頭の片隅に押し込もうと
したその時。水蒸気で視界が悪くなっていた海面から先ほどの声が聞こえてきた。
「・・人間が神に慣れない理由がそれだ。」
すぐさま風で海面を水蒸気を払う。するとそこには海面に影の主であろう忠行の姿があった。
「古き英雄達なら察しているであろう。この現世で人間ごときが神に成ろうとした結末を。」
自らの領地に戻ってきた忠行の力はさらに増しており、いつかかってきてもおかしくない
距離にいるが奴は仕掛ける気配を見せない。
「物事には順序がある。人間という生物は神になるには死を迎えるだけでは神には成れない。
多くの信仰を受ける必要があるが、それが前後する事は無い。死を迎えても信仰が無ければ
神にならず、どれだけ信仰を受けていても神に成れない。
現人神な幻想にすぎない。あの出来事で身に染みた。」
・・先ほどまで自らが高等な存在であることを忠行は口にしていた。
だが今の言葉はどうだ。自らを否定する様な言葉の数々は奴の中にそびえ立った自信という
柱がへし折られたように見える。
「・・”新興宗教事件”。やはりあれを扇動したのはお前だったか。」
「わしが生まれた時代。そこから大戦の少し先まで日ノ本の宗教にわしやクトゥルフが入り込む
隙は一つも無かった。神道、そして仏教。その中でも細かく枝分かれしてきたが、
日ノ本に深く根付いた教えを上回ることなく、密教として繁栄をしようとした所で
他の奴らに潰されてきた。」
いや、こいつは冷静になっている。自らの立場を改めてみるために、神に成れない現実を
自ら口にしているのだろう。
「大戦に負け、信仰が一時崩壊した隙を突くことが出来た末に起こしたのが
新たな世界を作ると言う馬鹿げた話を信じた奴らを使った謀。
ここまで試せなかった現人神の存在が本当に可能なのかを確かめるための謀だが・・・
失敗に終わった。そこにいる奴らのせいでな。」
新興宗教事件・・・。確か、国學館に入学した時期に毛利先生の口からその言葉を聞いた。
その詳細が一体何だったのかは分からないが、兼兄達の活躍で解決した事だけは
確かに聞いたはず。
「あの時期・・・いや、その少し前から日ノ本には様々な思想が溢れていてな。
多くの若者が自らが信じた思想を現実にしようと活発に活動し、そして命を落とした。
それを否定するつもりはない。思想というのは通れば正義。それが正しいか間違いかなど
置かれている状況でいくらでも変わるからな。だが、お前がやった事だけは
間違っていたとだけ言わせてもらおう。現人神を作り上げるために多くの若者を
犠牲にした。その事実だけは何においても悪だと言わせてもらおう。」
得物を強く握りしめる竜次先生には強い怒りが見て取れる。恐らく、かなり凄惨な事件だったのだろう。
「何に対して怒りをぶつけているのか分からんが、わしに怒りをぶつけるのはお門違いだ。
あれに私与えたのは知識とわずかな可能性。あれほどの惨劇に仕立て上げたのは主犯格の
奴だろう。欲深き奴ほど簡単な者はいないからな。ほんの少し手段を与えてやれば
後は勝手に働く。自らがわしの研究の材料にされているとも知らず、全く愚かな
奴らだったよ。」
言葉を開けば開くほど、竜次先生は怒りを増していく。どれほどの出来事がその事件で
あったのだろうかと一瞬興味をそそられるが、今は日ノ本の闇に触れている場合じゃない。
「・・神に成れないなんてずいぶん弱気な発言だな。」
ここは戦場。語り合う場ではない。懐かしい思い出も、過去の苦しみも。この戦いに
勝利を収めなければ清算は出来ない。
「そうだ。俺は結局は人間。神と共になろうとそれは変わらん。
だがな・・・神には成れずとも、王には成れる。」
忠行が冷静になった理由はいくつかあるだろう。自らの策が失敗に終わった事。
その上、俺達が力を取り戻し追い詰められている事。そして・・・自らの得意な
場所へ戻ってきた事で全てを動員した全力を出せる事。
「何も変わらん。わしは日ノ本の王に成る。貴様らを討ち果たしてな。」
奴が向けてきた触手。子孫の力。それを全て超えた先。
一度は光を取り戻した日ノ本の太陽が再び水平線に沈もうとしている。だが、そんなことは
させない。俺の力が上がっているのなら何より。化け物と言われようと何だろうと、
俺は前を向く。触手を躱し、空気を操作し奴に術式をぶつけようと試みる。
最速で放つことができる最大火力である黒牛を打ち放ったが、奴が向けてきた水柱と
ぶつかると、見たことの無い衝撃が辺りに飛び散った。
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