↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
577/639

第五百七十七話 日の出づる国

皇を始末したと笑う忠行の背後。俺達が見つめる視線の先にはしてやったり顔の皇の姿が

写し出されていた。


「ふ・・ふふっ・・・!!!」


ただの足止めではないと、その表情が訴えかけている。


「・・・・・・なんだ?」


歓喜していた忠行だが、皇の表情を見て様子を一変させる。あの様子だと

今までにない経験の前に警戒をしている。それも当然だ。奴は今まで皇の心臓を

突いた事などなかったのだから。


「”詠唱は既に終えている”。”条件も整った”。」


未だ動けない俺の耳元で千夏さんが囁く。


「どういう・・・ことですか・・・・・?」


「先程皇自身がおっしゃいました。あの方のご先祖様は人ではなく、神であると。

皇の力発展した日ノ本ですから元をたどれば神であると言う方もいらっしゃいますが、

信仰を受け続けた皇の魂は神と呼べるまで昇華されています。」


この日ノ本で生まれ、そして過ごしてきた民であれば皇が日ノ本の王であることを

自然と認識する。強い信仰は無くとも、無意識に王と認識する事で信仰を集めていた

皇の魂が神と同等であることは紛れもない事実。


「それは・・・・・。」


それとあの姿がどう関係しているのか尋ねようとしたその時。ふと横を見た俺の視界に

戦場をじっと見つめている純恋の姿が写る。


「っ・・・・・!!」


母親を亡くし、父親とも離れて暮らすことの多かった純恋は皇と過ごす時間も多かった。

大切な人のはずだ。そんな人が心臓を貫かれている姿を見れば悲しむ所では無いはず。

俺の視線に気が付いた千夏さんは顔を上げ、桃子に視線で指示を送る。

心配そうな表情で純恋の肩に手を置きながらゆっくりと俺の近くに寄せてくれる。


「す、みれ・・・。」


純恋の心の痛みを分けることはできない。だが、寄り添う事は出来る。

俺の横に来た純恋は力無く座り込み顔を寄せるが、その手には行き場の無い力が込められていた。


「だい・・・じょうぶだ・・・・!」


何かある。無策で命を奪われるような人じゃない。今はそう伝える事しか出来ない。


「・・・分かってる。」


純恋は・・・強がる。ここは戦場、だけではない。命を懸けた者への悲しみは

何よりも冒涜になることぐらい、純恋は理解している。それでも・・・押し込んだ悲しみは

心の中に傷として残ってしまう。


「あついから・・・よせてくれ・・・・・。」


生傷は空気にさらされるとひどく痛む。出来理限りで良い。今できた傷に織地をかぶせる事が

出来るのならと、それらしい理由をつけて近づける。

抵抗することなく、身を寄せてくるが顔を寄せる事は無く皇の姿をじっと見つめて離さない。


「・・・・・最後まで見るで。」


触手は心臓を刺している。死は免れない。もし、長らえるとしてもそれは忠行と同じく

化け物としてだろう。それか・・・・・。


「・・そういう・・・ことですか・・・。」


千夏さんの言葉を理解し、思わずつぶやいてしまう。


「・・そうです。」


神は人間より遥かに長い時を生きる。魂が神へ昇華されたのなら、体を動かすことはできる。

神は心の臓で生命維持をしているのではなく、信仰を力に変える。

それ以外の弱点も神によっては持っているが、皇の場合はどうなのだろうか?


「これ以上、足掻いて何になる。例え貴様が神なろうと、私には敵わん。」


未だ立ち上がる皇に対し、諭すように言い放つが蓆を余裕を見せている。

確かにこの状況からの逆転の一手は・・・相当な術式ではないと難しい。


「・・我は日ノ本の王。民と歩む者。決して私が貴様に勝てずとも、

我が後ろに歩む民達が貴様を仕留める。」


胸から血を流す皇は赤黒くにじんだ装束の首元をまくり、首にかけた何かを引きちぎる。


「それが王である私の役目だ。そして・・・・・これらは有事の際、彼らの前を

歩くために作られた王の証。」


その手には・・・八尺瓊勾玉。偽物ではなく、確実に本物だ。偽物は圧倒的な

神力を秘めていたが、近くにいた俺達や忠行でさえも分からない程に神力は感じさせなかった。

だが、皇が手にもした瞬間。晴明が持っていた物とは比較にならないほどの力を

有している。


「・・・・・こちらを。」


前に立っていた二人はいつの間にか隣に立っており、その両手には二つの宝具が携えられている。一つは完璧に磨き上げられた円盤。光を跳ね返し映し出すその世界は現世を

捉えているはずだが、ここから見ても分かるほどに全く異なる世界が映し出されている。

そしてもう一つ。現代では考えられない程質素で粗悪な剣に見えるが、

その刀身に秘められた力は神代の香りを濃厚に感じさせる。

粗悪である理由は単に風化した事もあるが、太古の時代に怪物と対峙した英雄によって

剣としての役目をすでに終えており、日ノ本の栄光の証として、そして儀式の媒体として

役目を果たす時を静かに待っていた。

肺や心臓を貫かれた皇が立っていられるのは胸に携えられていた八尺瓊勾玉が

そのすさまじい神力で二つの臓器を役割を補填している。それは千夏さんの言う通り、

祝詞の詠唱が終えられ、術式が発動している証拠だ。


「ここは我らが領地!!我の大地!!!その栄光を阻む者は何人なりともこの私が許さん!!!!そのためになら民を護るための盾となり、そして栄光へと切り開く剣となろう!!!」


これは・・・・・聞いたことがある。確か三道省合同会議に出席するため、

初めて神道省に向かった時の事。日ノ本の存亡を揺るがす大戦時、火の海と化した

東京にいる民達を護るため、皇が張った結界が中に詰める民達を護ったと説明を受けた。

きっと皇はそれを使おうとしているのだろう。だが、それだけではこの窮地を

乗り越えられない。


「我らの大地を汚す者は許さん!!この命をもってして・・・ここで貴様を

討ち果たそう!!!」


先代の皇はその力を使った末に生き延びている。命を持ってして発動した術式では

無いのだろう。それでも炎を雨嵐から民達を護った。そんな力を自らの命を使って

発動してしまえば・・・勝機はこちらに傾くかもしれない。


「”日出づる国(ひいづるくに)”!!!」


皇が口にしたのは日ノ本の名の由来。その瞬間、傾きかけていた太陽が強い光を放つ。

太陽の光が辺りを包み込むと、俺が敷いた陣と式盤が突然効力を失う。

何が起きたのかと確認するより先に、その理由が辺り一面に現れた。

俺の陣と式盤を上回るほどの結界や陣が現れる。それは皇が作り出した術式。

その中にいる俺達の体には先ほどまで底を尽きていた力が再び戻ってきた感覚にあふれていた。


「ぐっ・・・・・!!」


一方忠行を見ると、広げていた触手と曼荼羅が委縮する様に体の近くに寄せ始める。

明らかな警戒というよりも、その身にすさまじい縛りが課せられたように見える。


「・・皇の一族のみが扱える術式だ。三種の神器を媒体とし、日ノ本を仇成す者を討つための

結界を作り上げる。その結界はありとあらゆるものを防ぎ、内部いる朝敵の力を抑え込む。

そして・・・・・共に未来を歩もうとする日ノ本の民達に生気を与える。

仮に皇が落ちたとしても、我らがいれば日ノ本は再び立ち上がれる。

そう決意した皇のみ扱える・・・決死で、一度きりの切り札だ。」


傷ついた体が癒える事は無いが、神力や魔力が元に戻れば回復を行う事も可能。

まさに全てを覆すほどの切り札であり、これであれば勝機はこちらに大きく傾く。


「暗く、闇にその身を閉ざし続けた貴様に我ら太陽の民が撃ち負ける事などあり得ない!!!

その身に刻まれた大罪、そして野望!!!それら全て焼き尽くし、我らは再び

光の道を歩もう!!!!」


恐らく・・・日ノ本の王を名乗る事。そして目の前にいる敵を日ノ本に仇成す者と口にする

事が発動条件なのだろう。これだけの力を持つ結界なのでその他細かい条件があるかも

知れないが、今はそんな事どうでもいい。

皇の言葉が辺りに響くと、後方に控えていたはずの白や業が辺りを囲むように現れる。


「さあ・・・どうする?」


状況は一変。逆転を果たした。圧倒的な優勢を目にした皇は、再び口角を上げて

ニヒルに忠行に言葉を投げかけた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。