↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
582/639

第五百八十二話 伏せた切り札

暗い階段を下る二つの足音。止まることなく一定のリズムを刻み続ける足音は

一切の警戒を見せない。


「・・・・・・・。」


リズムを刻むにつれ、湿りを含んだ足音に変わっていく。会話は無く、

急ぎ目的を果すためにこの場に来たことが見て取れる。

何も語ることなく歩みを進める二つの足音は、少し時間のたった多くの足跡を

確認しながら目的の場所まで進む。

ここは龍脈。数時間前、龍穂達が訪れた龍脈であるが既に役目を終えている。

東京結界の破壊を抑えるため、現世に留まっていた泰国によって楔を打たれていたが

結局は破壊されてしまった。


「ここですか・・・・・。」


だがそれでも楔は打たれ続けており、機能は失われていない。

地下にたどり着いた一人である兼定は水が満ちた龍穴に近づき、ゆっくりと手を付ける。


「ここで何をするつもりですか?」


兼定に付いてきた春は何も知らされておらず、兼定の行動をただ見つめるのみ。

役目を終えた小さな龍脈に一体何の用があるのかと眺めていると、兼定は小さく語り始める。


「・・これが奴の狙いなんだよ。」


「・・・・・狙い?」


「忠行はクトゥルフの力を持ってはいたが、それはあくまで特定の術式のみ。

子孫達の力に頼っていたのが良い証拠だ。」


「・・あの大津波はどうなのですか?あれこそ、海の支配者たる力の象徴と言えるでしょう。」


「見た目こそすさまじいが、あれほど大雑把な術式はない。何せ、海を大きく動かした

だけで後は放置で済むからな。」


今までの戦いのほとんどが忠行が培ってきた技術のみでの戦闘だと語る兼定の言葉を、

春は素直に受けとれない。力を隠されてもなお、倒された現実はこの後に控える戦闘に

大きな影響を及ぼすと理解しているからだ。


「だからこそ、忠行は陸地を望んだ。長い年月を過ごした日ノ本の構造は理解しているからな。

まあ、恐らくだがクトゥルフが全てに対して”舐めていた”事も起因しているんだろう。」


「舐めていた・・・ですか。」


「宇宙の神からすれば、俺達は下等生物だ。式神契約とは名ばかり、技術提供を行い

手駒として扱い気満々だったんだろう。」


「なら・・・・・。」


「何故姿を現したかだな?そりゃ、十中八九”ハスター”の存在だ。

従者を通し、敗北を突きつけたと思っていたが式神契約を結び、自らと同じく

力を提供しただけの傀儡を倒しただけだった。そして・・・次に姿を現した息子には

本体が付いていると知れば、黙っているわけにはいかないだろう。

ルルイエまで出して自らの封印を解かせ、次こそは真なる敗北を叩きつけその存在を

消そうとでも思っているんだよ。」


軽口を叩く様に語る兼定の姿を見た春は、ここまで何とか保ってきていた精神がとうとう

崩壊を始めたのではないかと不安を覚える。


「・・大丈夫?」


その不安を心の中に封じ込められることが出来ず、抽象的な疑問として口に出した後、

ここまで何よりも体を張ってきた男に対して最大限の侮辱であると後悔する。


「・・安心しろ。自棄になっている訳じゃない。だが・・・少し”疲れたな”。」


兼定が放った疲れたという言葉の意味。たった一つの言葉に過ぎないが、

春にはその重さが十二分に伝わっていた。業と呼ばれる皇直属の部隊。その長を務める

兼定にとって皇の命は自らを犠牲にしてでも守り抜駆ければならない存在であり、

無力のままに倒れたベットの上で、皇の一族のみ且つ命を落とすことが条件である

術式の力によってその命が散った事を知らされたのはあまりの屈辱だろう。


「・・・・・まだ戦いは終わっていません。」


同じく報せをその体で受けた春もまた、大きく精神を削られていた。

だからこそ、兼定も自らを引き連れ別行動をとったのだろうと察していた。


「皇は命を落としましたが、上位存在となってでも我らを導こうとしておられます。

あのお方が現世に留まられている限り、我らの役目は終わってはいません。」


心も・・・そして体も。いつ再起不能になってもおかしくはないこの男を今すぐにでも

抱きしめてやりたい。だが、もしそんなことをすればここまで張り続けていた

緊張の糸が絡み合い、こすれ合った糸がともに断ち切れる。


「・・・・・分かっている。」


戦場から離れる事でこのわずかな時間で現実逃避を行う。それを黙認する事が

春が兼定に送ることができる唯一の処方箋だった。


「話しを戻そう。奴は自らの野望を叶え、そして失敗した。

皇の命は奪えたが、人間以上の上位存在として現世に留まった。その事実は忠行にとっても、

クトゥルフにとっても予想外であり、痛手だった。

王に成る手筈を失った忠行はさらに藻掻こうとするだろうが・・・先にクトゥルフの

堪忍袋の切れる方が先だ。」


「・・海に還るというのですか?」


「そう言う事になる。むしろ、俺が奴の立場ならそうする。

海に引かれ、深海の力を十分に発揮できる状況は厄介だが、それは不利に見せかけ

忠行が仕掛け続けていた策が全て崩壊する事を示している。」


あの戦場は忠行の努力の賜物であった。既に海を敷いている事で龍脈を確保しつつ

いざとなれば触れた者を死に至らせるほどの雨を打ち込むことが出来た。

だが、それをしなかった理由もまたハスターの存在が大きい。

雲に変えられた水の操作性は低く、龍穂がその場にいればすぐさま吹き飛ばされるだろう。

不意を突ければ出来なくも無かったが、誰かが戦場に残り忠行と戦っていたため不意を

討つ準備を行う事が出来ず、皇の命を奪ったはいいが神として現世に留まった事で

日ノ本に害をなすものへの弱体化を受けた忠行には死の雨を作り出す選択肢は無かった。


「せっかく海を離れたんだ。奴が頼りにしていた龍脈を逆利用させてもらおう。」


懐から取り出した一枚の札。兼定の文字にしてはあまりに丁寧な印が刻まれた札を

龍穴に落とした途端、定明が打った楔が消えてなくなっていく。


「・・東京結界ですか?」


「それは無い。あの方の術式の方が上だ。今更過ぎる。」


出は一体何をするつもりなのかと尋ねるが、兼定は答える事は無い。

隠し、塞ぎ、今度は利用する。最後の策を、兼定は植え付ける。


「・・仕掛け続けていた策が崩壊すると言いましたね?もし、あなたが戦うのなら

陸地と海。どちらがやりやすいと思いますか?」


術式が組まれたことを確認した春は尋ねる。


「陸地だ。不意打ちとはいえ、俺達があの一瞬であれほどの傷をおった。

あれはクトゥルフの力だ。深海の王の名は伊達じゃない。」


「そう・・・ですか。」


「龍穂達の事が心配なんだな。力を取り戻したとはいえ、あいつでもまともに打ち合えばマズイ。どれだけハスター本来の力を使えるかがカギになるな。」


二人は階段へと足を向け、また一定のリズムを刻み始める。

彼らの仕掛けた策。それは・・・兼定が仕掛けることができる至高且つ、最も危険な切り札。


「・・これで終わりだ。全て・・・出し切ったからな。」


兼定は口を開くが、隣に立つ春には少し大きな声量で言葉を放つ。

反響した声が辺りに響かせると、再び湿った足音を奏でてその場を去っていった。


————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


全体に指示を送り、一足先に海へと向かう。俺が先に向かい猛達を助け、

状況を確認した俺が全体へ共有し、隙が突けると思った部分に人数をかける。

海という奴の領地内で戦わなければならず、皇を戦場に運ぶ都合上どうしても白達は遅れてしまう都合上どうしても俺が先頭を走るしか選択肢が無かった。

そしてそれ以上に厄介なのは果たして奴が隙を見せるのかどうか。

先ほどまでは俺達が立ち回りやすい陸地で戦えたが、奴が岸から離れた場所で展開していれば

奴が支配した海を駆けるか、それとも引き付けるかを選択するしかなく

前者は確実に無理、後者は奴が選択するはずがない。

それでも隙を作るには奴と戦える俺が全力で隙を作り上げるしかなく、それには

純恋達の援護が欠かせない。既に先ほどのような展開に追い詰められているように思えるが、

全員が力を取り戻している今、やりようは必ずあると踏みんで空を駆けていた。


「・・・・・・・!!!」


海まではそれほど離れていない。高度を上げればすぐさま猛達の様子を伺えると

踏んでいた俺の期待が崩れ去る様な景色が広がる。

猛達が守っていた海辺が全て崩壊し、瓦礫が岸に押し寄せる姿だった。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。